表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/160

140,最終決戦

 ネマンを未来に渡って守るため、神域へむかうため、そして元の世界への鍵を手に入れるため。


 アダマの巨神と戦うことを決めた俺たちは、その準備を行っている。といっても、回復のポーションや魔道具、武器の手入れなどのいつもと同じものだが、強敵と戦っておくのだから、これは絶対に大事だと冒険のベテラン、アリーの言葉である。たしかに、始まってから魔力がキレたりしたら目も当てられない。


 とるものもとらずルーを助けに出たので、いったん牢獄から館に戻り、準備ができ次第封印地へ出発することにした。

 そうして館でアリーやルーとともにしていた準備をも終わり、最後の確認もほぼ終わったその時、俺は口を開いた。


「実は――ここの頂上には、次元を切り裂く剣があるらしいんだ」

「次元を切り裂く剣?」


 アリーが首をかしげてこちらを向いた。


 俺は頷く。

 そろそろ話すころだ。

 アリーなら言いふらしたりはしないだろうし。俺もどうするか決めたから。


「うん。次元を切り裂き、別の世界へといける剣なんだ」

「別の、世界? え? そんなものがあるというのですか?」


 アリーが何を言っているのか理解できないというように驚いた顔をする。

 ルーはというと、ほー、という顔で静観している。


「実は俺は、その別の世界から来た人間なんだよ」


 一時の静寂。

 パチパチと瞬きするアリーは、穴の開くほど俺の顔を見つめていた。


 驚いて言葉も出ないアリーに、俺は自分の事情を話した。

 別世界から来て、寄生スキルを得て、そしてここにいることを。

 その過程でルーの正体についても話した。もちろんルーに確認はとった上で。


 全部聞き終わったあとでもなお、アリーはまだ目をぱちくりしている。


「え、えーと。凄く驚いたのですけれど。……遠い国から来たと行っていたエイシ様は、実は遠い世界から来ていた、秘宝の力でこちらに来た別世界の人間ということなのですか」

「うん。まあ、そういうこと。黙っててごめん。でも別世界の遠い国出身だから嘘じゃないってことで許してください。……さすがに言っても信じられるかどうかわからないし、変な奴と思われるかもと思って黙ってたんだ」

「たしかに……俄には信じられないことだと思います」


 と言いつつアリーがじいっと俺に顔を近づける。

 鑑定するように、しっかりと見つめて、首を振った。


「やはり違いがわかりませんね。見た目もこの世界の人間と変わりません。でも、この塔を見て巨人と出会った今なら、そんなこともあり得ないとは言えませんね」

「俺も驚いたよ。別の世界の人間が自分と同じような姿形で。まあ、ちょうどよかったけどね。浮かずに済んだ」


 もしこれが、異世界の一般人がグレイみたいな感じだったら一目でおかしいと思われてしまっただろうからな。寄生だってなかなかできない。


「色々なスキルを使ってたのは、寄生というスキルがあったからなんですね」

「うん。アリーのスキルもそれで使えるようになったんだ」

「精霊魔法を使っていましたものね。少しすると、新しいスキルを身につけていたのは、そんな便利なスキルがあったからなんですね。羨ましいです」


 本当に羨ましそうにアリーが俺を見る。

 魔道具やダンジョンが好きなくらいだし、未知のスキルを色々使えるってことも、やっぱり心ひかれるところがあるんだろう。


「かなーり助かってるよ。……ええと。なんというか、そういうわけで、異世界人だけど、あらためてよろしく」

「はい。もちろんです、どこのどんな人であろうと、エイシ様がエイシ様でなくなるわけではありません。異世界人だから不審だなんてそんなこと、とんでもないです。むしろ珍しい方と知り合いで嬉しいくらい。こちらこそ、あらためてよろしくお願いいたします。……それにしても、目の前にどんなダンジョンより珍しい不思議なものがあったのに気づかなかったのは冒険者として不覚ですね」


 なんだかレアモンスターみたいな扱いされてません?

 珍獣枠に収められてる気がするのは気になるけれど、とりあえず受け入れられたみたいでよかった。


 ……あれ、ルーがなんかむすっとほおを膨らませてる。


「あのー。ちょっといーい?」


 ルーが俺たちの視線を遮るように間に入り、特にアリーに向かって、びしりと指を立てた。


「私、女神様なんだけど! それにも触れてくれないかなー……あがめていいんだよ!」

「あ、はい。ルー様が女神様だったなんて驚きです。どうりでそっくりだったんですね、神殿にあった女神像と」

「……」

「……」

「……なんかあっさりしてない?」

「い、いえ。もちろん、私も何度も礼拝しましたし、敬愛しています、女神様のことは。ええ、でも、ルー様はルー様という感じですし、存在することすら予想もしてなかった異世界の住人と、元々知っていた女神様では、意外性に差があったといいますか」


 アリーは正直に感想を述べる。

 適当にごまかして持ち上げない誠実な性格だ。

 でもたまには嘘も方便だと思います。


「むむむ納得いかないー! くっそー、神域にいって神様らしいところ見せるからね、覚悟しといてよアリー!」


 方便を使われなかったルーは頬を膨らませ、屋敷に声を響かせたのだった。


「……と、まあそれはいいとして」

「よくありませんけどー」


 じろりとにらんで唇を突き出してきたルーの顔を押し戻し、俺は続ける。


「問題は、アダマの巨神が倒せるかどうかってことだね。実際、こんな塔を作る巨人達が手を焼いたってくらいだから相当強いはず」

「そうですね。災害と同義、いくつもの町やダンジョンを破壊した、ネマンの地震を起こす、強そうなことばかり言っています。きっと非常に強力なモンスターに違いありません」

「しかも体があのアダマっていうやつでできてるんでしょ? どんな感じなんだろう」


 アダマ、それはダンジョンや秘宝を作る際、わずかに使われた触媒のようなもの。

 この世界ははじめ、あらゆるものの大元であるアダマという大地のみがあり、それからあらゆるものが分化して今の世界になったらしい。だがほんのわずかな古代の大地がアダマのまま残っていて、それはすべての性質をあわせもつ全能の物質だという。


「キュクレーはそんなこと言ってたけど全能物質ってどんなもんなの?」

「さあ……最も堅く、最も柔らかいなんてことも言ってたけど、多分いろんな物質の特徴をあわせもってるんじゃないかな。すべての源だから、固いものの性質も、柔らかいものの性質もあるってこと。実際どんな感触かは想像できないけど」


 俺たちは全員そろって首をかしげる。

 どんな感触か? そもそも柔らかさだけじゃなく、においとかも色々混じってるのかだろうか。なんてことが考えるほど気になってくる。


「まあ、行ってみればわかるさ。……キュクレーさんも準備終わったみたいだ」


 俺たちがいた室にキュクレーが入ってきた。

 そして俺たちは出発した。


「それじゃあ、行きましょうキュクレーさん」

『こちらだ』


 装備をチェックし、持ち物を確認した俺たちは、アダマの巨神退治に出発した。

 例の牢獄の近くに行き、そこから封印設備へと向かう。

 牢獄と同様地下に作られているそれの近くまで到着したら、準備開始。


「それじゃあ、まずは封印施設の中へ行く方だね。やろうか」

「はい!」

「うん!」


 いざ、穴掘り大作戦を敢行だ。

 さっき牢獄に穴を掘ったのと同じ要領で穴を掘り、封印を制御する設備のまさにその部屋へ、直接入り込んだ。


「じゃあ、ルー、キュクレーさん、こっちは頼みます」

『承知した』

「まかせなさーい! そっちもちゃんとやるんだよー!」

「お二人の頑張りを無にしないためにも、やるだけのことをやります。ご武運を」


 巨神を封印している設備を操作するため、キュクレーとルーが俺たちと別行動をする。

 もちろん、ルーならこの塔にある様々な秘宝や魔道具をうまく扱えるからだ。

 封印の力を発揮している設備を二人が操作し、力を弱めているところを俺たちが叩く。そして、力が弱まったところで再封印するという計画だ。


「よし……行こう、アリー」

「はい。エイシ様」


 そして俺たちはアダマの巨神がいる場所へと向かう。


 キュクレーから伝えられた通りに、天井の高い回廊を進んでいくと、スロープ状に上に伸びる通路があった。

 そこを上っていくと、さらにぐるっと回り込む通路のようになっていた。進んで行くとその先は広くなっていて、ホールのようになっている。


 ギィオオオオ――。

 そこにたどり着いた瞬間、腹の底から揺さぶられるような咆哮が体を貫いた。


 何が起きた!? 

 と言うより早く、俺たちは何が起きたかを知る。


 その巨大なホールの中に、一つの巨大な泥の塊がいた。

 数十メートル以上ある黒光りする泥団子のようなものに、顔のような陰が浮かんだり消えたりしながら流動し、うめき声のような咆吼を時折上げている。


 ギロリ、と落ちくぼんだ目のようなものがこちらを向いた。


「あのあの、これがもしかして、アダマの巨神」

「そうに違いありません。凄い力を感じます」

「俺にはわかる。絶対やばい。気合い入れていかないとね」


 ずるずるずる……と泥の塊が動き出す。

 同時にそれは変形し、腕のようなものが生えていく。

 ドーム状の土の塊から腕のようなものが数本伸びたり再び土の塊に吸収されたりしながら、目のような陰をこちらに向ける。


 なんとも言いがたい奇妙な姿――神は神でもルーとは大違いだ。

 ホールを震わせる咆哮を上げるアダマの巨神は、土の中に半身をつけて泳いでいるように、巨大なホールの中を悠然と滑っている。


 ホールの奥を見ると、壁の一部にガラスのようなところがあり、その奥になんらかの装置とルーとキュクレーの姿が見えた。

 なるほど、こういう風に封印設備と、巨神を封じるための広い空間がリンクしていたのか。回り込んで遠回りしてきたけど、なるほどね。

 あそこに見える三角錐みたいな妙な形のものが、封印装置ってわけだな。


 無事準備はできてるらしい。この前の土人形みたいなのに妨害されないよう、封印の効力がでるよう、あとはこっちで俺たちがこの巨神の相手をすればいいだけだ。





 俺たちがホールに足を踏み入れると、アダマの巨神が顔をこちらに向けた。顔、といっていいのかわからないけど窪みのような目を、こちらに。

 多腕を奇妙に動かしながら、じっと睨んでくる。

 なるべく刺激しないように俺たちはゆっくりと歩いて行く。

 瞬間、空気が鳴動し、巨神の腕の一つから火花を伴った雷のエネルギー球が放出された。


「やっぱり凶暴だった!」


 俺は魔法の盾を、アリーは岩の盾をスキルで作り、雷球を受け止める。なんとか止めることはできたが、盾は一撃で砕け散ってしまった。


「すごい威力ですね」

「うん、手が痺れる――長期戦はやりたくないね」


 話しながらアリーは魔法力を高めるナイフを手にし、力を集中。岩を槍状にして、巨神へと放つ。

 放たれた岩槍は巨神に命中する。


「よし、あたった! けど……」


 攻撃は間違いなく命中した。

 アダマの巨神の顔に見事に当たった。

 だが、しかし、傷一つ着いていない。本当に微かな傷も。動きすら止まらない。


「固いですね」


 だったら――俺はアリーの方を見る。

 アリーが頷き、俺に《エンハンスオール》のスキルを付与し能力をアップ。俺は強化したばかりの剣を持ち、《みかわしのステップ》を発動しながら巨神に近づいて行く。


 魔力の矢や弾や刃を複数の腕から出してくるが、みかわしの効果で動きを察知してひらりひらりと避けることができる。そして俺は巨神に十分接近し、目のような部位に――他のところが固くても、目なら柔らかいはずだ――連続で切りつけた。


 ギィン、という痺れるような音とともに、剣は弾かれた。

 反撃の腕をなんとか剣でいなすが、勢いは打ち消せずアリーのそばまで吹き飛ばされる。


「いたた……」

「大丈夫ですか、エイシ様!」

「うん。直接殴られてはいないから、これくらいなら平気。だけど――目まで硬いなんて。パワーアップしたこの剣でも通らないって相当だよ」

「剣自体も鋭く、魔法の力もあって、それでもダメということは、あのアダマの巨神は、魔法にも魔法以外にもとても強くて固いということですね」

「うん。そういうことになるね。これがアダマ――根源物質の力か。さて、どうしようか」


 柔らかいところ狙いでも通じないなら、直接攻撃がきかないとして――そうだ!。


「これならどうだ。《蟲毒の呪》!」


 相手に毒の呪いをかけ、体力を奪うスキル。

 毒系モンスターと呪術師の合わせ技で覚えたスキルだ。

 普通の攻撃がきかないなら、こうい搦め手で体力を削ればいい。


「さあ、じわじわと生命力を奪ってくれよう……う? うわっ!」


 バチバチっと俺の手の周りに火花がスパークし、手が見えない何かに弾かれる。


「どうしました!」

「呪術が弾かれた。バチバチって雷みたいな感覚がして」


 言いつつ巨神を観察するが、案の定なんの変化ない。

 ……呪いや毒に対してすら耐性があるっていうことか。


「呪術も通用しなかったのですか――そうすると……」

「全てのものの根源で形作られた存在。ゆえに全ての攻撃が通用しないってことかもしれない」


 俺たちは黙りこくる。じゃあいったい、どうすればいいんだ?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ