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117,エイシ、ネマンを見る


 発着場へと到着するとちょうど馬車が出る時間で、アリーがそこに立って待っていてくれた。


「あ、いらっしゃいました」


 という声に続いて、ルーとフェリペが馬車の中から顔を出す。


「おー、来た来た。遅いから私たちだけで行こうかと思っちゃったよ。ほら、走れー」


 皆既に来ていたようだ。

 待たせるのも悪いので、俺は言われたとおり走って馬車乗り場へ向かう。


「お待たせ」

「いえ、そのようなことありません」

「あるよー、そのようなことー」


 アリーとルーが正反対の返事をするのを、フェリペが苦笑して馬車の中から目を光らせている。

 その三人とともにネマンへと向かう馬車へと、俺は乗り込んだ。




 馬車の旅はしばらく続いた。

 しかし今回の旅はとりたてて問題もなく、寄り道もせず、まっすぐにネマンへと向かっていく。

 前回は目的地のプローカイに行くまでに結構寄り道したからね。 

 今回は目的地まで一直線で旅に変化をつけるのだ。


 そして翌日の夜、俺たちはネマンに到着した。


「んー、体がこったー」


 ルーが真っ先におりて、体を伸ばす。

 その場で飛び跳ねたり、腰を捻ったりとストレッチに余念がない。

 そのたびにスカートがヒラヒラと揺れて、ネマンの人達の視線(八割男)を早速奪っている。


 続いて俺達も馬車から降りた。

 なにはともあれ、宿をとって休むことにする。

 馬車にのりっぱなしはルーじゃなくてもつかれるよ。

 節々が痛いし、お尻もガタガタという揺れで痛い。

 早く広々とした宿の部屋に行きたいよ。


「それでは、ご案内いたしますね。フェリペ様、以前とっていた宿にいたしますか?」


 アリーが故郷だけあって先導する。 

 尋ねられたフェリペは軽く首を振った。


「別にどこの宿でもいい。が、あそこでもいい、もちろん。道もわかっているし、そこにするか?」


 よくわからないが、とりあえず早く休みたいので俺たちは満場一致で宿にむかった。町を見たりあれこれするのは明日以降だ。

 宿はなかなか大きいところで、部屋数も多そうである。

 宿親父に聞くと部屋は十分空いているそうで、俺たちはここに泊まることにした。


「それじゃあ、アリー、ありがとう。お休みなさい」

「えっ……」


 宿の出口へとアリーを見送ろうとした俺たちだったが……アリーがずうんと沈み込む。

 それを見たルーが首をかしげた。


「んー? どうしたの、アリー?」

「いえ……たいしたことではないのですが……私は宿に泊まらないということですね」

「そりゃそうじゃない? だってここにアリーの家があるんでしょ?」

「それはそうなのですが……」


 アリーは左右の手の指をあわせ、うーんと唸っている。

 俺もルーに続いて尋ねる。


「もしかして、ここに泊まるつもりだった」

「はい! そうです」

「でも、なんで」

「それはその……皆で旅しましょうという話でしたのに、それでここまで馬車の旅をやっていましたのに、私だけ別の場所に寝泊まりするのは、なんだか仲間はずれみたいで……寂しいというか」


 言い辛そうにしつつも、根が正直者なので、アリーは尋ねられたことを包み隠さずにしゃべった。

 俺たちは、その告白を聞き、軽く吹き出す。


「ああっ、やっぱり笑われました。うう、だから恥ずかしかったんです」

「いや、ごめんごめん。それなら一緒に泊まろう、アリー。たしかにアリーの言うとおり、一緒に旅してきたし、しばらくは一緒に冒険するんだしさ。ね、フェリペもそう思わない?」

「俺はそれで構わない。そんなこと、好きにすればいい」


 実にフェリペらしい答えである。


 アリーは少しばかり考える様子だったが、やはり満足げな表情で頷いた。

 かくして俺たち四人はネマンの宿【朝月亭】を拠点と定めたのだった。




 翌朝。

 爽やかな快晴の空の下、俺たち四人はネマンの郊外にいた。


 ネマンのまわりには山が多い。

 俺たちが来た方向である西には街道が延びているが、それ以外の三方を連なる山々に囲まれていて、それらのうちの多くは、色々な鉱物がとれる重要な資源であるということだ。


 市街部と山の間は、ひろい所も狭いところもあり、広いところでは、山から流れる川の水を利用した農地が広がっている。

 俺たちはその川沿いに歩きつつ、山の麓から、濃い緑に覆われた山を見上げたり、おそらくは鉱物を掘りにいくのであろう。


 そして同じく歩いている俺たちもまた、別の穴を探して歩いていた。


「あったよ、洞窟が!」

「でかした!」


 ルーが指さしたのは、ネマンの街を東に向かって歩いて行った先にある、山の麓にあいている穴だ。

 俺は、入り口からのぞき込みながら、アリーに振り返る。


「アリー、これが?」

「ええ。旧坑道です。昔は錫を掘っていたのですが、思いの外浅いところで埋蔵されていた鉱物がなくなってしまい、そのまま放置されていたということですが、いつの間にか誰も掘っていない洞窟へつながったらしいです」

「へえ。自然に脆くなった箇所が崩れたりしたのかな。そこが、ダンジョンになっていると」

「ええ。モンスターもいるようで、魔元素も豊富で明るいという話です」


 なるほど、面白そうだ。

 まずここはチェックだな。


「ここにもアンデッドとかがいるかもしれないな、暗いし」


 と俺が洞窟を覗きながら言うと、アリーが思い出したように口を開いた。


「アンデッド――エイシ様が、エピ様という吸血鬼の方とも知り合いと聞いたときは驚きました」


 プローカイやアンホーリーウッドでのことはアリーにも話していて、エピのことも知っている。


「吸血鬼に縁があるみたい」

「リサハルナ様だけでも驚いたのに。吸血鬼って珍しいのかと思っていましたが、実は結構たくさん身の回りにいるものなんですね」

「いや、ないない」


 感心した様子のアリーに手を振り、否定する。

 どう考えてもあの二人がたまたま周りに居るのが奇跡的なだけで、普通の確率ならいないと思う。いやまあ、もしかしたらは実はその辺歩いてる人が吸血鬼という可能性も……あるのか?


 などと思いつつ、街の周囲の様子を見ながら、他にもあるダンジョンの場所も調べておく。

 まずは調査してから、どこに行くかを決めるつもりだ。


 いきなりダンジョンのことを調べているのには、理由がある。

 もちろん、アリーやフェリペとも久々にあったことだし、冒険しようということもあるが、それ以外にも、俺の個人的な。


 それは、【パラサイト・モンスター】だ。


 覚えてすぐは色々緊急事態でじっくり寄生して育つどころではなかったが、今ならその力を思うがままに使える。

 ダンジョンに行き、そこのモンスターに寄生する。

 そうして、珍しいモンスターのみが使えるようなスキルを身につけるんだ。


 もちろん、ネマンという新しい街に来たことだし、人間の寄生もしたいところ。

 最近は結構ご無沙汰だったからな。学校いったり墓場にいったりで、寄生で育てることは。

 モンスターに寄生できるようになったし、新たな土地に来たことだし、ここいらでいっちょたっぷり育ってやろうじゃないか、とそう画策している。


 さてさて、どれくらい育てるか、寄生計画始めましょう!



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