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133,女神の誕生

 だったら、もしかして。


「キュクレーさん――」

「あ、いたいた! おーい! エイシー!」


 大きな声が林に響く。

 振り返ると、そこにはスカートと二つに結んだ髪を揺らしながら走ってくるルーの姿が。


「こんなところにいたとはびっくりしたよ。なにやってるの?」

「魔道具作り。結構いいものができたよ。ルーこそなんでここに」

「暇だからぷらぷらしつつ高いところへ行ってたら、たまたま二人を見つけたのさ。魔道具ってどれどれ?」


 神眼機をのぞき込むルーは、ほーほーとフクロウのように鳴きながら感心している。


「ほー。こんなもん作ったんだ。さっきも作ったばかりなのに大変だねえ」

『我には果てしない時間がある。手間などあってないようなものだ』

「なんとなく、ルーと似てますね、発想。ルーも暇つぶしにぷらぷらしてるし」

「失礼な。こう見えて忙しいんだから。たまの休暇だよ休暇」


 ルーが目を細めてこちらを睨んだ。

 そのまま再び神眼機をのぞき込むと、ルーは首をかしげた。


「なんだか私の家に似てるね」

「それ。そう、それだよ。これやっぱり、ルーのあの場所だよね?」


 やっぱりルーもそう思ったか。

 これは間違いなく、関係している。

 と思ってキュクレーの方を見ると、動きを止めルーの顔をじっと見つめていた。

 どうしたんだろうか。ルーになにかあるのか。


「なあに? どうかした?」

『汝はもしかして――あの時の娘か』

「へ?」


 ルーが眉根を寄せる。


「ルーって変わってると思ってたけど、巨人にも知り合いがいたのか」

「いや~……知らないけど。私の方は。巨人にそっくりさんがいたんじゃない?」

「いや、それはないだろう。巨人と人間じゃだいぶ見た目違うぞ」

「って言われてもなあ」


 ルーはさらに眉間にしわを寄せてキュクレーの顔を凝視する。だが、どうやってもおぼえがないのか、両手をばんざいしてお手上げ状態となった。

 どうやら本当に知らないらしい。ルーは巨人に好かれる顔……ってわけでもないだろうし。


『汝の方は覚えていないだろう。死んでいたのだからな』

「……はい?」

『がけから落ちたか、木から落ちたか、ある日我が汝の死体を――正確には死ぬ寸前の汝を見つけたのだ。心臓が止まって間もなく、というところだった。蘇生処置のため、我が持っていた秘宝『女神の真髄』を汝の心臓として入れたのだ』


 え?


 なんかさらっととんでもないこと言ってない?

 この人が、死にかけのルーに心臓を入れた?

 ルーの方を向くと、目を閉じ、うなりながら、何かを考えこんでいるように眉間にしわを寄せているが――。


「はっ!」


 突然かっと目を見開いた。


「そう言われてみれば、そうかも。多少は魔力あったけど、あるとき突然力が強くなって、魔力とか魔道具とかが大得意になった気がする。ええと、ううん……ああっ!? そういえば、キュクレーの顔、どこかで見たことあるかも」

『思い出したか、娘。汝に与えた秘宝の名は女神の真髄。秘宝中の秘宝、秘宝を使うための秘宝だ。扱いの難しい秘宝を扱うために作り出した秘宝であり、命と魔力の源泉でもある。本来我ら巨人が作り出した秘宝は我らですら扱い難い。まして小さき者ではとても扱いきれぬが、その女神の真髄があれば手足の如く扱えただろう』

「そういえば、ルーって魔道具とか秘宝はなんでもつかえるって言ってたね。あれって、秘宝が体に埋まってるからだったってことなの」

「なんか、そういうことみたい。うん、思い出してきた。あはは、500年も生きてるとさすがに忘れちゃうんだよね~。たしか……あの時、他にも色々道具をもらった気がするよ。ね、そうでしょキュクレー」


 思い出してテンション上がってきたのか、ルーが早口で言っている。

 キュクレーはゆっくりと頷いた。


「へえ、そんなことがマジであったんだ。今明かされる驚愕の事実過ぎるな。ルーって結構ハードな人生歩んでたんだね」

「その頃の人間はちっぽけで獣やモンスターに怯えていつ死ぬかよくわからない暮らししてたからね。そこを私が女神パワーで導いたんだから、すごいのよ。崇めていいのよ」


 たしかに、あらためて考えると結構すごい気がしてきた。

 腐っても女神……いや腐ってまではいないけど。


「その女神パワーもキュクレーさんが?」

『争いのはてに巨人は滅び、もはや秘宝も無用の長物となっていた。虚しさを抱き世界を放浪していたときに、娘を見つけ、なかば押しつけるように渡したのだ。我が受け継いだ秘宝達を。手にしていても虚しさしか覚えぬ秘宝を手放したいという気持ちと、友と共に作った秘宝を最期に使ってやりたいという気持ちから。――その後、女神に導かれ人間が発展したと噂程度に聞いたことがあるが、汝の働きのようだな。まさか、こうして再び相まみえるとは。不思議な縁だ』


 キュクレーは、それほど昔にルーと出会って、それでルーが女神と呼ばれるようになって、ネマンやローレルやらプローカイやらの町ができたのか。

 ……なんだか壮大な話になってしまって、いまいち実感がわかないけど、でも、そうか。

 それなら俺がルーの行った儀式でこっちに来たのも、元を正せばキュクレーがルーの命を救ったことから来てたんだな。


 そのとき、ルーが立ち上がりぺこりと頭を下げた。


「ありがと、キュクレー。私の命を助けてくれて、色々できるようにしてくれて。今まで言う機会なかったけど、生きててよかったーって思うから言わせて」


 明るい顔でそう言うと、ルーは腕を伸ばし、俺の首をがしっと引き寄せる。


「それに~、エイシと会えて一緒に世界をうろうろできたのも、キュクレーが救ってくれて、女神の力を手に入れたおかげだからね」

「俺からも、お礼を言わせてください。なんだかんだ楽しくやれてるので。まあ、ルーのおかげ、ひいてはキュクレーさんのおかげってことですもんね」

『汝は――なるほど、娘に渡した秘宝の力で来たのか。珍しいことは重なるものだ」

「そうです。ルーが世界に穴を開けたときに、巻き込まれて」

『娘に渡した秘宝の中に、そんなものもあったか。たしか世界斧だったな』


 キュクレーは昔を懐かしむような口調だった。最初は全ての感傷が時とともに剥がれ落ちたように始めは思ったが、今はそうではないのかもしれない。

「そう、そんな名前です」

『それも、我が友が試作したものだった。なるほど、それを使っているのか。我も同じようなものを、より完成させたものをかつて作ったことがある』

「……え?」

『我は空間干渉系の魔道具を得意としていた。映像や音声や魔力以外の技術は苦手だったが。我が作ったものは、世界剣オールトという姉妹秘宝だ』


 ――って、待て、今すごいこといってなかったか。

 世界に穴を開ける秘宝の、完成品?

 もしかして、それって以前俺が、何かあったときのために念のために確保しておきたいと思ってた――。


「それって、もしかして、俺が来た世界との間に穴を開けて移動できるっていう剣では」

『そうだ』

「でも、あれはあんまりやると余計な物が出入りしたり、よくないこともあるから最小限にしないとダメだったってルーが」

「うん。そうだよ。余計なものが出入りしちゃう。それでエイシが余分に来ちゃったし」

「人を余分よばわりしないでください」

「気にしない気にしない。でも、もしかしてそれって、不完全だったから?」

『そうだ。完成した世界剣は、対象のものを移動させる以外の影響を世界に与えず、穴を開けることができる。影響を気にして控える必要もない』


 なんだと。

 さすがに世界を移動するなんてことには大きな制約があるもんなんだなあ、と納得した昔の俺はなんだったんだ。

 なんか性能インフレしすぎてない? 大丈夫?


 何が大丈夫なのかよくわからないけど、巨人の塔は想像通り、いや想像以上の凄いお宝がある場所みたいだ。


「キュクレーさん、それもここに?」

『そうだ。この塔の頂上から繋がる、神域と呼ばれる外部から不干渉の空間にある。あの剣があれば、我の生まれた世界から汝の生まれた世界に帰ることも容易いだろう』


 キュクレーはあっさりと簡単に言った。

 ルーが俺の顔を、穴が開くくらいに見つめているのを感じる。

 なんの問題もなく、元の世界に戻る方法が提示されてしまった。

 しかも目の前に、普通に塔を探索していけば手に入る位置に。

 ――別に戻ろうと思ってここに来たわけじゃない。けれど、戻れるとなると意識しないわけにもいかない。

 キュクレーとルーの視線は、俺にどうするのかと問いかけているように思えてくる。


 俺は――。




「どうしたのですか、エイシ様。何か考え込んでいるようですが」


 巨人の塔を降りていく途中、アリーが声をかけてきた。

 俺は首を振って答える。


「いや、ぼーっとしてただけ。それより、ここにも転位クリスタルがあってよかったね」

「そうなのですか。それならよろしいのですが、足下に気をつけてくださいね。転位クリスタルは本当に助かりますね。蛇の抜け殻入り口あたりの壁が、転位クリスタルになっていたとは気づきませんでした。巨人の方々が、ネマンのあたりを鉱物の貯蔵庫として使っていたのは本当なのですね」


 ネマンの周囲にある鉱山は様々なものが採れることが不思議だったが、巨人達の鉱物倉庫のようなものだったと思うと納得だ。それゆえ、色々なものが狭い範囲でたくさんとれると。


 それはそれとして、俺が考えていたのは、もちろん次元を切り裂く剣のことである。

 なにはともあれ、アリーの兄に報告をして地震をとめることにしたが、その後は多分またあの巨人の塔に行くことになるだろう。

 町の上にもまだ塔は続いていたし、あの先に何があるか、俺ならずとも興味はある。アリーも行く気満々だし。

 そうすれば例の剣も必然的に手に入る可能性が高い。

 んー……よし。

 行ってから決めよう!


 適当な決断である。

 と自分でも思うけど、とりあえず選択肢が増えて困ることはないんだし、秘宝を手に入れるだけ手に入れておいて、元の世界に帰りたくなれば帰ればいいし、もっとこっちにいたければいればいいだけの話だ。

 決断は先延ばしにするのが一番。

 俺の座右の銘は、あとでできることは今やるな、なのだ。


「お、あったあった。転位クリスタル」


 巨人の塔の外側、ドアから少し離れたところの壁に埋め込まれるような形で、磨かれた石英のような転位クリスタルがあった。

 触れると、一気に蛇の抜け殻の入り口まで戻ることができた。


「それでは、行きましょう。早く行って、ネマンの人々や兄を安心させてさしあげましょう」


 アリーの手には、完成した『要石の三叉矛』がある。

 キュクレーと神眼機を作っている間に、フェリペが完成させたものだ。

 希少な材料を惜しまず使い、巨人に伝わる技術をふんだんに用いたスーパー魔道具(フェリペ談)らしい。

 輝く浅黄色の三叉矛は、神々しさすら感じるできばえだ。

 これを使えば、ネマンの地震を収めることができるという。

 何はともあれ、まずは一つずつ解決。ネマンの異変をやってから、その次。

 大股で歩くアリーを先頭に、俺たちはネマンへと戻ったのだった。




「なるほど、そういう事情だったのですか。驚くべきことですね、まさか巨人なる種族がいて、ネマンとも深い関わりがあるとは」


 アリーの家へと行き、アリーの兄スアマンに事の次第を報告すると、驚いた様子で色々と記録をとりながら話を聞いた。

 そしてアリーが要石の三叉矛を取り出す。


「この矛を、この場所に突き刺せばいいそうです」


 同時に、テーブルの上に置いた地図についた印を指さす。

 それはキュクレーが言っていた、この辺りの土地の要となる地点だ。


「なるほど。秘宝を作ったという偉人が言っているのなら、信憑性は十分だ。皆さんも、彼の存在のことを信用に足ると言っている。――この仕事も、あなた達にお願いしても宜しいですか」

「もちろんです。受けたからには、最後まではやりますよ」


 スアマンが整った笑みを浮かべて、感謝の意を表する――が、首をかしげた。


「しかし、どうやるおつもりなのですか。ここは……湖の中ですよね」


 そう、地図で示されている場所は、ネマンの近くにある湖の中央だったのだ。当然、そこの地面に矛をさしたいなら、湖の底に潜らなければならない。


「そこは、僕に任せてください」


 俺がはっきりとそう言ったのには、もちろん根拠がある。

 水中へといくためのスキルの算段があるからだ。


「エイシさん、手段があるのですね」

「ええ。水の中でも行動できますから、ちょっと行ってぷすりと刺してきます」

「それではお任せします。何から何まで、ありがとうございます。やはりアリーの言葉どおり……いえ、それ以上の方ですね」

「い、いやあそんなたいしたものじゃないですよ。アリーさんがどう言っていたかはわからないですけど、本当運良くちょうどいいスキルがあるだけですし」


 俺は慌てて地図をくるくると巻いて回収する。

 スアマンが俺を信じてくれるのはいいけど、褒めすぎですよ。本当に。

 これも妹であるアリーのおかげだろうか。

 しっかし、ココも含めて三人そろって美形な兄妹だなあ。うちのフツメン兄弟と違って羨ましい。


 なんてことを思っていると、話を聞いていたココと目があった。

 ココはにぃっと口角を持ち上げ、意味深な笑みを浮かべる。


 ……何か企んでる?

 何を企んでるかは定かではないまま、とりあえず今日はお疲れ様ということで、矛を刺しに行く作業は明日以降にし、スアマンのはからいで俺たちはデュオ家で豪勢な食事でもてなされた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字報告 24話にて転移クリスタルの話がありましたが、そちらでは、「転移」でしたが、この話では「転位」となっています。どちらが正しいのかは分かりませんが、修正のほどお願いします。 因みに、こ…
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