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125,アリー=デュオの家の三兄妹


「………………妹? アリーの?」

「そだよ。あなたのことはお姉ちゃんから耳にたこができるほど聞いてる。……いや、そこまでは聞いてないかな。たこはできないけど結構聞いてる」


 ココ=デュオ。

 なるほど、それでどこかで見たことがあるような気がしたのか。アリーの面影があるんだ、雰囲気はアリーよりもイケイケな感じだけど。


「それで、そのお姉ちゃんの知り合い二人はここで何遊んでたの?」

「遊んでたわけじゃない。テストだ。スキルの確認とな」


 フェリペが答えると、ココはうんうんと頷く。わかっているのか適当なのか、把握しづらい反応だ。


「んで、エイシがスキルの練習をしてた。剣なんか握ってるし、本当に腕利きの冒険者なんだ。お姉ちゃんが、かなり、やる。って言ってたけど」

「まあ、そこそこ頑張ってるよ。というかアリーって家族だとそんな話し方なんだ?」


 ココは鼻で笑いながら首を振った。


「まっさか。これは私の意訳。お姉ちゃん行動は変人だけど言葉遣いは比較的まともなんだよね」

「あはは、そうなんだ。妹なのになかなか言うね」

「私は正直者だからね。いい子なんだよ私は」


 自分で言うのか。

 と突っ込んでいいのか初対面でそこまでしないべきかと一瞬迷っていたら……蛇が足下に巻き付こうとしていることにきづいた。


「ってうおうっ! へ、蛇が! 蛇が! ちょっとココ、蛇が!」

「大丈夫大丈夫、ミーティアちゃんは賢いから、親愛の動作よ」

「そ、そうなの? 絞め殺されない?」

「大丈夫、獲物と認識したもの以外は仕留めないから」


 俺が獲物と認識されてない保証がない時点でまったく安心できない答えのような気が……?


「ミーティアちゃんに懐かれるとはなかなかやるね、エイシ」

「懐いてる……の? これって?」

「うん。どう見ても。ふふ、やるじゃん」


 ココは肘で脇腹をぐりぐりしてくる。しかも結構強めだ。


 にしても、もしかしたら調教師のクラスをパラサイトで身につけていた成果かな。こんなところで役に立つとは。

 俺は足下の蛇を見ながら言う。


「こんな大きい蛇を飼ってるんだね、ココとかアリーの家でも」

「もちろん。だってうちはネマンのデュオ家よ。蛇神様に見守ってもらってるっていう体のネマンの町の有力者が、蛇の一匹も飼わないんじゃ格好がつかないでしょ」

「ああ、なるほどね。……っていうか体って。いいの、それで」

「だって私が蛇神様を見たことあるわけじゃないし、本当に見守ってるかなんて知らないし」


 そういう問題なのか?

 まあでもそういう問題かもしれないな……。

 なんだかマイペースで自信たっぷりなココと話していると、たしかにそうかもという気になってくる。自信って大事なんですね。


「でもミーティアちゃんは本当にかわいい。あ、ちなみに女の子だからね?」


 女の子だからねと言われても、だからどうしろというのだ。俺は足下で舌をちろちろしている蛇を見る。

 たしかにつぶらな瞳をしていてかわいいような気がしてこなくもないような……それにしても、こんな大きな蛇を飼ってるとは、さすが貴族は違うなあ。


 なんて思ってると、ココが不意に何かを思いついたようににやりと笑った。


「あっ、そうだ! うち来ない?」

「え? うち?」

「私のおうち。うんうん、名案。お姉ちゃんがお世話になった腕ききの冒険者って言ったら、ふっふっふ、使えそうだし」

「使えそう? それって――」

「ううん、こっちの話。気にしない気にしない。よし、じゃあ決まりっ、行くよ! ほら、二人ともついてきて。ミーティアちゃんもそろそろ登るのやめて戻るよ」


 ココは振り返ると、蛇をつれて町の方へと戻り始める。

 俺はフェリペと顔を見合わせる。


「うーん……まあ、行ってみよっか?」

「行って悪いこともないだろう。いいもの見せて貰えるかも知れないしな」

「フェリペのいいものは想像つきやすいね。ま、じゃあ行こう。こんな機会そうないだろうし。それにアリーの妹が言ってることだし、悪いことはないだろうしね。それにしても、変わってるのはお姉ちゃんだけじゃないと思うなあ……」


 そんなことを話しながら、俺たちはココに連れられ、デュオ家へと向かったのだった。




「ここが、アリーの実家」

「そうよ。さ、遠慮せず上がって上がって」


 俺とフェリペはココに連れられてデュオ家に入った。ネマンの中央部にある大きなお屋敷で、入るときには少し緊張してしまうような家だが、ココに背中を押されて玄関をあがる。


 中に入ると、やはり貴族なんだなぁというのがわかった。

 壁に掛けられたら絵や飾られた花や調度品など、家の中にある様々なものから高級感が漂っている。……まあ、実のところ俺はものの価値ってそんなにわかる方じゃないから、雰囲気に飲まれてるだけだったりするんだけど。


 そんな高級感溢れる気分で廊下を歩いていると、フランス人形のような人形が幾つか並んでいた。


 なるほど、アリーのトラウマのもとはこれのことか。 

 確かに顔が、特に目が妙にリアルで怖いな。


 そんなことを思いつつ、俺たちは応接間に通される。

 すると途中にココが声をかけていたメイドさんが速やかにお茶を入れてくれた。なんという至れり尽くせりだ。


「凄いね。このソファーも座り心地すごくいいし。……お茶の香りもいい」

「ふっふっふ、存分にくつろぐとよい。とゆーわけで」


 バフッと音を立て、ココが勢いよくソファに腰を沈める。


「くつろぐついでに、一緒になんかやったときにお姉ちゃんがどんな感じだったか聞かせてよ。お姉ちゃんの口から冒険のこととかたっぷり聞かされたけど、あれ絶対自分のこといいように言ってると思うんだよね~。冒険の話はもう十分聞いたからそれはいいけど、その中でのお姉ちゃんの失敗談とか希望しまーす」

「率直に言ったら後でアリーの耳に入ったりしない?」


 俺がからかうように言うと、ココはいたずらっぽく笑い首を振った。


「そんなことしないよ、たぶん」

「多分っていうのが怪しいですけど」

「まぁまぁ気にしないで。ほれほれ、話してみてよ」


 手をぷらぷらと振って促すココ。

 ま、妹さんだし、ちょっとくらい話しちゃおうかな。


 香りの良い紅茶を飲みながら、俺はしばしココに付き合って話をした。




「君たちが、アリーが世話になった冒険者ですか」


 しばらく話をしていたら、部屋に一人の男が入ってきた。

 まっすぐに立って、しっかりと髪が整えられていて、まじめそうな印象を受ける人だ。


「あ、お兄ちゃん。やってきたんだ。ふふ、私、結構いいの釣り上げたよ」

「お兄ちゃん……? てことはアリーさんとココさんのお兄さんなんですか? あ、いやアリーさんよりは年下の可能性もあるのか」


 突然のもう一人のアリーの兄妹の出現に、俺は驚いた声を出す。

 だがその男は微動だにせず、真面目な顔で頷いた。


「そうです。僕がココとアリーの兄、スアマンです。妹たちが世話になったようで、感謝いたします」

「あっ、いえいえこちらこそ、アリーさんには冒険のことで色々助けていただいて」


 慌てて立ち上がり、こちらもお礼を言う。

 妹のココと比べて随分としっかりした人だ、油断していた。

 ココの親しげな雰囲気で、すっかり気を抜いてしまっていたよ。


 スアマンは、真面目な調子で、聞き取りやすく言葉を続ける。


「話は聞いています。相当に優れた冒険者だそうですね」

「いや、そんな。まだまだですよ」


 こういうときってどう答えるのが正解なんだろう?

 謙遜するべきのような気もするけど、それはそれで相手の褒めた言葉を否定するみたいになるから、むしろ謙遜せず受け入れるべきのような気もするし。

 いまだに結構悩むんだよね、これ。

 とりあえず、笑ってごまかせの精神で乗り切ろう。


「そこで、頼みたいことがあるんです」

「頼みたいこと?」


 そういえば、とココが言っていたことを思い出した。

 視線をココへ向けると、得意げな勝ち誇った笑みをしている。

 再びスアマンを見ると、真剣な表情で、俺とフェリペをまっすぐに見かえしている。


「ええ、そうです。町の代表として優れた冒険者にお願いしたい案件がありまして。それは――【蛇の抜け殻】の調査です」

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