15,異世界依頼三種盛り2
俺は物をスペースバッグに入れると、その足で第三の依頼をはたしに行った。
・穴掘りの手伝い
【ゴミを埋める穴を掘ってくれ】
シンプルすぎる依頼に、これは冒険者がやることなのかと疑問を抱きつつ、だが俺はある予感がしていた。
常識的に考えて、こんなしょうもない依頼があるはずない。
ならばこれはゴミ穴と言いつつ実は裏の意図があるのでは?
そして提示されている報酬とは別の素敵なものが裏の報酬として手に入るのでは?
そう考えてこの依頼を受けたのだ。
一見みすぼらしいものには裏があると相場が決まっているんだ、俺にはわかる。
「じゃあ、早速穴を掘ってくれ、溜まりに溜まってるんだ。人間が三十人入るくらいの穴は最低でも必要だな」
町外れの空き地で老爺が俺にいい、シャベルを渡す。
俺はシャベルを受け取り、待つ。
老爺は立ち去っていく。
……あれ?
特別な出来事は?
――しかし何も起こらない!
「まじすか。まじで本当に穴掘るだけですか」
いやあ、ははは。
絶対裏があると思ったけどなかったね。
相場とかセオリーとかそんなの全然関係ないね。
みんな、深読みはやめよう。世の中は思ったより単純だ。
「はー。でもやるしかないか」
面倒くさいが、うけてしまったものはしかたない。
こうなったらさっさと穴を掘って終わらせてしまおう。
シャベルを地面に突き立てて、掘る。
シャベルを地面に突き立てて、掘る。
シャベルを地面に突き立てて、掘る。
今の俺の能力ならそこまで大変ではないが、さりとて結構土は硬い。
今はいいけど、大きい穴を掘るなら、だんだんきつくなりそうだ。
……あ、そうだ。
ちょうどいいスキルがあったじゃないか。
クラス【呪術師】のスキル、【軟化の呪】
これを掘りたい場所の地面にかけてやると。
「おお、成功だ。効くんだな、物にも」
ものは試しとやってみたが、有効らしい。
こういうのって戦闘用ってイメージだったけど、別に使えるときが決まってるわけじゃないしな。なんでも試してみるのは大事です。
そしてクラス【鉱員】のスキルで対地特効を身につけているので、相乗効果で――おお、掘れる掘れる。地面がプリンみたいに柔らかく掘れる。
複合スキルでなくても、組み合わせて使うことで単品を遥かに超える効果を生み出せる、これも複数クラスを持つ強みだな。
これをアースプリンコンボと名付けよう。
「ひゃっはー!」
プリンになった地面を全力で掘りまくってるとなんだか楽しくなってきて、どんどんどんどん掘ってしまった。
気付くと日はくれていて、そして穴もすっかり掘り尽くされていた。
巨大な穴を見た瞬間はっと俺は我に返った。
なんだろう、冷静に考えると、穴を掘ることの何が楽しかったのかわからない。
わからないけど、あの時確かに俺は笑っていた。
じゃあ、それでいいじゃないか。理由なんてわからなくても。楽しい時間はたしかにそこにあったのだから。
……って、何ポエムってるんだ俺は。
はやく依頼主の元へ報告しに行こう……ん?
とそのとき、冷静になった俺の目に月明かりに照らされ輝く物が見えた。
なんだ?
穴の中の光っているものを、慎重に採掘して全容を掘り起こす。
それは短剣だった。
鏡のように磨かれた表面が宵闇の中でもはっきり目立つ。
切っ先は丸まっているけど、でも土に埋もれていたのにこの輝きは尋常じゃない。結構な価値の品って気がする。ラッキー、もらっていこう。
短剣を回収し、依頼主の元へ行って穴を掘り終えたことを報告する。
あまりにも早いと信じていなかった依頼主のじいさんだが、無理矢理穴の場所まで引っ張っていったら顎を外しそうなくらいに驚いていた。
何はともあれ、これで依頼は終了、短剣のことを話したら、そんなのいらん、ゴミと一緒に埋めるかあんたが持っていけと言ったので持っていった。
まあどうせ埋められるならいいよね、俺がもらっても。
そんなわけで、依頼は全て終了。
久々に活動して疲れたので、報告は明日にして宿屋に帰った。
穴掘り前に宿親父に渡していた兎の料理は終わっていたようで、熱々のシチューをゆっくり味わい、俺はぐっすりと深い眠りについた。
翌日報告をすると、ウェンディが早いと驚きつつ報酬を渡してくれた。まあパラサイト・ゴールドに比べるとそこまでではないけど、でもこういうふうに何かを為してお金をもらうのも悪くないな。
労働の喜びってやつに目覚めちゃいそうだよ、俺としたことが。
コキュトスウルフの宝玉や昨日の短剣など、ちょっと価値のありそうな道具を手に入れられたので、そういうのを冒険者はどうしてるのかをウェンディに聞いたのだが、この町には珍品に目がない貴族がいるらしい。
珍しいものを見つけたら、是非買い取らせてくれと冒険者や冒険者ギルドに日頃から言っているらしく、冒険者ギルドの冒険者には取引したことのある者もいるようだ。
ちょうど俺も珍しそうなものを二つほど持っている。
実用性はあんまりなさそうだし、売ってもいいかもしれない。それに、コレクターなら他にも珍しいものを持っているだろうし、そういうのが見られるなら面白そうだ。
この世界なら凄い特殊なレアアイテムとかあるかもしれないし、弱いんだよねそういうのには。
というわけで、俺はウェンディに教えてもらった貴族の家へと向かっていった。