表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/160

141,空へ


 あらゆる攻撃が通じないアダマの巨神に俺たちは手詰まりになる。

 だが相手は考えている間を待ってはくれない。巨神は魔法を発動し、ホールの上から魔力の矢が降り注いできたのだ。


「くっ!」


 俺たちは再び頭上に盾を作り出し、傘のように矢の雨を防ぐ。

 だがその魔力は強力で、盾が崩れていく。


「いっ!」

「ったぁ!」


 なんとか矢の雨の範囲から逃れたときには、ぼろぼろになった穴あき盾の隙間からの攻撃がいくらか命中して手傷を負ってしまった。


 距離をとって、癒やしのスキルと癒やしの魔道具――各種ポーションを使って傷を治す。

 幸い、戦闘不能になるほどの大怪我ではないが、しかしリソースを消耗させられてしまったことは事実だ。


「こちらがダメージを与えられず、むこうは少しずつ着実にダメージを与えてくる。いずれ、敗北は必至ですね」


 破れた肩の服からのぞく傷にポーションをかけながら、アリーは巨神を見つめている。何か策はないかと考えているようだが、いまのところないようだ。


「他にできそうなことは……」


 考えろ。

 物理攻撃も魔法攻撃も、呪術みたいな搦め手も効かない。

 アダマの説明を考えるなら、他のことも通用しないんじゃないかなと思う。

 じゃあ、なになら効くか……なになら……。


「あっ!」

「どうしました、エイシ様」

「もしかしたら、なんとかできるかもしれない。試してみるから、援護射撃お願い!」


 言うが速いか、俺はアダマの巨神の元へ突っ込んでいった。

 同時に背後から、魔力の弾やエンハンス系スキルで能力が強化される。

 巨神は迎撃してくるが、牽制の助けもあり直撃をさけ近づいて行くことに成功。

 そして俺は、素手でアダマの巨神に触れた。


「《モンスター・パラサイト》発動!」


 パラサイトスキルを発動し、即座に自身のステータスを確認する。

 見るところは、クラスとスキル。


【クラス】……アダマの巨神1 ……

【スキル】……根源の力……


 並んだこれまでのクラスやスキルの中から、新たに加わっているものを見つけた。

 これだ。

 これが、アダマの巨神が持っている力。きっとこれが、巨神の無敵の秘密。

 だったら、無敵には無敵をぶつけてやれば――。


 俺はスキル《根源の力》を用いて自身と剣を強化した。

 そして、力の限り振り下ろす。


 ――瞬間、光の粒子が飛び散った。

 剣で切りつけた部位が砕けるようにはがれ、巨神は手傷を負ったのだ。


「わあっ、エイシ様!」


 その様子を見ていたアリーから歓声が上がる。

 同時にガラスの向こう側で作業をしているルーも手を振って興奮している。


「よし、思ったとおり!」


 ダイヤモンドを加工するとき、粉末状のダイヤをまぶしたカッターで切断するという話を聞いたことがある、それを思い出したんだ。


 最も硬いものを斬るには、同じ最も硬いものを使えばいい。そして俺には、相手と同じ系統の能力を得るパラサイトの力がある。

 それで試してみたらと思ったけれど、大正解だったな。


「はっ! まずい!」


 アダマの巨神はしかしそれだけでは倒れなかった。傷を負ったことでこれまで以上に苛烈な反撃をしかけてこようとしてきた。腕から巨大な魔力弾を作り出し、それを一斉に――。


 撃てなかった。

 光のヴェールに押しつぶされるように、腕ごと押さえられて動きを封じられたのだ。

 気づいて顔を向けると、ルーがガッツポーズをしている。

 一撃入れて巨神の守りを破ったことで、ルーとキュクレーが封印装置の力を一部行使できたらしい。だが、巨神は完全は動きが止まらず、ヴェールをはねのけようとしている。


「その前に――これで、終わらせる!」


 《ウェポンエンハンス》《剛力》《防御貫通》《剣マスタリ》《軟化の呪》《アタックエンハンス》《力溜め》《バーサーク》《強撃》《武具強化》《雷速剣》――。


 攻撃力を増加させるスキルと相手の防御を弱めるスキルを総動員させる。

 そして剣を大きく振り上げ、巨神の脳天に目にも留まらぬ渾身の一撃をたたき付けた。


 刹那、ホールが黄金色の光で満たされる。

 アダマの巨神の体がひび割れ、裂け、血の代わりに最も根源的なエネルギーを吐き出しながら、崩れていく。

 そして一筋の咆吼だけを残し、あとにはわずかな土の塊が残された。


「やるー! エイシ!」


 どどどっと猛烈な勢いで走ってきたルーがタックルをかましてくる。俺が衝撃によろめいていると、キュクレーもやってきた。

 なんとかアダマの巨神を討った俺とアリーが傷の手当をしていると、二人も決戦のホールへとやってきたのだ。


『弱らせるだけでなく、倒してしまうとは。どうやったのだ、エイシよ』

「パラサイトのスキルを応用して相手と同じ能力――アダマの力を得て、攻撃に使ったんです」

『なるほど……硬いものを加工するときは、それと同じものを使うことがあるが、それと同様の原理を利用したのだな』


 キュクレーは低い声で唸り、加工している時のことを思い出しているように手で何かを切るような動作を行った。

 その隣では、治療と魔力の回復を終えたアリーが、満面の笑みでこちらを見ていた。


「お見事ですね、エイシ様っ。あのような強大なモンスターを倒してしまうなんて、以前と同じく……いえ、ローレルでのエイシ様よりさらにかっ……つよくなってます」


 なぜかアリーの語尾が高速化する。


「プローカイでも結構あれこれやったてたからね。多少はパワーアップしてないと苦労のかいがないというものだよ。ふっふっふ」


 格好つけて言いつつも、本心では苦労の分を褒められるというのはちょっと気持ちいい。

 まあ、正面切って目を見て言われるとちょっと、いや結構恥ずかしくなってくるけど。でもプローカイでは本当に結構キツい戦いもあったし、ちょっとくらいなら、褒められてもいいよね?


 と勝利の気分を満喫していると、キュクレーが口を開いた。


『これで、この塔は正常化した。汝らが言っていた頂上へもなんの障害もなく行けるだろう』

「あっ、そうなんだ。上へ行けるんだね! うおお、なにがあるかわくわくするー」


 ルーが体をうずうずさせる。

 もちろん、俺も聞いてすぐに好奇心が疼いてくる。


「よし、じゃあ行こう。頂上へ」


 巨神のいたホールを出た俺たちは、キュクレーに導かれ、フロアの端へとゆっくりと、大きな歩幅で歩いて行く。


 なんだか先生に引率される遠足の生徒みたいだなと思いつつ南東のあたりに連れて行かれると、奇妙な石版のようなものがあった。

 キュクレーがコンソールのようにも見えるそれを操作すると、前方に光の柱ができあがり、箱が上からおりてくる。


 これは……エレベーターか。

 それも魔法で動くやつみたいだ。こんなものまであるなんて、まじで進んでたんだな巨人って。世界を移動する道具や、魔道具を生産する施設まで作るくらいだもんなあ。

 うーん、凄い。


『この移送機に乗れば、一息に頂上付近まで行くことができる』

「へえ、便利なものがあるんですね」


 そして俺たちは、エレベーターに乗り込んだ。

 すぐにエレベーターが動き始め、重力を体に感じる。

 ――でもほとんど揺れないな。

 魔法で浮いてて、何かと接してないからかな、なかなか面白い――。


「わああ浮いてますよ皆さん! 浮いてます!」

「え――あ、アリー?」

「エイシ様、床が浮いてふわーってなってます!」


 なんかめちゃくちゃはしゃいでるー!?

 アリーが下を見下ろし体を揺すりながら、黄色い声を上げている。これは過去最大級の盛り上がりっぷりだ。


 言われてみれば、飛行機なんて見当たらなかったし、床が浮くなんて驚天動地だろう。ルーは元々空の上の神域にいたから、落ち着いたものだけど。


 それにしても――。

 アリーを見ると、小さい子供のように、手を振って大喜びしている。

 ああ、なんか見ている方がほっこりする。

 無邪気な様子に見とれていると、エレベーターは止まった。

 一気に数百メートルも上るのは気分爽快、また乗りたいところだ。


「ああ、終わってしまいました……」

「何往復でもいつでもできるから」


 肩を落とすアリーに言うと、アリーはほおを赤くして首を振る。


「い、いえ、そんな何回も乗りたいなんてそんな子供っぽくがっかりしてるわけじゃないですよ。ええ……でも、あとで何度か乗っちゃいましょう」


 照れたように笑い、すすっと早足で歩いて行く。

 その様子に笑いながら、俺たちもあとからついていき、先へと進む。

 エレベーターが行ける一番上。それは巨人の塔の最上階。

 天空回廊となっていて、壁はガラス質となっていて外の景色が見渡せる。


「おおお……すごい……」


 塔の下に広がる砂漠や、遠くの方の山や森やネマンまで見ることができる。雲が目線と同じくらいの高さを漂っているという絶景を満喫しながら、スロープ状の螺旋回廊を上っていく。


 そして五周ほどのぼったとき、回廊は終わりを告げた。

 突き当たりの真っ白な扉に行き着いたとき、直感する。ここが頂上だと。

 キュクレーが低い声で言う。


『ここが最上部だ。ここに汝らが求めるものがあるだろう。』

「キュクレーさん、ありがとうございました。キュクレーさんのおかげでこの凄い塔の一番上まで来られました」

『礼には及ばぬ。むしろ逆だ。汝らのおかげで、我は久方ぶりに目を覚ました気がする』

「あはは、キュクレー、もっとちゃんと起きて運動した方がいいよ」

『動いたのは、心だ』


 ルーの言葉にキュクレーは大まじめに返す。


「お、おうう……」


 そう来ると、うまく返せないルーだった。


「……これで、一安心なんですよね」


 アリーが胸に手を当て、ほっとした表情を見せ、確認するように続ける。


「これで、ネマンには未来においても災厄の脅威はなくなったのですよね」

『その通りだ。遥か古からの禍根を断つことができた』

「自分達の時代より後の脅威も断つなんて、未来の故郷まで守るなんて、やっぱりアリーは立派なネマンの貴族だね。誰も知らないから歴史書には残らないかもしれないけど、俺達は知ってるし覚えてる。そのことを」


 アリーが俺たちの顔をあらためて見つめ、微かに息を呑んだ。

 そして、ぺこりと頭を下げる。


「ありがとうございます。それだけで、私にはもったいないくらいです」


 しばらく頭を下げ続け、ゆるゆると頭をあげると、キュクレーが低い声で言った。


『これならば、三叉矛もそもそも必要なかったかもしれぬな』

「そんなことはありませんよ。あれのおかげで、綺麗な湖の景色を見ることができましたから。ね、エイシ様」

「たしかに、水の中は凄く綺麗だったね。あんな光景は初めてだった」

「本当に……。ですから、よかったんです」

「ふうん、面白そうなことやってたんだなー。私も今度見に行こ。……さあて、それじゃあそろそろ行かない?」


 ルーが待ちきれないように、ドアに手をかけている。

 うん、そうだな


「そうだね。俺も待ちきれない。行こうか」

『行くか。ならばもうこの先に案内はいらないだろう。ゆっくりと見ていくがいい、ここが巨人の塔の精髄だ』


 キュクレーがそう言い、踵を返した。


「ありがとう、キュクレーさん。あれ、少し借りていきますね」

『返しにくる時を待っている』


 俺が最後に声をかけると、そう返して、キュクレーは螺旋回廊を下っていく。


「じゃ、開けるよ」


 見送った俺たちは扉の方へ向き直り。

 互いの目をみあって合図をし、扉を押し開いた。


10/10に『寄生してレベル上げたんだが、育ちすぎたかもしれない』の4巻が刊行されますが、カバーイラストが公開されました!

活動報告に書影をのせましたので、興味のある方はそちらの方もご覧ください。


内容的にはネマンに起きた異変と巨人についての話が中心となっています。また呪術師や妖精といった者達がネマンにやって来て……というエピソードが書き下ろされ、それ以外にもあれこれ加筆修正されている感じでお送りいたします。


書店で手にとっていただけると幸いです。もちろん通販などでも手に入りますので、よろしければ是非読んでみてください!



また、現在、【お忍びスローライフ希望します(30代男性/最強の家庭教師/前職:英雄)】という小説を小説家になろうで書いています。

一章が完結し二章更新中ですので、よろしければ読んでみてください。

urlは

http://ncode.syosetu.com/n4757dv/

です。

元英雄がお忍びでスローライフを送っていく物語です。英雄時代の知識や物品を利用してスローライフを送りつつ、世界に危機が訪れた時でもスローであるため、別の英雄を育成していく。そうやって平和に暮らそうとする、そんなお話です。


(【失伝魔法で生徒がインフレしすぎそうですが、絶対平和に暮らしてみせます ~賢者の子の家庭教師~ 】を大幅に改稿して、改稿後の内容にあわせてタイトルを変更したものです。これまでの続きから読み始めても話はわかるようにしていますし、もちろん1話から読み直しても楽しめると思います)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ