119,枠が足りない!
モンスターへの寄生を終えた俺は宿に戻り、他の人を起こさないようこっそりと部屋に入って床についた。
多少寝不足になりそうだけど、ま、そのくらいは我慢我慢。
モンスターに寄生するっていういい経験ができたんだからそのくらいはね。
そして眠りにつき、翌朝、目を覚ますと。
「おお!? 早速きてる」
【ブラッドバット Lv1→3】 習得スキル・【音波探知】
【ソニックウィドウ Lv1→6】 習得スキル・【魔法の糸】
【ポイズンモンスター lv4→6】
寄生していた三種のモンスターはどれもレベルが上がっていた。
これはつまり、皆生き残ったということだろう。俺はまだ低レベルだし、手に入る経験値にも倍率がかかるからかなりガッツリレベルが上がっているが、それでもソニックウィドウあたりは結構な大物を狩った模様だ。
【音波探知】は、音波の反響でものの位置や距離を測るスキルか、ソナーみたいなものだな。
魔法の糸は、蜘蛛の糸のようなものを出す魔法だ。相手を絡め取ったり、何かをしばったりと色々便利に使えそう。
こういうのを覚えるってことは、モンスターもこういうスキルを使用してるってことだろうけど、なに考えてるかよくわからないモンスターも、色々工夫したりスキルを鍛えたりしてるんだなあ。
もっともっと獲物を狩って強くなって欲しいね、と思いつつ俺は身支度を調えると宿を出た。
と、アリーが挨拶をしてくる。
「おはようございます、エイシ様。ネマンの夜はよく眠れましたか」
「うん。ばっちり。今日もネマンを探索できるね」
俺はそう答えたが、本当は眠いです、はい。
夜中に出歩くのはほどほどにしないといかんね。ま、パラサイトのことはルー以外はこの世界じゃ知ってる人はいないから、モンスターにタッチするという謎行動はなかなか人前じゃとれないししかたないけど。
「おはよーん」
噂はしてないが、ルーがやってきて、すぐにフェリペも姿をあらわした。
今日は町中をアリーに案内してもらうことになっている。早速俺たちは宿を出た。
町並みは、ローレルやプローカイと極端にはやはりかわらない。まあ、同じ国なんだしそれは別におかしくはない。
ただ、ネマンを歩いていて気付いたことは、鍛冶屋が結構多いことだ。それに、魔道具屋も。工房が結構たくさんあり、職人っぽい人の姿もよく見る。
「古くから鉱山とともにあった町ですからね、ネマンは。とれたものを利用する産業も一緒に育ってきたのです」
とはアリーの談。
さらに、俺たちより先にネマンに少し滞在していたというフェリペが言う。
「そうだ、この辺りは色々な種類の鉱物が豊富にあると有名だ。もちろん、鉄や銅などの他に魔力を帯びたものも多い。だから魔道具と鍛冶がともに盛んなんだ」
あいかわらず魔道具の話題になると早口で口数が多くなる男である。
それにしても、不思議だな。
普通は同じ場所には同じ種類の鉱物がまとまって埋まってるものなんじゃなかったっけ? 俺の記憶違いかもしれないけど。いろんなものが採れるってのは、珍しい気がする。まあ、異世界はそんなもんなのかもしれないけど。
不思議に思いつつ、俺たちは目抜き通りを四人で話しながら歩いている。
石作りの建物が多く、道行く人々の中には肉体派の感じの人が多い気がしないでもない。町の特色ということだろうか。
そんな町を歩いていると、早足で歩いている、大きな荷物を抱えた集団とすれ違った。とその時、俺は見覚えのある建物を見つけた。
「冒険者ギルド、ここにもあるんだ」
それは、ローレルやプローカイにもあったのと同じような雰囲気であり、当然俺たちは中に入ったのだが、やはり中も同じような雰囲気であった。
すなわち、ロビーにいくつか粗末なテーブルが有り、そこには冒険者達がたむろしていて、奥にはカウンターとギルドの職員がいる。
違う町でも変わらないものがあるというのはなんだか安心する。
「アリーさん、いらっしゃい」
「今日は大勢で来ましたね、アリーさん。難しい依頼やるんですか?」
「実はうまい話があるんだけど、アリーさんには教えてもいいですよ。お代は、協力してくれるということで……」
それは、俺たちが入ってすぐだった。
アリーに冒険者達が次々と呼びかけたのは。
アリーはそれらの人に対して、丁寧に応対している。
俺とルーは、その様子に口を開いたまま驚きっぱなしだった。
「凄い人気者なんだねアリーって」
「うん。俺も驚いた」
二人して眺めていると、フェリペが口を開く。
「この町の有力な貴族の娘でありながら自分達と同じ冒険者をやっていて、実力も折り紙付き、それでも驕り高ぶりがない。ということだ」
「なるほど……」
ネマンが地元ということは、アリーは結構地元じゃ名の知れた家の人ってことになるわけか。それでもああいう性格だし、力もあるし、人気なのは確かに納得である。
どうやら俺たちのことを話しているようで、冒険者達の視線が同行者である俺たちにも向く。俺は会釈をしつつ、近づいていき、見定める。
何をかと言えば、もちろんパラサイトする相手だ。
新しい町の新しい冒険者、とくれば新しいクラスがあってしかるべき。モンスターにも人間にもパラサイトして、新たな可能性を開拓するのだ。
気付かれないようにさりげなく触れ、素早く【パラサイト・インフォ】で情報を読み解く。
剣士……持ってるクラスだ。
魔道師……これも持ってる。
エンチャンター……持ってる。
調教師……持ってない、これだ!
無精髭がワイルドな男が、【調教師】のクラスを持っていた。これは俺がまだ見たことのないクラス。
ネーミング的には動物を手懐けたりすることができるってとこかな。俺の場合、召喚獣をさらに強化したりできるかもしれない。
やっぱり、ここに来てよかった。それでは早速寄生するぞ。
と、パラサイトを発動しようとしたのだが――何も起きない。
「あれ? ……あっ!」
忘れてた。
もうすでに同時に寄生できる数の限界である五人に寄生中だった。だれかを解除しないと、これ以上寄生できない。
しかし……寄生したばかりのモンスター三体は昨日の今日だしまだ解除したくない。
残りの二つは、プローカイでしておいたジャクローサとエピ。こちらはいったん解除すると遠くの町で簡単に再寄生できないから解除したくない。
ぐ……うう……むむむ。
枠が足りない!
誰を残して誰に寄生しないか。
冒険者ギルドの中で、俺は選択を迫られることになったのだった。