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121,鍛え上げられる剣とムカデボール

「なるほど、いい腕だ」


 満足げな表情でそういったのは、フェリペ。

 俺たちが今いる場所は、ネマンにある一軒の鍛冶屋の中。

 腕が良いと評判の鍛冶屋で、職人が剣を鍛えている様子を俺とフェリペとアリーとルーは見学していた。


「ええ。ネマンの鍛冶屋はこの国でもトップクラスの実力を持っていると言われているんですよ」

「へぇー、すごいじゃない」


 誇らしげなアリーにルーが素朴な賞賛を返す横で、リズミカルなハンマーの音を聞きながら、俺も手際のいい職人の姿に感心していた。


 ここに来たのはネマンでの名物である鉱物を使った鍛冶の様子を見学したいということが一つ、そしてもう一つは俺の使っている黒銀の剣が、酷使に酷使を重ねたため切れ味が鈍くなってきたので補強しようと思い立ったからだ。


 実際に見てみるとやはり見事なものだなあと思う。

 それにアリーがいるということもあってか対応も丁寧で、いろいろと説明を受けることができた。

 説明をしてくれた人がクラス【鍛冶屋】をもっているが、相変わらず枠が足りず今回は諦める。

 都合よくレベルが上がってもう一枠増えないかなあ……一つでも十分お得なスキルなのに、人間贅沢を一度覚えるともっと贅沢がしたくなるものですね。


 さてさて、実際に剣を見せてみたところ、補強するには当然黒銀が必要だと言われたが、それだけでなくフェリペも一緒に見たことによってさらなる強化の方法が明らかになった。

 大地属性の魔結晶、それも純度の高いもの、あるいは氷晶石と呼ばれる透き通った硬い結晶があれば、さらに魔法的な補強ができるということなのだ。

 これによって、修理だけでなく、元以上の性能に進化できるという。


 となれば、やることは、当然一つ。




「それでは行きましょう。久しぶりのダンジョン探索です」


 冒険者モードの格好になったアリーと、ルーと、俺の三人はネマンの近くにある洞窟の一つにやってきた。

 補強用の黒銀はあると言っていたのだが、さらなる強化をするための魔結晶や氷晶石はストックがないと言っていたので、せっかくだからとりにきたということだ。フェリペは鍛冶屋と魔法武器の作り方について検討するために残っている。素材はお前達にまかせた、俺は学習するということらしい。


 東の山の坑道にある横穴から続くダンジョンを、俺たちは勇ましく奥へと行進していく。


「いいねぇ洞窟。わくわくするよ。それになんか壁がキラキラしててきれいだよ」

「この山の土には氷晶の成分が混じっていると言われています。アイスクリスタルとも呼ばれる硬いもので、この山にはその結晶もたくさんあったんです。洞窟の奥ならばさらなる純度の高いものがあるはずですよ」


 周りをきょろきょろ面白そうに見ているルーに、アリーが解説した。確かに単なる魔結晶の光以上の光が、このダンジョンにはある。うっかりランプなどをつけたらまぶしくなりすぎてしまいそうなほどだ。


「この山っていうことは他の山では全然アイスクリスタルは取れないんだ?」

「ええ、そうなんです。だいたい山ごと何の鉱物があるかは決まっているのです。不思議なことですが……まるで鉱物の貯蔵庫のようだという人もいますね」

「理由はともかく、そんな風にきっちりわかれてると探しやすくて便利ではあるね」

「そうですね、エイシ様。量も多いですがそういう種類の豊富さもいい所です。……きました、モンスターです」


 アリーの注意喚起を受けて注目をすると、そこに現れたのは大ムカデ。しかもただの大ムカデではない。数匹が絡まり合い、まるで触手の生えたボールのようになっているのだ。


 アリーが上半身を反射的にそらす。


「うわっ、キモ」

「率直だな。まあ、確かにキモイけど。絡まってるのかなあ?」

「いえ、あれは絡まっているのではなく、ああやって集団で協力し合うことで、敵から身を守ったり、獲物を狩ったりしやすくしていると言われています。毒をもっていますので噛まれないよう注意してください。突然首を伸ばしてきたりしますよ」


 また毒か!


 ほんとここ毒持ってる奴が多いな。

 しかしまた毒虫か。すでに寄生しているモンスターと割とかぶっているなあ、それじゃ。だったら、こいつらは寄生しないで倒してしまおう。それに気持ち悪いからあんまり触りたくないし。


「情報ありがとう、アリー……うわ!」


 倒すことを決意すると同時に、ムカデボールが俺たちに向かって転がって突進してきた。思った以上のスピードに慌てて横に避けると、ボールの中からムカデがにょろにょろと首を伸ばして噛み付こうとしてきた。

 慌てて鞘に入ったままの剣で首を弾いてギリギリの所でかわしたが、思った以上にボールを作ってるムカデは長いようだ。


「うわあ、すごい絶対捕まりたくない系のモンスターだ」

「捕まりたい系のモンスターってのもいないと思うけどね」


 あからさまに出現時からずっと嫌がって洞窟の壁に張り付いているルーに言いつつ、対処の方法を考える。

 結構予想外の動きをしてくるから近づきたくはないとして、高速で転がってくる相手に対処するなら……そうだ、ちょうどアレを使うチャンスだな。


 俺が身構えると同時に再びムカデボールが突っ込んでくる。だがこちらも今回はすでに準備完了している、スキル発動『魔力の糸』!


 俺の両手の指から伸びた糸はまさにクモの巣のように投網のようになりムカデの体を覆う。

 天井と地面の間に張った網のような糸に捕まったボールは、勢いをなくし停止した。


 よし、成功。

 やっぱりこの糸のスキルはかなり便利だぞ。


「わ、お見事ですね。なんですかこの魔法。初めて拝見いたしました」

「糸魔法なんだ。アリーお願い!」

「はい! 大地の精霊よ!」


 見たことのない魔法に目を輝かせながら、アリーが精霊魔法を発動する。巨大な岩の固まりが地面から持ち上がり、ムカデボールに向かって勢いよく落下した。

 プチっ、と嫌な音をさせ、糸に包まれたままムカデボールは正に一網打尽となったのであった。


「久しぶりだけど、ナイスコンビネーションだね」

「はい。やはり一緒に冒険するのは良いものですね。エイシ様はまた私の知らないものを見せてくださいました。次はどんな珍しい物を見せてくださるんでしょう」


 両手を握って体をうずうずと揺らしながら、アリーは目を輝かせている。その様子はまるで、初めて手品を見た子供のようで、微笑ましい気分になる。


 見慣れた久しぶりの表情に懐かしさを覚えながら、俺達はダンジョン探索を続けていく。


 そして小一時間程探索を続けると――。


「あ、これです。これが氷晶石です」


 アリーが指さした先に、まるで本当に氷の塊に見えるような、綺麗な結晶を俺たちは発見することができたのだった。



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