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最終話 寄生してレベル上げたんだが、育て忘れてたものがあったかもしれない


「ここは……!」


 広がる一様な空間がそこにはあった。

 見覚えのある雰囲気――。

 この世界で最初に来た場所に、そっくりだ。黒いという一点をのぞいて。


「ここが真の神域……なのか?」


 見渡す限りの黒い世界。

 見渡す限りの白だった神域とそっくりで、対照的。

 間違いなく、そこはこの世界に来た時、最初にいたルーと出会ったところと瓜二つだった。


 アリーは呆然とした様子で最上階を見ている。うんうん、そうなるよね。俺が神域に来た時と同じ反応で嬉しくなるね。


「とりあえず、見てみよう」


 真っ黒な空間を俺たちはしばらくあてどなく歩く。


「ルー? どうしたの、何か考え込んでるみたいだけど」

「んー。ここ、私のいた場所と似てるよね。暗いけど。同じタイプだけど、違うところっていうことかなあ。私の家には行けるのかな?」

「完成した神域って言ってたな、キュクレーさん。神域同士で関係はありそうだけど」

「うん。どうなってるんだろうねー……あ。これは鍵!」


 神域は宝物庫でもあると言っていたとおり、白い箱がおいてあった。

 その中には小箱や腕輪などとともにいくつか鍵があって、その中の緋色の鍵をルーがつまみ上げる。すると鍵が手の中で輝き始めた。


「ほらほら、アリー、見なさい見なさい。これが女神の力よ」

「その鍵は?」

「私にはこの鍵のもつ力が伝わってくる。これは、神域の鍵だよ。開け、我が神域への扉!」


 空中に向かって鍵を掲げると、扉がふっと空間に現れ、自然に開いた。それをくぐるよう促すルーについていくと――灰色の空間に移動した。


「……なんか微妙に違わない?」

「同じような場所ですけど、色合いが変わりましたね」

「私の神域じゃないんだけど……あー、もしかして、私気づいちゃったよん」


 ルーは元の黒い神域に引き返す。

 俺たちも戻り、そして俺も気付いた。


 おそらく、神域のような場所は複数あるのだ。外界と隔離された、秘宝そのものである特殊な力を振るうための空間。それらサブの神域がいくつかあり、それらはこの真の神域からアクセスできる。そういう仕組みになっているのだと。


 ルーが今度は菫色の鍵を手にして高く掲げる。

 すると――。


「来た!」


 ルーが嬉しそうな声をあげた。

 出現した扉の先には真っ白な空間があった。これは、完全に見覚えのある場所――。


「この世界で最初に来た場所だ」

「神域はやっぱりここにあったんだね!」


 見渡す限り白い世界。

 間違いなく、そこはこの世界に来た時、最初にルーと出会ったところだった。


「ここは私の神域だよ。ほら、世界斧もあるし、女神のローブもあるし、あと信徒からもらったお供え物も。ほらほら」


 神域の空間から、スペースバッグからものを取り出すように色々なものを出していくルー。この様子、たしかにここがルーの神域みたいだ。

 アリーもようやくルーが女神だと実感したのか、感心したように見ている。


「ああ、ルー様が斧を持った姿は、以前サロンで見たまさかり担いだ女神様の絵の通りです。本当に女神様なんですね」


 なんだその絵画のタイトル。


「ふふん、そうなのよ。まあ、くるしゅうない。私は心が広いから普通に接してもいいよ」


 言われるまでもなく普通に接していた気がするが、それは言うまい。


「いやー、エイシに無理矢理召喚されたときはどうなることかと思ったけど、無事に家に帰れたね。でも下界も結構楽しいし、どうしよっかなー。これからはこの鍵使って好きにここと下界を行ったり来たりしよっか。うん、それがいい」


 嬉しげに喋っていたルーは、ふと何かに気づいて視線を留める。


「……あれ、エイシ? その剣」


 俺は頷き、鞘から刀身が半透明のガラスのような剣を抜く。


「キュクレーさんが言っていた時空を切り裂く剣。完成された世界剣オールトだ。さっきの黒い空間にあったんだ。キュクレーさんが言っていたとおり」

「異世界への道を開くことができるという秘宝、ですね」


 アリーの言葉に俺は頷き、そして。


「元の世界に戻ろうと思う」


 そう言った。

 ほんの少しの間を置いて、アリーが静かに答える。


「そう。ですか」

「驚かないんだね」

「ええ。事情を聞いたときから、そうだと思っていました。だから話してくださったのだと。……それに、故郷に帰る方法が見つかったなら、帰ろうと思うのは自然なことだと思います」


 アリーは前から台詞を考えていたようにすらすらと言う。

 もっと前から考えていたはずの俺の方が、何を言っていいのか悩んでしまう。


「えっと……まあ、なんというか、とりあえず、この剣があればいつでも世界の間を行き来できるみたいだから、一回戻ってみるつもりなんだ。今向こうがどうなってるか、ちょっと気になるし、それに、もといた世界でこの世界の道具とかスキルとかがどうなるかってことも気になるし。だから、一度ここらで帰ろうと思ったんだ」


 それが、俺の思ったことそのままだ。

 いったん帰ってみるのも悪くない。またここに戻って来られるのなら。

 アリーは俺の言葉に深く頷く。


「だから――ええと。なんというか、また来たらその時はよろしく」


 別に今生の別れではないけど、後ろ髪をひかれるものがある。やっぱり世界を移動する、ということはそれなりに重く感じるからだろう。

 と、ルーがどたどたと目の前に走ってきた。


「帰るのはいいけど、必ず戻ってくるように! まだエイシと行ってないところたくさんあるし! やってないこともね!」

「うん。もちろん。多分向こうの様子をちょっと見たら割とすぐ戻ってくると思うよ」


 言うまでもなくこっちも気に入っている。戻って来ない理由がない。


「ようし、言ったね。来なかったら私の斧でまた連れてくるから、覚悟しとくよーに」

「いや、それむやみに使っちゃだめな設定じゃなかったっけ」

「ふっ、あんまりよくないけど私は神だから好きにしていいのだよ」

「はは……さすがですルーさん」


 得意げに斧を担いだルーは、やはりルーだ。この明るさにしばらく会えないと思うと、ちょっと寂しいかもな。

 そして俺は、アリーへと顔を向ける。


「エイシ様――本当のところを言います」


 アリーが一歩近づいてきた。

 唇を噛んで、拳を握りしめている。


「まだ、一緒にいたいと思ってます。エイシ様が異世界から来た方だとわかったら、いっそう強く。この世界のことをお教えしたいと、この世界で一緒に冒険をしたいという気持ちが強まりました。久しぶりに再会したのに、まだそんなに経っていませんし」

「うん、俺もまだしたりない。これで終わりにするつもりはないよ」

「そう言っていただけると嬉しいです。でも、やはり故郷に帰ることも必要ですよね。ネマンを助けるために私も戦ったから、その気持ちはわかります。だから、待ってます。私はエイシ様が再び訪れる時まで、色々なことをこの世界で行い、この世界のことをたくさんお話しできるようにしておきます。だから、今度会ったときは、エイシ様もエイシ様の故郷のこと、色々教えてください」

「約束する。必ず、また来るって。……あはは、大丈夫。そんなに深刻に考えないでよ。家に帰るだけで、いつでもここに来られるはずだから」


 アリーは両手で俺の手をつかみ、小さな光る石を手に握らせてきた。

 それは、ローレルにあるパイエンネの迷宮で一緒に冒険したときに見つけた宝玉。


「本当に、楽しかったです――お元気で!」

「うん。また、必ず!」


 俺は剣を両手で持ち、力を込める。徐々に剣から光が溢れ出していく。

 思い切って一振りすると、突風とともに黒い穴が空中に開いた。


 後ろを一度振り返る。

 アリーとルーが笑顔で見送ってくれている。

 俺も笑顔で手を振り、そして穴に足を踏み入れた。


 後ろで何かが閉じる音がした。振り返ると、もう空間の穴は消えている。

 剣で開いた空間は変色し様々な色がマーブル模様になっていく。そこでキュクレーに使いかたを聞いておいた通り、自分の部屋を念じる――すると、自分の部屋を窓からのぞいたように、揺れながら俺の部屋が見えた。

 そこに向かって行き、間にある薄膜を剣で切り開く。


 ――瞬間、周囲の景色は一変する。


 パソコン。

 ベッド。

 読みかけの本。

 ヘッドフォン。


 壁もドアも何もかも、見慣れた俺の部屋――俺は、元の世界の俺の部屋にいた。


「戻ってきたんだ。やっぱり、あの剣は本当に世界を切り裂く……そうだっ、剣とか手に入れたものは!?」


 急いでチェック――するまでもなかった。

 俺の手には刀身が透明な剣が握られていたままだ。

 さらに……。


「おお、スペースバッグもつかえる」


 前と同じ感覚でスペースバッグを使ってみたら、異世界で手に入れた様々な品を取り出すことができた。思い出の品も、実用性のある品も。


「だったらだったら、スキルも?」


 魔力弾を壁に向かって出そうとしてみると、小さな光弾が飛んでいき、壁にぶつかってぽわんとはじけた。


「スキルまでしっかり使えるじゃないか」


 完璧だ。

 これなら。このスキルと異世界の品物があれば。


「こっちの世界でも、寄生生活満喫できるぞー!」


 俺は堕落した希望に満ちて、部屋のドアを開け放った。






「いや~こんなに優雅に暮らせるとはねえ」


 パソコンの前でアーロンチェアに座りながら、俺はほうと息を吐いた。


 元の世界に来てからはや数週間がたった。

 こっちの世界でも異世界で手に入れた力やものが使えるとわかったので、それを使ってあれこれ試していると、すぐに時は過ぎていった。


 まず一つわかったことは、こちらとあちらでは時空がずれているということだ。どうやら、向こうで結構な時間を過ごしたけど、こちらに戻ってきたのは俺が消えた直後らしい。なので別に騒動にもなにもなっていなかった。


 もう一つわかったこと、それはスキルは使えるが、向こうの世界のようにはいかないということ。魔元素がほとんどないためか、かなり威力や性能は落ちてしまう。とはいえ、この世界で不思議現象がおこせるというだけで、こっちじゃ十分すぎるくらいだけど。


 そして、それ以上に現実的に助かったのは、向こうで手に入れた財産だ。

 《パラサイト・ゴールド》で手に入れたお金を宝石などにして持ってきたのだが、それのおかげで大金ゲットだぜ、という感じである。

 出所不明のものではあるが、なぜか弟がそういうものをうまくさばいてくれたので現金化することができた。……普段どんな仕事してるんだ、弟よ?


 そんなわけなので、家の人には事情は話している。

 実際魔道具やスキルを目の前で見たこともありおおよそ信じてくれた。まあ、おおらかな家族でよかった。暢気ともいう。


 そんなわけで、こっちの世界でのこともあらかた片づき、今は暢気に暮らしているというわけだ。


「んー、喉渇いたな。なんか飲も」


 俺は部屋を出て、階段を降りてリビングに行った。


「あれ? 父さんに蓮、なんで家に? 有給でもとったの?」


 普段なら仕事に行っている時間のはずなのに、父と弟が家にいる。二人で楽しそうにテーブルでコーヒー飲みながらテレビ見てるんだけどなぜ?

 父と弟がこちらを向いた。


「ああ。父さん会社辞めたから」

「……は?」

「あ、エイシ君、俺も俺も。昨日辞めたからよろしく」

「…………はあ!?」


 ちょっと待て、何を言ってるんだいきなり。

 俺は混乱した頭を抱える。


「ええと……冗談、だよね?」

「冗談なわけあるか。なあ蓮」

「ああ、父さん。だって、エイシ君が大金稼いでくれたんだからもう働かなくていいじゃん?」

「そういうことだ。父さんも老後の心配がなくなったから、即アーリーリタイアしてきたぞ。はっはっは」


 父と弟が声をそろえて笑う。

 なんとも楽しそうな光景だなあ。


「……って、はははじゃない! 思い切りよすぎでしょ! てか俺の金に頼るき満々なの!?」

「なんだ、文句があるのか? お前がパラサイトなニートしてたときでもなにも言わず養ってやったのは誰だと思っている」


 父がじろりと睨んでくる。弟も「そうだそうだ、その間も俺は働いてたぞ」と便乗してくる。


「うぐ……それを言われると言い返せないけど」


 言葉につまる俺に弟が追撃。


「それに俺が色々換金とかしたんだし? 分け前もらって当然だし」

「そういうことだ。家族は助け合うもの。息子の金は父さんの金だ」

「なんというガキ大将理論……いやたしかにこれまでのことはあるけど、その、仕事のやりがいとかはないの? 金のためだけに仕事してたわけじゃないでしょ」

「ないぞ」

「ないね」


 二人で断言。

 ダメだこの家族、早くなんとかしないと……いや俺にはできそうにない。


「ないわね」

「って母さんまで!?」

「うん。母さんもパートやめたから。養ってねエイシ」


 あげくのはてに母親まで俺に頼るつもりらしい。

 呆然とする俺を尻目に、家族はいい笑顔でリフォームの計画とか立てている。

 リビングには楽しそうな笑い声が響いている。


 かくしてこれまで寄生ニート生活を満喫していたエイシは、今度は逆に家族に寄生されるようになったのである。めでたしめでたし。


 ……じゃない! めでたくないから!


 なんというダメ家族、さすが俺と同じ遺伝子を持ってるだけのことはある。俺が寄生スキルに目覚めたのも必然だと今ならわかるね。


 と、そんな俺に家族がよってくる。


「なあ兄貴小遣いくれよー」

「エイシちょっと欲しい物があるんだよー」


 いけない、このままじゃ骨の髄までしゃぶられる。逃げなければ。俺はリビングを飛び出し、自室へと駆け込み後ろ手にドアを閉じた。


「はぁ、はぁ。なんて家族だ。さすが俺の家族、恐るべし」

「――エイシ様」


 そのとき、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。


「えっ、その声は――」


 目を向けた俺の前にいたのは。


「アリー!」

「はい。お久しぶりです、エイシ様」


 俺の部屋の中心で、アリーがにこりと微笑んでいた。

 今日は髪を下ろしているアリーに俺は駆け寄る。


「アリーもこっちに来られたの?」

「はい。フェリペ様がキュクレー様と協力して、エイシ様が使った世界を行き来するための秘宝をもう一つ作成したのです」

「へー。すごいなフェリペ。いやー、それにしても久しぶり。数週間ぶりかな。あ、でも時間がずれてるんだよ、この剣で世界を移動する時って」

「いえ、同じくらいですよ。私も数週間ぶりです」


 意外だが、ちょっと聞くと、新たな秘宝はさらに改良されていて、時間のずれが毎回変わる不安定性も排除できるとかなんとかフェリペとキュクレーが話していたらしい。それで、時間的にも同期しているようだ。これならさらに行き来しやすくなったな。


「フェリペも気合い入れてただけあって、さらに何か掴んだんだな。……アリー、そっちの調子はどうだった?」

「私はかわりありません。ネマンの問題も解決しましたし、相変わらずあちらこちらに行く日々です。エイシ様は……なんだかお疲れのようですけど、大丈夫ですか?」


 アリーが心配そうに眉を寄せた。

 俺は苦笑いしながら答える。


「いやあ、ははは。色々大変なんだよそれが。ああ、でも、アリーと話したら癒されるね。ずっとうちにいてくれればいいのに」

「ずっとうち……!」


 アリーが目を大きくした。


「いえそれはまだ早いような……でもせっかくですし、しばらくなら……」


 しばらくでもアリーがいたらいいかもなあ。というかこっちじゃ他に行くところもないだろうし、どこかに泊まるのも簡単じゃないだろうしな。

 と、思っていると、アリーがじっと俺を見つめていることに気づいた。


「……ずっと、待っていたんですよ」

「え?」

「すぐまた戻ってくるって言っていたので、待っていたんです。ですが、待ちきれなくて、私の方から来てしまいました」

「あ、そういえば、いや、ごめん。そこは本当に。こっちの世界で向こうの世界で手に入れたものをあれこれやってたら時間が飛ぶようにすぎちゃってさ。それが結構面白くて」


 アリーは仕方ありませんと言うように首を振る。

 そして、パチンと手を合わせた。


「いえ、もういいです。こうして会えましたし――」


 そうしてアリーは一歩前に出て、前髪を横になぐ。

 なんだか、久しぶりに会ったからかな……アリーってこんなに綺麗だったっけ。

 前から美人だったけど、なんかそれとは少し違うように見える。近くで、こっちの世界で見てるからか。もっと、さらに近くで顔を見たい。


「アリー、俺も会えて嬉しい。だからもっと近くで」

「私もです、エイシ様」


 アリーが握った手をおろし、さらに顔を近づける。


「ずっと、一緒にいていいん――」

「エイシー!」


 その時、突然俺の部屋の中の空間に亀裂が入った。

 と思うや否やルーがそこから姿をあらわす。


「ルー! ルーも来たんだ」

「そうそう、アリーと一緒に来たんだけど、異空間で移動するのに手間取っちゃったんだよー。それよりエイシ! また会えたね!」

「ああ、相変わらず元気そうわっ!」


 と、返事をする間もなくルーがタックルしてきた。

 首にかじりつくように抱きついてきて。


「会えて嬉しいぞよ」


 といって、頬に唇を押しつけてきた。

 ……。


「……って、ええーーー!?  な、何をいきなりルー!?」

「えへへ。いやあ、なんというか、いなくなって初めてわかる大切さというか。久しぶりに会ったら、嬉しくなっちゃった」


 ちょっと頬を赤らめ、ルーはそんなことを言い出す。

 そして、抱きついたルーはいつものように目のやり場に困るふくを着ていて、かなりダイレクトにその豊かな胸が押しつけられて。


「こ、これは――」


 やばい。

 なんだかちょっとうおおおって気分になってきそうだ。


「……ねえねえ、やっぱりエイシがいないと退屈だよ。だから、しばらく一緒にいるつもり。ってことでよろしくぅ!」

「ええ!? ルー様なにを! 全然そんな様子無かったというか、なにも言ってなかったじゃないですか!? そ、それなら私だって……!」


 大きく深呼吸をすると、アリーがルーと逆サイドからタックルして抱きついてくる。


「ごふっ!」


 結構威力が容赦ない。

 アリーは顔を赤くしながら、俺に訴える。


「エイシ様もずっと一緒にいてくれっていいましたよね」

「いやなんか違う意味にとってないですか!?」


 ルーとアリーが左右から圧をかけてくる。

 くっ、どうすればいいんだ。

 ラッキーというかハッピーというか、嬉しいには嬉しいんだけど、こういう状況マジでどう反応すればいいかわからない。まったく経験がないからむしろ困る。


 ああパニックだよパニック。いろんなスキルを身につけたけど、こういうときにうまく対処できるスキルはないんだよ。

 でも何はともあれ柔らかくて暖かいなあ……ってそんな暢気にしてる場合じゃないか。


 とそのとき、部屋のドアが開いた。


「ちょっとエイシ君、なにドタバタやってんの。女の子の声も聞こえるしパソコンでゲームやってるならボイス音量小さくしてよ五月蠅いんだけど……ってええ!?」


 入ってきた弟の蓮がこの状況を目撃した。

 目が点になっていて、振り向いた俺と目があい固まる。


「ちょっ、父さん、母さん、エイシ君が女の子連れ込んでるんだけど! いやまじで!」

「ってなに言ってるんだ弟よ!?」


 階下から二人の足音が聞こえてくる。

 両サイドには、ルーとアリーがあららーという顔でくっついている。


 どうしてこうなった。


 俺はひそかに寄生して静かに暮らすつもりだったのに。優雅に暢気に暮らすつもりだったのに。頭を抱える俺だが、今更どうにも間に合わない。

 パラサイトは俺を暢気に暮らさせてくれるつもりは今のところないらしい。


 色々寄生してきたけど、こういう時にスマートに対応するためのレベルは全然育っていないことに今更気づきました。

 これからはこういうレベルも上げられるようにパラサイトしなければ……ワイワイと騒がしい家の中で、俺はそんなことで頭がいっぱいだった。


 

 

 (寄生してレベル上げたんだが、育ちすぎたかもしれない 了)

今回で『寄生してレベル上げたんだが、育ちすぎたかもしれない』の本編は最終回となりました。

書きたかったことを書き切って完結できたのは、応援してくださった皆さんのおかげです。ありがとうございました!



これにてエイシ達の物語は一段落ですが、その後の番外編的な話も今後書きたいと思っているので、またふらっと更新することがあると思います。

いつかはまだわかりませんが、その時はまたよろしくお願いします。


本当に、これまでありがとうございました!


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