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後日談・いつか攻略しようと思っていたものを攻略するお話(前編)

お久しぶりです、本編の後日談です。

本当は完結一ヶ月後記念更新をしようと思っていたのですが、延び延びになって特に何もない時の更新に……。

まあ、何もない日こそが記念日ということで、よろしくお願いします。


 青い鍾乳石が天井から多数伸びている。

 水滴がぽたりぽたりと、断続的に石灰質の地面に落ちて鉄琴のような音を奏でている。

 そんな天然の音楽に囲まれながら、俺は急勾配な下り坂を進んでいた。


「ここを抜けたら第四層っぽいね」

「なかなか悪くない雰囲気ね、ここも。あそことは違った趣きだ」


 俺と言葉を交わしたのは、アンホーリーウッドを共に解放したヴァンパイア・エピ。

 綺麗に巻かれた二つ結びの銀髪を揺らしながら、洞窟を凛とした佇まいで歩いている。


「ここもシックスワンダーの一つらしいからね――っと、モンスターだ」


 俺たちの前に、黒い針金のような体毛を持つ狼が現れた。狼は氷の弾丸を吐き出して来るが、俺は黒銀の剣で一払いして氷を防ぎ、スキル『強撃』によって硬い体毛ごとモンスターを斬ってしとめた。


「この階層の敵はまだ余裕。さあ、四層見てみよう」

「ええ。行きましょう」


 エピが頷き、俺たちはローレル郊外にあるパイエンネの迷宮を、奥へと進んで行く。




 アリーの故郷から巨人の塔へと行き、そこで俺は元の世界に戻るための秘宝を手に入れ、一度戻った。

 それから一ヶ月ほどたった頃、アリーとルーが新たな世界間を移動する秘宝を用いて俺の家にやってきた。


 予想外のことに慌ただしく出迎えたのだが、とりあえずそれから、俺は再びこっちに戻ってきた。

 帰ったのもこっちの世界の人達からしたら結構急だっただろうし、まずは色々な知り合いに挨拶をしておこうかと思い。


 アリー達に元いた世界を観光してもらうのは、それが終わってからにしようかということになった。まあ、いつでも双方を移動できるようになった以上、もう慌てる必要はまったくないしな。

 そんなわけで、家族にちょっと出かけてくると言ってこっちの世界に来たのだ。


 あ、家族はもちろん笑顔でオーケーした。また稼いで来いそして貢げと言って。

 稼いでも黙っておくからな!


「これが、第五層」

「人工的な形をしてる場所だな」


 俺とエピは、周囲をぐるりと見渡した。

 急勾配の坂を下りた先には、十数メートル四方の立方体の部屋様の空間がある。

 立方体の横の壁には、一方向に一つづつ通路が有り、通路の先には、今俺たちがいるところと同じような空間が見える。

 それがいくつもいくつも続いている。


「どこにいるかわからなくなりそうだ。こういう構造のダンジョンって絶対迷う自信があるよ俺は」


 言いながらエピと相談し、とりあえず右に進んで行くことにした。


 と、いうように現在俺はエピとともに、ローレルにあるパイエンネの迷宮を奥へ奥へと進んでいるところだ。

 なぜそうなったかというと、話は単純で、こちらに戻ってきてこれまであったことを少しセンチメンタルにも振り返っていた時、ふと思い出したからだ。


 パイエンネの迷宮、攻略しようとしてたのに途中だったじゃないか!


 そう、こっちの世界に来て初めての町ローレル。そこにある迷宮を以前攻略していた俺だが、その時は第二層までしかいっていなかったのだ。

 だが今なら、最下層までも行ける気がする。あの頃よりだいぶ強くなったから。

 一度頭に浮かぶと、何があるのか気になるのが人のさが。これは攻略するまで戻れないと思ったのだ。


 で、それを思い出した時が、ちょうどエピと話をしていた時だった。 

 じゃあ、行こうか?

 そういうことである。軽いノリである。どっちも暇人である。

 それにもちろん、エピなら戦力としても十分だ。


 第四層までやって来たが、ここはモンスターよりもダンジョンの構造がやはり厄介だ。

 同じような部屋が延々と続いて、意味がわからなくなってくる。

 もう二十個以上の部屋を歩いたと思われる時、エピがルビーのように赤い目を俺に向けてきた。


「ねえエイシ、一つ聞いていい?」

「どうぞ。なんでも」

「どっちにいけば奥に進める?」

「わからない」

「今どのあたりにいるか、わかってる?」

「わからない」

「何ならわかってる?」

「わからない、何も」


 呆れた目を俺の顔に向け、エピは肩を落とした。


「そういうエピは、どうすればいいかわかってるの」

「わかるはずがない」

「おいー」

「わはは。……まあ、わからないんじゃ仕方ないな。適当に進むしかない。行きましょ?」


 まあ、結局の所その通りだ。

 幸い、二人とも体力は結構ある。ヴァンパイアと、寄生人間だから。あまり体力ありそうな肩書きではないな……。


 などと思いつつ、俺たちは当てなく歩いて行く。三十個目の部屋に入っても、次の階層への道は見えない。

 四十個目の部屋に入っても、次の階層への道は見えない。

 五十、六十……。


 何個目か数えるのをやめたとき、ついに俺は気付いた。


「そうだ、あの手があったじゃないか。ここは動物の勘に頼ろう」

「動物? ……あー、あの子ね」


 エピが得心のいった顔で頷く。

 そう、動物の勘。俺は力を込めて召喚のスキルを使う。呼び出されるのは、もちろん、ハナだ。


「きゅ~」


 いつも通り愛くるしい鳴き声をあげながら、もこもこしたウォンバット風の召喚獣ハナが光の柱から現れる。

 くるくると俺たちの周りを短い足で走り回ると、ハナは足元で止まった。


「ハナ、下に向かう出口調べられないかな」

「きゅきゅ」


 ハナは頭を高く上げて鼻をひくひくさせる。

 その様子を俺とエピがしばらくじっと眺める。エピがなんとなく耳の裏を細い指でくすぐる。


 と、ハナが歩き出し、部屋に四つある通路の一つの前で立ち止まった。


「ついてこいってことね」

「多分。行こう」


 それから、俺たちはハナに先導されて進んでいく。

 右、左、前、前、前、右、前……。


 そしてついに、他と様子が異なる部屋にたどり着いた。


「部屋の中央に穴があるね」

「ええ、ここに行けってことか。よくやったぞー、ハナ。褒めてやろう。偉い偉い」


 エピが首をわしわしとなで回すと、ハナは気持ちよさそうに目を細めた。


 そうして俺達は穴を降りていく。

 ロッククライミングの下りのように、ゴツゴツした岩を足がかり手がかりに数メートル下っていくと、地面に足がついた。

 そこからは再び天然の洞窟のようになっていて、かなり広い岩の空間がだらだらと下り坂になっている。

 緩やかなカーブを俺たち三人は進んで行く。


「アンホーリーウッドは最近どう?」

 

 歩きながら俺が尋ねると、エピは軽く微笑み、


「問題はない。何もなさ過ぎてエピもやることがないくらい。スケルトン達が張り切って色々作ったり修理したりしてるからなー。そういうわけだから、たまにはアンホーリーウッドの外に行ってみようと思った」

「あー、だからここに」

「ええ。ここもシックスワンダーってことだから、何かあるかと思ったけど、町とかそういうのはないみたいね。モンスターも野生の獣みたいなのばかりだし」

「うん。割と普通の洞窟って感じだ。階層ごとに全然雰囲気が違うところは普通じゃないけど。結構進んだから、そろそろかなり奥の方まで来たとは思うんだけど――」


 その時、横穴からモンスターが姿をあらわした。

 赤く燃える髪をもつ、鬼のようなモンスターだ。手には炎の鞭を持っている。


「結構強そうだね」


 と言いながら、戦闘準備をする俺の横から、エピが一歩前に出る。


「フレイムギガース。高位の精霊に近いモンスターね。でも、多分これがよく効くはず」


 自信ありげな口調で言ったエピの目が怪しく光る。

 と、フレイムギガースの動きが止まった。


「チャームの魔眼。脳筋相手にはよく効く。それじゃあ、エピの命令に従いなさい」


 巨大な炎の鬼はうんうんと頷く。微妙にかわいい仕草だ。


「とりあえず、どこかに行って、そのまま半日くらいおとなしく座ってること。わかったかい?」


 はい、わかりました!

 とでも言っているようなきびきびした動きで、フレイムギガースは元来た横穴へと戻っていった。これは楽ちんだ。


「便利な能力だな~ヴァンパイアの力って」

「ふふっ、恐れ入ったか。エイシ」

「結構恐れ入りました――って、まただ!」


 気をぬいて話していると、また別の横穴から、別のフレイムギガースがあらわれた。

 エピがすっと出ようとした……のを、俺が止めて前に出る。


 思い出した。

 ヴァンパイアの力が羨ましいというなら、俺も持ってる。

 パラサイトの力は向こうの世界にいたときまで働き、そのおかげでレベルが上がっていたのだ。そして俺はヴァンパイアに、エピに寄生していた。

 世界を越えた寄生の力、せっかくだから今ここで使わせてもらう。



後日談は不定期に更新していきます。

更新した時はよろしくお願いします。

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