128,四つの目的
一番手はルーだった。
ルーは斧を振り上げ白血球に対して斬りかかっていく。
「おおっ!? なんかブヨブヨしてるー!?」
円盤状のモンスターに振り下ろした斧は、弾力のあるトランポリンで跳ね飛ぶみたいにルーごと弾き飛ばされた。
「体が弾力があるのか? あいつは」
「いや、触れる前に光の膜みたいなものに弾かれてた。たぶん魔法の壁みたいなものだと思うから、魔法以外は通用しにくいタイプなんだと思う」
だから、新しい剣を実戦で試すチャンスだ。
俺は新しくたたき直された剣を抜く。
同時にモンスターにすばやく近づいていき、剣を振り下ろした。すると、ほとんど手応えを感じることもなく豆腐のようにすっと真っ二つに切れ、そのまま空中で霧散した。
「おお……やっぱりこれってかなり強い魔法の力を帯びてるんだな、うん。みんな、こいつ魔法さえ使えば柔らかいから、魔法で攻めて行こう」
そのことに気づいたら、そう難しい相手ではなかった。
魔法に対しての耐久力は無いに等しく、数はたくさんいるけれどサクサクとシューティングゲームの雑魚敵のように撃ち落としていけて、すぐに全滅させた。
「変わったモンスターでしたね。これまでいろいろ洞窟などいったことがありますがあのようなモンスターを見たことがありませんでした」
「うん、白血球みたいな感じだったね」
「白血球?」
話しかけてきたアリーがキョトンとしている。
あ、そうか。ここって顕微鏡とか無さそうだし、白血球の形なんて知るはずが、というか白血球の存在すら知らないか。
「なんというか、まあそういう物があるんだよね。ああいう円盤みたいな形をした物体が。昔見たことがあるんだ」
とりあえず適当なことを言ってごまかしておく。最初の頃は気を使っていたつもりが、最近ちょっと油断してきてるな、気をつけないと。
……でも、アリーとかフェリペになら別に知られても特に問題ないような気もする。普通に受け入れてくれて、気にしなさそう。
まあ、何も聞かれてないのにわざわざ自分から言う必要もないけど、そこまで隠す必要もないのかもしれないな。
ニヤニヤしながら訳知り顔で俺達のやりとりを見ているルーの顔に気付いたので、肘で小突いて、洞窟を先へと進む。
「これは……見たことのないものだ。鉱物、いや、なんなんだこの材質は?」
しばらく先に進んだとき、フェリペが身をかがめて洞窟内の岩陰をじっと見つめた。何かと思い近づいてみると、艶のないすべての光を吸い込んでしまっているような真っ黒な塊がそこにあった。
「何か珍しい素材なの、これ?」
「……それすらわからない。扱ったこともないし、自分の目で見たことも、資料などで見たこともない。まったくの未知だ」
「フェリペ様でも知らないという事は、相当に珍しいものをなのでしょうね。やはり、伝説に残るようなダンジョンということで、いよいよ間違いないようです」
その黒い塊をまず見て、続いて視線を周囲にさまよわせる。
どことなく有機的な感じのする洞窟内は、やはり他の普通のこれまでの巣窟とは違う趣がある。やはり、そうなんだ。
「あ、これはなんでしょう。エイシ様、珍しいものがありますよっ」
何を見つけたのか、アリーがパタパタと声をはずませて走って行く。ネマンのための調査も一時忘れて好奇心で頭がいっぱいになっているようだ。
やっぱりこういうのがアリーらしいなと思いつつ、俺も何があるのかとワクワクしながら呼ばれたところへ向かっていく。
……そうだ。
それからしばらく進んだ俺たちは、一旦、食事をとりながら休憩を取っていた。
思い出したのは、そんなときだった。
「ココから貰ったものがあったんだ」
「ココってあのお屋敷にいたアリーの妹だよね。もらったて、何を?」
お腹をさするルーに注目されつつ、スペースバッグからもらった箱を取り出した。
「俺も中身を知らないんだ。ただ、調査に行くならこれを持って行けと言われたんだよね。役に立つものが入ってるとか入ってないとか」
「そうなのですか。あの子は一体なにを渡したのでしょうか」
皆が注目する中、洞窟の中で開くには似つかわしくない、かわいくラッピングされた箱のリボンをほどいた。
……ワニのぬいぐるみ?
「かわいいですね」
「うん可愛いね……しかしでもなんでワニ」
中から出てきたのは、デフォルメされたワニのふわふわしたぬいぐるみだった。なぜこれを渡したのか、かなりの謎でアル。
……でも役に立つって言ってたってことは、ただのぬいぐるみじゃないはずだと思い、手に取って魔力を込めてみると。
「うわ! 目が光った! わははは!」
ルーが嬉しそうに声あげた。
なるほどこれで洞窟の中を照らせということか。たまたまここは明るかったけれど、暗い場合は役に立っただろうな。
さらに力を込めると、ぬいぐるみの口ががしがしと開閉された。これでモンスターと戦うときに武器にしろってことなのか?
ちょっと柔らかいような気がするけど……いや歯だけは結構鋭いな。割と危ないと思います。
「む……手紙もある?」
箱の中にはぬいぐるみと一緒に手紙も入っていることに気付いた。さらに、キラキラした表紙の日記帳も。
『面白いものがあったら、全部この日記帳に記録しておくこと。ココは出歩いて戦うとか面倒なことは嫌いだけど、珍しいお話は好きだから。ばっちり報告お願いね』
というようなことが手紙には書いてあった。随分と用意周到なことだなあ。
まあ、でも待っているなら書いてあげよう。
ということで、日記帳にこれまでのことをしたため、より一層深くへと、ワニライトで少し明るくなった蛇の抜け殻を進んでいく。
6/10に『寄生してレベル上げたんだが、育ちすぎたかもしれない』の3巻が無事刊行されました!
すでにご購入し読んでくださった方ありがとうございます!
そりむらようじ先生の描いた小悪魔チックなエピとエイシのコンビのカバーイラストが目印です。
もう本屋に並んでいるはずです。通販や電子書籍もあるので、よろしければ是非手にとっていただけると嬉しいです!