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127,『蛇の抜け殻』

 そこには旧き言葉でこう書かれていた。


『始まりの大蛇はその殻を脱ぎ捨て、殻は新たな大地となり彼の地に恵みをもたらし生命の礎となった。始まりの大蛇は、世界の果てへと行き、天へと昇る。その頂は雲をも貫き巨塔となった。そして巨塔は、我ら巨人の故郷となった』


 俺が内容を要約して告げると、ざわざわとデュオ家の応接室が沸いた。


「読めるんですか?」

「はい。こういうのに微妙に強くて。知り合いにも昔の事を知ってる人がいるもので。なので、内容に関しては正しいと思っていただいて間違いありません」


 スアマンが感心したように眉を持ち上げた。ココは腕を組んでなかなかやるじゃんという風になぜか得意げにうなずいている。そしてアリーが身を乗り出して古文書と俺の顔を交互に見比べている。


「エイシ様はこのような特技も持っていらっしゃったのですね。なんだかローレルでご一緒した時よりも、一層多芸に秀でたように感じます」

「そう言ってもらえると自信がでるよ。プローカイで結構あれこれしてたから多分そのおかげ。……そうだ、アレコレといえばアレがあったんだ」


 言われて思い出した。

 ここに書いてある巨人と言う言葉で、リサハルナとエピからもらった手紙を。

 あれにも、たしか――。


 俺は手紙を取り出して急いで読み始めた。

 こちらは読める言葉で書いてあったが、それをまた部屋の中の者に伝える。


『先日君と話したダンジョンなどを作ったと言われる存在――通称、大きなるものについて私なりに調べてみた。アンホーリーウッドの中にはその手がかりが見つかったのだが、彼らはモンスターが生まれるよりもさらに昔に地上を支配していた種族らしく、巨人の塔と呼ばれる場所に住んでいたという。彼らが今どうなっているかわからないが、もし君がこの世界を好奇心のまま冒険するというなら、何か関わることもあるかもしれない。彼らがもし本当にダンジョンの生みの親だとしたら秘宝などにも関わっているだろう。なかなか興味深い話だろう」


 この二つに巨人の塔という共通点があることを考えると、その蛇の抜け殻と巨人、そして今のネマンに起きている異変がそれぞれ関連があるかもしれない。


 手紙の概要を話すとスアマンが一番に食いついた。

 差し支えなければみてもいいかと聞かれたので、個人的な内容が書かれている部分以外を見せると、ピクピクと眉を動かしながら読み進め、読み終わると長々と息を吐いた。


「本当に、あなたたちにお願いをして良かった。まさかこんな形で古文書の内容に確信が持てるとは。改めてお願いいたします。蛇の抜け殻、そして必要があれば巨人の塔を探ってください。異変という意味でも、ネマンに古くから伝わる蛇神様のことを調べるという意味でも」


 考えるまでもない。

 俺の答えは既に決まっている。

 

「はい、僕も元々気になっていたことです、これを手がかりにやってみます。それにアリーさんの故郷がピンチかもしれないということもありますし」


 アリーが素早く俺の方に目を向けた。一瞬してからスアマンの方を向いて早口で宣言する。


「私も行きます、スアマン兄様。ネマンに危機が訪れているかもしれないとあれば、今こそ私が身に付けた力を使うときです。エイシ様が明らかにしてくださった手がかり、調べてみます」

「とかいって~、本当は自分が冒険したいだけじゃないの~珍しいところを」


 そう言ってアリーににじり寄るのはココ。アリーはあわてた表情で首を振り手も振って答える。


「ち、違いますよ、ココ。ええと、その、全くゼロとまでは言いませんけど、小さいとまでは言いませんけど、ネマンのためという気持ちだってもちろんあります」

「本当かな~」


 姉妹がキャッキャと戯れている横で、フェリペは真剣な面持ちでスアマンに問う。


「ここにどんなものがあるというのはわかるのか?」

「あなたは……魔道具職人ということでしたね。正直なところを申しあげますと、わかりません。誰も今まで見た記録がないので。しかし伝承が真実ならば非常に強大な存在がいたということですから、期待は出来のではないでしょうか」

「……まぁ、そうだろうな。わかるはずがないという事は裏を返せば、誰の手も着かないで、豊富に眠っているものがあるということだ。それに、秘宝を作ったという巨人は、魔道具を作るものとして興味がある。――俺も行こう」

「私もいくよ~。面白そうだし、それに、興味あるしね。天に届く塔ってのが」


 フェリペにルーも同調する。

 こうして俺達四人は蛇の抜け殻へ向かうこととなった。




 蛇の抜け殻は、二つの文書を合わせることで場所を見つける事ができた。

 古文書によるとネマンの南南東に存在するといい、リサハルナからもらった手紙によると、四つの鋭角な山が並んでいる場所の、その一番低い山の麓を大雑把にではあるが示していた。

 その二つがかさなる山々はたしかに存在し、その付近を探索すると、洞窟の入り口が見つかった。少し入り口を覗いてみると相当深そうである。


 これが第一の候補だろうということで、俺達は一旦街に戻り準備を整え、翌日、いよいよ蛇の抜け殻に突入した。

 

「ここが……蛇の抜け殻」

「普通の洞窟とはちょーっと違うね。なんというか、臭いが」


 アリーとルーが周囲を伺う。

 俺も周りを観察する。

 かなり明るく魔元素が豊富にあることがわかる。そしてどことなくかび臭いにおいがしている。洞窟なのだが、地面は少し柔らかいような感じがして、普通の岩や固い地面とはちょっと違う靴底の感触だ。


 空気が流れる音が、奥から不気味に響いてくる。

 菌糸類が天井や壁から生えていて、一般的な洞窟よりも生物の気配が濃い。


「伝説の通りなら、巨大な生物の抜け殻ということだから今までにないタイプってことかな。気をつけていこう」


 そして俺たちは先に進んでみはじめた。

 程なく。


「何か来るぞ!」


 フェリペは短く警告を発する。

 直後、前方から未知のものが姿を現した。


 ……白血球?


 平たい真ん中の凹んだピザのような、灰色っぽい物体が空中をひらひらっとまいながら俺たちのもとへむかってくる。

 近づいてくると警告も何もなく突然魔法で銛を作り出し、攻撃してきた。

 錬成術のようなものだが、俺はすかさず盾を作り出しそれを防ぐ。


「早速、見たことないモンスターがやってきた。やっぱりここは普通の洞窟じゃないんだ」

「俄然やる気が出てきますね。間違いなく私達が目指していたところのようですよ」

「うん、こいつをサクッと倒して先に進もう!」


 白血球のようなモンスターは後から後から十数匹も連なり向かってくる。

 俺達四人はそれぞれの武器をそれぞれ手に取る。

 そして戦いと探索の火ぶたが切って落とされた。




6/10に『寄生してレベル上げたんだが、育ちすぎたかもしれない』の3巻が刊行されます。

魔法学校とアンデッドモンスター達の絡むエピソードが主ですが、エイシがルー達とともに魔法学校の地下にあるお宝を求めて探検するような書籍版の新たなエピソードもあり、ヴァンパイアのエピをはじめとしてアンデッド成分増量中だったり、そんな内容でお送りいたします。

よろしければ是非手にとっていただけると幸いです。


3巻も店舗特典あります。活動報告にて詳しく書いています。

場所によっては1,2日早売りされることもあるそうです。購入を考えてくださっている方はご参考にしてください。もちろん通販などでも手に入りますので、是非書籍版も読んでいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字報告 エピから渡された手紙について。 後ろ側の鍵括弧が、 」になっています。 』ではないでしょうか。
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