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116、フェリペのお料理教室、そしていざネマンへ

 ルーとフェリペの二人は町中で出会い、そして一緒に俺のとこへ案内しに来たらしい。ローレルにルーがいたころに会ったことがあり面識はあったそうだ。

 そして、ルーは道すがらアリーのことを聞き、フェリペは俺のことをそれぞれ聞いたということだ。


「事情はわかったか? さあ、ローレルを出てからこれまでに手に入れたものを教えてもらおうか。なに悪いようにはしない。役立つものを作ることは約束してやる」


 フェリペは俺ににじりよってくる。

 俺は後じさりしながら、両手でストップをかける。


「近い、近いから。というかいきなりすぎでしょフェリペ」

「大事なことを先にやれと言うだろう」

「はは、相変わらずだね。ある意味安心したよ。まあ、別にこれから何かあるわけでもないし夜にゆっくり話すよ」


 と言いつつ押しとどめていると、アリーが口を開いた。


「そうですね。もういい時間ですし、お食事でも先にとってはいかがでしょうか」


 あ、再起動してる。

 立ち直りが早く……もないな、事情を聞いてる間ずっと微動だにしないで凍ってたし。


「食事! いいねー、お腹減った。フェリペ、約束約束」


 と、アリーの言葉を聞いたルーが俄に活気づく。体を伸び縮みさせ、括られた桃色の髪をゆらゆら振り子のように揺らしている。

 しかしフェリペがその隣で、少し渋い顔をしているが。


「約束って?」

「エイシのところに案内したら、御飯を作ってくれるって話」

「へえ、そんな約束を」

「……今じゃなきゃダメか?」

「ダメ。今食べたい、今お腹減った」


 ルーがお腹を撫でるジェスチャーをすると、フェリペはやれやれとため息をつく。どうも、フェリペは料理ができるらしく――一人暮らしをしばらくしていて、ここにはコンビニやらカップ麺やらないのだからできなきゃ困るか――しかもまあまあの腕前のようで、そのことをローレルで聞き覚えていたルーが、俺のところへ案内することと自分の見つけた素材と引き替えにごちそうするよう要求していたということらしい。


「やれやれ、わかったよ。約束は約束だ。終わったら守ってもらうからな、ルー、エイシ」


 フェリペは肩をすくめつつ、宿の中へ入っていった。

 いや、俺は約束別にしてないんだけど。




 フェリペは宿屋の厨房に入り、あれやこれやと忙しく動き回っている。

 どれくらいの腕前なのかと思って見ていると、思った以上に手際がよく、あれよあれよという間に料理ができていった。


 フェリペが振る舞った料理の一つは、豆のクリームスープ。

 どんな腕前かと料理を作る様子を見ていたのだが、こんな風に作っていた。


 麦粉を水に浸し、そこにたっぷりのチーズとはちみつと卵を加えてよくかき混ぜる。十分にまざったらそれを煮る。そうするとチーズの塩気とはちみつの甘みがきいたスープができる。

 そこに具として黄色緑色赤茶色などの大小何種類かの豆をいれ、みじん切りにしたパセリのようなものを振りかけて完成。


 手際はテキパキとしていてよかったし、見ている限りではなかなか美味しそうだった。

 これに加えて、羊のソーセージをパリッと焼いたものと茹でたものに、ハチミツと辛子、塩、胡椒、酢を混ぜて作った甘辛いソースを添えたものやサラダ、ニンニクで香り付けをしたパンなどが供され、食卓はなかなかに豪華なものとなった。


 すべてが揃い、俺たち四人はテーブルを囲み、いざ実食の時が訪れた。


「楽しみですね」

「うん。本当に出際いいね、フェリペ。じゃあ食べようか」

「おおお、うまいっ!」


 食べようと言ったときにはすでにルーが口の中に料理を放り込んでいた。そんなに腹ぺこだったのか。


「いいねぇこれ、甘辛くてもりもり食べられるよ!」


 ルーはまずソーセージを気持ちの良い皮の破れる音を立てながら食べている。甘辛いソースはかなりお気に入りのようで、つけすぎなぐらいつけている。


 俺はクリームスープをすくって口へと運ぶ。


 ……これはおいしい!

 チーズの香りと塩気がちょうどよく、ハチミツが入ってるからか、味がまろやかになっていてかすかな甘みが後に残る。

 ソーセージのソースにもつかっていたし、フェリペはハチミツを使うのが好きなのかな。見た目に似合わず甘党なのか。

 それともローレルじゃよく使うのか。料理には詳しくないのであまりわからないが、しかしまあ甘党でも辛党でも、美味しいから何でもオッケーだな、うん。


「おいしいですね……フェリペ様はこのような特技もあったのですね。道具職人ですから、手先が器用で料理も上手なのでしょうか」

「さあ、それはわからんが、別に職人じゃなくてもこのぐらいの料理ができる奴はいくらでもいるだろう」


 アリーはフェリペの料理に感心しながら、フェリペが料理をしていた時にとっていたらしいメモにチラリと目を落とした。味付けや、料理のコツなどを教えてもらったらしい。

 俺の脳裏には以前お弁当を作ってもらったとき、あまりうまくいっていなかったことが思い出される。アリーもそのことがあったから、教えてもらおうと思ったのかな。


 まぁ、こんなのが自分で作れるようになったら、もう飯の心配なんてしなくていいだろうな。それなら俺も覚えようかな。今度時間があるときにちょいちょいやってみるのも悪くないかも……というか時間のない時って特にないような気もするけれど。


「うんうん、フェリペってやるねえ。コックさんにもなれるよ」


 一番勢いよく食べているルーが言うと、フェリペは大したことないと口では言いつつも、表情は得意げで、口元が緩んでいる。実は結構料理を褒められると嬉しいタイプとみた。


 そんな風におれたちは料理に舌鼓を打ちながら、楽しい夕食の時を過ごした。


「それでだ、エイシ。そろそろ答えてもらうぞ」


 そして食事も一段落し皿があらかた片付いた時、フェリペは俺に向かって強いまなざしを向ける。


「何に?」

「何じゃないだろう。どんな魔法素材を見つけた? お前のことだから、ローレルを出てからこれまでの間に何か珍しいもの見つけたんだろう? 見つけてないとは言わせないぞ」


 フェリペは身を乗り出して、問い掛ける。

 食事中でも相変わらずである。


「本当にローレルにいたときと全然変わらないね」

「ローレルにいた時からたいして時間も経っていないのだから、そんなに変わるわけがないだろう、人間そうは」


 フェリペは自信満々に言う。それは自信満々に言うほどたいしたことでもないと思う。


「まあ、それはそうだろうけど」

「エイシ、お前から供給されるレアな素材でレアな魔道具作ろうとあてにしてたのに、いなくなっちまうんだから、まったくな。……まあ、それはもういい。それより見つけた珍しいものだ」


 そのために街を出て捜索の旅にくるとは執念恐るべし。

 ま、俺もフェリペの腕前を認めているし、珍しい道具が作れるというのなら困ることはない。むしろ願ったり叶ったりだ。


 というわけで俺はアンホーリーウッドで見つけた素材を出した。

 黄金の大腿骨、白化した根源、固体の狐火etc...

 それらをチラ見せすると、フェリペが目を輝かせる。


「おお、やっぱりそうか。来た甲斐があったってもんだ。よし、食え食え。何でも食べたいことものがあるなら言っていいんだぞ。」

「なにそれ餌付けですか」

「その通りだ。どうせならそれを手に入れた時の話も聞かしてくれないか。何をやって何があったのか、気にならないわけじゃないからな」

「フェリペの中で俺はどういうポジションなのか若干気になるよ」


 俺はルーやアリーにもまだ詳しくは話していなかったなと思い、ちょうどいいということでアンホーリーウッドであったことを話した。

 そして、アリーやフェリペがここに来るまでに経験したことも聞き、いろいろとつもる話をして、夜を明かしたのだった。




 それからしばらく、アリーとフェリペもプローカイに滞在していた。

 アリーは観光したり、冒険者ギルドに行ってルーや俺と一緒に依頼を受けたりした。フェリペは魔道学校に行って、そこの知り合いなどと何やら魔道具についての相談をしていたり、俺が渡した素材をそこで怪しく加工したり、あとはちょっとばかり一緒にコロシアムを観戦したりもした。実は結構好きらしい。


 そんなこんなで、プローカイでそこそこの時を俺達は過ごし、そして――。


「ネマンに行こうと思う」


 しばらく経ったある日、俺はそう口にした。


 プローカイは街の中も周囲も結構色々なところを見た。もう結構満喫したと言っていい。なら次はまた別の街を見てみたいというのが俺の性格。

 ちょうどアリーが来たのもいいタイミングと言えるだろう。もともとプローカイの次はネマンへ向かおうと思ってたしね。


「いいねぇ。また新しいところ見てみると面白そうだし、私も行くよ」


 俺が言うと、ルーも同調する。

 すると、アリーが嬉しそうに破顔した。


「ぜひ来てください。プローカイに久しぶりに来て楽しめました、今度は私が皆さんをネマンでご案内しますよ」

「俺も行こう。ローレルに戻ってもいいと言えばいいが、せっかく出かけた旅だ。旅先でしか手に入らないものをあらかた手に入れてから戻ることにするさ」


 フェリペも同調する。

 そして俺たちはネマンへと向かうことにした。




「ネマンに行くのか、エイシくん」

「はい、リサハルナさん」


 街を発つ準備をしていると、リサハルナがエピとともに俺のもとを訪れた。

 彼女たちは、ちょいちょいプローカイにやってきている。アンホーリーウッドには無い物資等はやはり人間の街で手に入れるに限るという事らしく、それでプローカイとアンホーリーウッドに半々ずつ滞在しているという感じだ。


「少々興味もあるが、久々のアンホーリーウッドのほうもなかなか面白いんだ。そこで私はしばらくここに残ることにするよ。世話になったね」

「こちらこそ、助けてもらいました。里帰りみたいな感じですね」

「ふふ、そうかもね。君もいつでもアンホーリーウッドに来たまえよ。……もっとも、私も気の赴くままに好きな場所に行くから来ても会えるかどうか保証はできないけれどね」


 リサハルナはくっくっと笑う。うーん実にリサハルナらしい。

 俺はエピの方へ続いて体を向けた。


「エピも元気で」

「ネマンだな。ネマンでいいんだな」

「うん、そうだけど。ずいぶん確かめるね」


 エピは当然だと言わんばかりに、俺のみぞおちに拳をポンポンと当てる。


「会いに行った時に会えなかったら困るからな。エピはまだアンホーリーウッドのゴタゴタを色々片付けなきゃならないけど、一段落したらまた外をプラプラ歩いてみるのも悪くないと思ってる」

「そっか、それは楽しみだね。前みたいなまがまがしい雰囲気じゃないアンホーリーウッドも見てみたいね」

「結局アンデッドのすみかだから元々まがまがしいけどな」

「あ、そうなんだ」


 はははと苦笑いする俺とエピ。と、エピは突然ぺろりと首筋を舐めてきた。俺は思わず背中を反らした。


「うひっ! な、何を、エピ」

「ふふふ、ちょっと血を吸ってみたかったから、その代わり。今度会ったらちょうだいね、エイシの血。リサハルナ様にはあげたんだから。エピもどれくらい美味しいか飲んでみたいんだよね」

「俺の血はジュースでも健康ドリンクでもないんだけど?」

「あははっ、じゃあね、エイシ! 元気でね!」

「息災でな、エイシくん。これは私たちからの餞別だ。参考になるかどうかはわからないが、あとで読んで見るといい」


 リサハルナはそう言って俺に手紙を渡す。クリーム色のその紙には、何か重要なことが書いてあるような重みを感じる。


「……うん、あとで読んでおくよ。そっちこそ元気でね。それじゃ、また!」


 いたずらっぽく笑うエピとリサハルナに手を振り別れた俺は、ネマン行きの乗り合い馬車の発着場へと走って向かった。


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