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139,穴掘り再度

 作ったぷよぷよのベッドで気持ちよく眠った翌朝、俺は気分爽快で目を覚ました。

 頑張って……たいして頑張ってもいないかもしれないけど、ともかく作った甲斐があった。これは巨人の塔以外でも使いたいね。


「おはよー」

「おはようございます」


 寝室を出ると、廊下でアリーと顔を合わせる。アリーも起きたところらしい。


「寝心地よかったね、あれ」

「はい。よく眠れて疲れもとれました。いいですね、ゼリーベッド」


 心なしかアリーも爽やかな表情の気がする。

 いい気分で俺たちは食堂へと向かって朝食をとった。


「ルーさん、まだ眠っているんでしょうか?」

「多分そんなところじゃない? 寝心地よかったから」


 食べ終わってもルーはやってこない。もう起きたのかもしれないけど、まあ多分寝てる方だろう。

 俺たちは武器や道具の手入れをしたり、キュクレーの手伝いをしたり、巨人の塔の中に作られていた川で涼んだりして過ごしていた。

 のだが……。


「ルーの姿がないな」


 そんなことをしている間でも、ルーの姿が全く見えない。

 さすがにもう昼過ぎだし起きているとは思うけど。


「ルー、入るよ!」


 アリーとともに、ノックをして部屋に入った。

 が、中はもぬけの殻。誰もいない。


「どこにいったんでしょう」

「さあ……その辺を遊んでぷらぷらしてるんだろうとは思うけど」


 ルーのことだからそんなもんだろう。

 と思ってその時はさして気にしなかったのだが、しかし、日が暮れて夕食を食べて床につくくらいの時間になっても、ルーは戻って来なかった。


 これは、さすがに少し心配かもしれない。

 夜遊びするところはこの町にはなさそうだし。

 キュクレーが襲われたこともある。

 俺たちは集まって、話し合うことにした。


『娘――ルーがいないというのか』

「はい。朝から一度も姿を見ないのです。自由行動をしてるかと思っていたのですが、ひょっとしたら何かアクシデントがあったかもしれないと。キュクレー様、何かご存じのことあるでしょうか」


 アリーが問うが、キュクレーは首を振る。

 どうやら誰もルーのことを見ていないらしい。


『見てはいないが見ることはできる』

「え? どうやって……あっ! あれか! 神眼機!」


 そうだ、この前作った神眼に+アルファした効果を持つ魔道具。あれがあれば、たしかにルーを探すことも可能だ。


「キュクレーさん、よく覚えてましたね。早速探しましょう」


 俺たちは神眼機を引っ張り出して、その機能を発動させる。

 昔を記録することもできるが、もちろん神眼と同じように現在の離れたところも見えるので、巨人の塔の中を網羅的に走査していく。

 画面に集中しながらじっと見ていると――。


「ストップ! とめてください! もっとアップでお願いします」


 広く見るためにひいていた画面が寄っていく。

 そして、はっきりと映し出されたものは。

 鉄格子の独房に閉じ込められているルーの姿だった。


「ルー様、なんで牢獄に?」

「どういうことだろう。自分から入っていくとは思えないし……誰かに入れられた?」

『おそらく、落とし仔の仕業だ』

「落とし仔って、あの土の化物の」

『そうだ。ルーは秘宝『女神の真髄』を持っている。秘宝にはアダマが含まれ、強大なエネルギーを持っている。その波動を察知し、そのエネルギーを利用して巨神本体の封印を解こうとしたのではないか』


 ああ、なるほど。

 封印に使っているのも強力な魔道具だろう、秘宝級の。

 だからそれをとくにも同じような力が必要で、あらゆる魔道具に対して親和性を持っているルーの魔力か魔元素かが、落とし仔達には使えそうに見えたというわけか。牢屋に入れてじっくり力を利用しようってわけだな。


 ある程度の知能、あるいは本能的な行動かもしれないが、合理的な選択を行うことは、アダマの巨神はできるということだな。


 俺は再び神眼機に映し出されたルーの姿を見る。

 ルーは助走をつけて鉄格子をガンガン蹴ったりしている。


「……一応元気そうではあるね。すごく」

「はい。とりあえずお体は大丈夫のようです。そこは安心ですけど、早く助けないと何をされるかわかりません」

「うん、すぐ行こう。ルーにはなにもさせてやらない」


 俺たちは押っ取り刀で館を飛び出した。


「こっちですか? キュクレーさん」

『そうだ。牢獄はもうすぐ……ここだ』


 町よりもだいぶ上方へ移動した階層に、ルーが幽閉されている牢獄があった。

 地下に、というか塔だから床の内部になるわけだけど、そこに作られた牢獄ということだ。


「よっし、中へ」

『待て』


 入り口から入ろうとした俺とアリーをキュクレーが止める。


『この牢獄の鉄格子は特別製だ。スキルを使った巨人でも脱獄できないように、魔法的な強化も施された合金を使っている』

「……鉄じゃない?」

『慣例でそう呼んでいるだけで、別の金属だ。汝の持っている黒銀の剣よりも固いだろう』


 それは骨が折れそう……さらに剣が折れそう。


『さらに房だけでなく、牢獄自体の入り口、ブロックごとの出入り口などにも同じように作られた鉄の板があるのだ。これらをどうにかする手段を考えなければならぬ』

「なるほど……凄く固い扉や格子か……たしかに、ルーの怪力でもびくともしてなかったね」


 スキルを駆使すればいけないかなあ。色々スキルはあるし、それをうまく使ってできるだけ早く安全に地下の牢獄に侵入する方法。

 ……地下の?

 そうだ!


「エイシ様、そのお顔は何か閃きましたね」


 はっとした俺の様子を素早く見てとり、アリーが言った。


「正解。格子が固いなら、別のところからいけばいいんだ。天井や壁は普通の建材のようだった。それなら……地面を掘ればいい。掘って、天井から侵入すればいいんだよ。ほら、俺たちって得意でしょ、穴掘り」


 アリーはぴんときた顔で頷く。


「そうでしたね。……はい、やりましょう!」


 早速、神眼機を見ているキュクレーのガイドでルーが閉じ込められている場所の真上に位置取る。


 そして俺はスキル《軟化の呪》を地面に使った。

 そこにアリーが土の精霊魔法を使い地面を抉っていく。

 そう、どちらも土の扱いは得意分野だ。


「とても操りやすくなってます」


 軟化の呪で柔らかく扱いやすくなった地面を魔法で抉り、さらに抉られた土をシャベルやツルハシのように使ってさらに深く抉っていく。すると、カコンと硬質な音がした。


「独房の天井です」

「よし、それじゃあ最後にもう一発、思いっきりいこう!」

「はい!」


 俺の呪術にあわせ、アリーがこれまで抉ってきた土を圧縮した岩石弾を天井にぶつけると、激しい衝突音とともにぽっかりと穴が開いた。


「やりましたね、エイシ様」

「うん。ナイスコンビネーション。行こう」


 俺たちは拳をこつんとあわせ、そして穴から房の中へと飛び降りた。


「いよっ……無事だった? ルー」

「わあっ! エイシー! アリー! キュクレー! びっくりしたー。いきなり凄い音がして天井が崩れたと思ったら落ちてくるんだもん」

「そんな落とし穴に落ちたみたいな言い方を。ちゃんとびしっと着地したでしょ」

「遅ればせながら、助けに参りました。おけがありませんか?」


 アリーがルーに駆け寄ると、ルーは見せるように両手をあげてぐるりと回転する。


「大丈夫大丈夫。私は無傷だよ」


 ルーの体を見てみるが、特に怪我などは見当たらない。

 魔力的なエネルギーを吸収されたとかそういうこともないようだ。どうやら間に合ったらしい。

 よかったとほっと胸をなで下ろす俺達に、ルーがいう。


「なにせ外には出られなかったけど、こいつらは倒せたから」


 ルーが床を指さした。と、そこには土の残骸が……落とし仔だ。


「早起きしたから気持ちのいい朝の散歩をぷらぷらしてた時にさ、気持ちよさそうな芝生があったからそこで横になってたら、うとうとしてきちゃってさあ。気づいたらここにいたんだよ。寝てる間にさらわれたみたい」

「いや途中で気づけよ」

「そこはさすがに、何か魔道具とか使ったんでしょ。多分。じゃなきゃいくら私でも目覚めるしー」


 本当だろうか? 

 なんだかただ寝てただけのような気がする……。


「ま、それで目覚めたらここにいて、落とし仔達に取り囲まれてたから、私のパワーでおりゃーと破壊してやったんだけど、でも鉄格子には鍵がかかってて、鍵は中にはなくて、それで出られなくて困ってたんだよ。だからよかった、助けに来てくれて。ありがと!」


 ルーはぱちりとウィンクをする。

 ま、なにはともあれ、無事でよかった。鍵は落とし仔の仲間が外にもいたってとこだろうな。仲間がボコボコにやられて危険と判断して逃げたか。


「そうだったんですか。とにかく無事でよかったです、ルー様」

『その通りだ。それに、怪我の巧妙かもしれぬ』

「怪我の功名?」

『この独房の近くに、巨神を封印するのに使った施設がある。おそらく落とし仔どもが汝を連れてきたのもそのためだ。そこもここと同じかそれ以上に固く防護されていて、落とし仔達が目覚めたなら中に入ることが困難かもしれないが、うまくやる方法が見つかった』

「旨くやる方法……なるほど、穴掘り大作戦ですね」

『そうだ。そして、ルーの力が再封印を行う際に役立つであろうことも巨神の行動でわかった。我だけでなく、ルーの力もあわせれば、アダマの巨神への道を開き、そして再封印も間違いなくできるはずだ。汝らが、巨神の動きを抑えることができれば』


 キュクレーの言葉は、迫る決戦にはやるようにいつもより早く高い。

 俺はアリーとルーの顔を見て、目で頷いた。

 ――いこう。

 キュクレーのみならずルーまでちょっかい出された。ここまでされて、おとなしく引き下がってるわけにはいかない。

 攻め込むうまい方法も思いついた。だったら、この機に乗じて一気に決める。


「よし、これで巨神をやっちゃおう」


 提案すると、三者は息巻く俺を力強く見返し、そろって頷いた。


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