129,トンネルを出た先で見たもの
より一層深くへと、ワニライトで少し明るくなった蛇の抜け殻を行くと、菌糸類が蜘蛛の巣のように広がった場所があったり、赤っぽいぬめり気のある水たまりがあったり、奇妙な場所がいくつもあった。
そしてもちろんモンスターもいくつも出てきた。
ナマコのようなものが天井を逆さに這っていた。
触手のはえたアメーバのようなものが漂ってきたり――そいつは赤血球風のモンスターとは別に、魔法がほとんど通じなかった。
体をバネのようにして跳ねながら移動するデンキウナギのようなモンスターなんかもいた。
他の洞窟とは違う独特のへんてこなモンスターたちの生態系ができていて、歩いているだけでも飽きない。
若干キモい系が多いけど、せっかくなので一匹倒さずにパラサイトしておいた。デンキウナギで電撃をゲットするのだ。
そしてさらばポイズンモンスターへのパラサイトよ。
「それにしても長いですね」
「うん。もう丸一日歩いてもまだ続いてる」
そんなこんなで翌朝を迎えた。
一日では最奥までたどり着かなかったのだ。
アリーとフェリペ作のお弁当を食べ、二日目の探索をはじめた。
だがそれでもなおなかなか最奥までは到達できない。
かなり歩いてちょっと疲れたな、と思ってきたとき。
「――これは!」
突然フェリペが叫んだ。
双眸を爛々と輝かせ、天井を見上げている。
「どうしたの、フェリペ」
俺が尋ねると、フェリペはあごをしゃくって薄く青色に輝く石を示す。
この輝き……見覚えがあるな。
「これは青霊鉄だ」
「青霊鉄って、たしか昔見つけたナイフの。トップクラスに価値ある金属だっけ」
「そうだ。こんなにたくさん集まっているのが見つかるとはな。くくく、やはり俺の判断は間違っていなかった」
にやあと口を歪ませて笑うフェリペにせかされ。早速それを取ることになった。
ノミのような工具を手にしたフェリペを肩車し、かんかんと軽快な音を響かせ、珍しい金属鉱物を回収していく。
「やっぱりすごいねー。さすが神様の抜け殻。フェリペももう満腹満足?」
「これでだけでも十分な成果と言ってもいいぐらいだ。フフ、素晴らしい素晴らしいぞ」
ルーに問われると、赤ちゃんを抱くかのように愛おしそうに鉱物を抱きかかえるフェリペが答える。その様子にルーも若干ひいている。
しかし、首を横に振った。
「……だがまだ足りない。いや足りてはいるが、ここでこんな素晴らしいものがあるなら、この先にある巨人の塔ではいったい何があるのか。そう考えたら止まるわけにはいかないだろう」
「うん、同感だよ。この先も気になる。行こう――うわっ」
地鳴りだ!
「地震とは少し違います、大きなものが動いているような――」
俺たちの間に緊張感が一気に高まる。
直後、遠方から巨大な何者かが近づいてきた。
地面を鍵爪で引っ掻くようにして、戦車のように重々しく素早く近づいてきたそれは、巨大な虫
のようなモンスターだった。
「大物来たね! やっちゃおう!」
「うん! 皆気をつけて!」
俺たちはモンスターにたいして構えをとる。
セミの幼虫のような姿のモンスターはどんどん近づいてくる。
だが見た目だけで実際は幼虫ではないだろう。
地面から光を吸い上げていて、恐らく鍵爪で魔力を吸っているような雰囲気だ。
しかし、もっと高密度の餌に気づいたらしい……つまり俺たちに。
「来たよ!」
襲いかかってきたそいつに、まずは遠距離からフェリペが魔道具、アリーが精霊魔法で遠距離攻撃を行い体勢を崩す。素早く蠢いていた虫の足が止まった。
そこに俺が近づいて行く。
虫はかぎ爪を振り上げて攻撃してくるが、俺にはその動きが手に取るようにわかる。覚えたばかりのスキル《音波探知》があるからだ。
かぎ爪の片方を剣で切り、もう片方を『糸斬』のスキルで鋭く細い魔力の糸を絡め、サクッと切断。
「ナイスっ! エイシッ!」
相手が行動を阻害されたところにすかさず斧を振り上げたルーが大ジャンプをして、脳天に強烈な一撃をたたき付けた。
ぎゅるぎゅると不気味なうめき声を反響させ、巨大な虫は倒れる。
それを確認し、後方で支援していたアリー達の元へと戻る。
「よしっ。勝てたね」
「ええ。うまく各々が役割を果たせましたね」
「うん、わりとコンビネーションいいかもね俺たちって」
四人パーティはバランスがいい。やはりこれは事実だった。
「なにぼーっとしてるんだ、エイシ。このモンスターの体も珍しい素材かも知れないぞ。はやく観察しようじゃないか!」
フェリペがめっちゃうきうきしてる。
そんな顔されたらのらないわけにもいかないな。
俺達は倒れたモンスターの殻などを確認していくのだった。
……ちょっとキモかったです。
巨大なモンスターを倒した俺たちは再び歩を進めていった。
かなりの距離を進みもうネマンから数十キロほど離れたんじゃないかと思っていた頃だった。
ふっと光が前方からさしてきた。
「これは――出口が近いみたいです、エイシ様」
「うん。アリー、急ごう」
俺たちは足を速め、一気に光が差すもとへと進んでいく。
そしてついに――長い長いトンネルを抜け出たのだ。
「くぅ~――」
ルーーが酸っぱそうな声を出し、俺たちは日光のまぶしさに目を細める。
少しずつ目を開き、白くかすみながら飛び込んできた光景は。
「――なんにもないよ」
ルーが言った。
その通りだった。
洞窟を抜けた先はどこまでも広がる岩石砂漠だった。
乾いた砂岩が沈黙する光景がはるかに続いている。
ひたすらに続く不毛の地にぽっかりと開いた穴から今俺たちは出てきたのだ。
後ろを振り返ると、連なる山々が霞んで見える。おそらくあれはネマンの周囲にあった山だろう。あそこから相当な距離を進んできたってことだな。
そして、前の方には。
「塔だ」
その塔は果てしない不毛の砂漠のど真ん中に立つ。
その塔はここからかなり距離があるはずなのにそれでもなお巨大に見える。
その塔は雲を突き抜けるほど高くまでそびえている。
「巨人の塔ですね。あれがきっと」
「うん。見つけた」
ダンジョンとモンスターと秘宝についての秘密があるかも知れない場所。
巨人達が住んでいたという秘境中の秘境を。
生物の気配の無い不毛の砂漠を、俺たちはついに見つけた大きなる者たちが進むと言われる塔へと向けて歩き出した。
砂漠にもかかわらず、意外なほど気温は高くない。
暑くて乾燥して砂漠になったというよりは、大地の養分などがなくなって植物が育てなくなったのではないかと感じる。
生物がいないということはモンスターの姿もなく、スムーズに進むことができた。
生き物の気配がほとんどなく、植物も動物も何もなく、気候的には歩きやすい。そんなある意味好条件で数時間ほど歩くと。
「でっか……」
ルーがぽかんと口を開ける。
俺たちは、巨人の塔へとたどり着いた。
「本当に大きいですね。本当に、これなら巨人が作ったり中にいたりしても驚かない気がします」
「おお。入り口のドアからして、人間サイズじゃないな」
アリーが塔を見上げ、フェリペは塔の入り口の門に手を触れる。
「これが、巨人の塔」
俺は少し後ろに下がって、あまりにも巨大な塔を見上げた。
その塔はまさに巨人の塔という名にふさわしく巨大だった。
四角柱のような形をしていて、それが真っ直ぐ上に伸びている。
塔の一辺は二百~三百メートルは優にある。高さはもう何メートルあるかわからない。少なくとも一番上のほうは雲に隠れて見えないぐらいだ。
固めた土のようなものでできていて、途中には窓のような穴も開いている。
外壁に植物がはい木の枝が伸びていて、鳥が巣を作ったりと半分自然と融合していて、建造物でありながら、自然の山のような姿だ。
「予想以上に凄い建物だな。さすがに巨大すぎるでしょこれ」
「塔っていうか山だよねー。中に丸ごと街でも入りそうなくらい大きいよ」
確かに。これなら中に城でも家でも、なんなら塔をもう一つ入れることだってできてしまうだろう。
これを作った巨人は相当な技術力を持っているのは間違いない。それがいわゆる普通の技術か、魔法の力によるものでもいずれにせよ。
その時だった。
重たい音が辺りに響いた。
「扉が?」
塔の入り口が開いていた。
どうやらフェリペが触れたところ勝手に開いたらしい。生物に反応して開く自動ドアということか。
「おー、あっさり開いた。じゃあ早速行こうよ、行こうよ」
ルーが俺の袖をつかんで塔の中へと走っていく。俺は引っ張られ小走りになりながら、巨人の塔の中へと足を踏み入れた。
少し間が開いてしまいましたが書くことができました。お待たせしてしまってすいません。
またそこそこ更新していければと思っていますのでよろしくお願いします。