12,寄生してレベル上げたんだが、育ちすぎたかもしれない
それからは朝夕宿で食事をしつつ、昼は宿にいて、暇つぶしにマリエちゃんの仕事を宿で手伝って談笑したり、宿の親父さんの新作料理の味見をしたり、そんな流れで昼飯も宿で食べるようになったり、より一層外に出る必要がなくなった。
やはり俺の可能性がパラサイトしかなかったというのは正しい。
これまでは異世界に来たことで行動的になっていたが、宿の自分の部屋がメインのフィールドに気がつけばなっていた。
三つ子の魂百までである。
そうこうしているうちにもレベルは上がり、お金は貯まり、宿の親父との友好度も上昇していく。
そんなこんなで気がついたら【クアドラプルパラサイト】ってスキルが身についた。
お察しの通り、四人に寄生でき、効果は四倍。
つまり実質十六倍。ニート生活が捗りまくって困る。
あんまり捗りすぎて、だいぶ長いこと引きこもってしまった。
もう馴染みすぎて宿の客からただいまとか挨拶されちゃうレベルです。つねに宿にいる存在と認識されてないか?
「でもさすがに飽きてきたな」
と思ったのは、そんな生活がしばらく続いた後だった。
だらだらした生活って、異世界では結構難しい。
PCないと間が持たないなあ、実際。
逆に言えばPCがあればどれだけ部屋に閉じこもっててもまったく飽きることなく無限に時間つぶせるからやばい。
あれは人間を堕落させるために悪魔が発明したと言われたら納得してしまうね。
まあ、PCはともかく、本などもあるけどずっと本を読むだけというのも目がしょぼしょぼするので、散歩がてら外に出ることにした。
と、その前に。
少し気になっていることがあって、ステータスを見てみようと思った。
【名前】エイシ=チョウカイ
【クラス】パラサイト21 マーシナリー13 魔道師6 剣士7 神官10 狩人12 呪術師9 闘士3 鉱員8 シーフ10
【体力】 144
【攻撃力】 120
【防御力】 108
【魔力】 125
【魔法攻撃力】 101
【魔法防御力】 115
【敏捷】 127
【スキル】クアドラプルパラサイト パラサイト・クラス パラサイト・インフォ パラサイト・ゴールド 近接武器マスタリ 強撃 魔道具マスタリ 魔法の矢 剣マスタリ 連続剣 ディスペル 弓マスタリ ブースト タフネス 祈り(美しい) ホリ・ジョウズ 腕力アップ 鷹の目 地形適応:森 地形適応:洞 軟化の呪 剣折の呪 泥濘の呪 タフネス 命中補正 マジックブレイド ハイアタック ハイアタック 正邪印 マジックアローレイン イーグルアイ 見切り……
クラスがガッツリ増えたため、スキルがさらにガッツリと増えている。それぞれのクラスのスキルに加えて複合スキルもあるので、もはや自分でも何が何だかよくわからなくなってきてます、はい。
クラスはある程度レベルを上げていかないとスキルをあんまり覚えないこともあり、変える前に少しはレベルを上げるようにはしてるけど、とりあえずレベルアップが鈍くなるまでは。
でもクラスを増やすべきなのかなとも思うし難しい。
なんで結局気分で変えちゃったりもしてるから統一感ないけど。
まあスキルはたくさんあって嬉しいのだが、それよりも俺が確認したいのは、能力値の方だった。
以前ウェンディに尋ねたところ、あのギルドの一般的な冒険者のステータスは平均120とか130とかそのくらいかなあと言っていた。
つまり今の俺とそう変わらないのだ。
クラスが普通は一つしかないのに能力が高いのは、まあ、素の能力が経験を積んでる分俺よりは上ってことなんだろうけど、それよりも不思議なのは、俺がコキュトスウルフのような強力なモンスターを倒せたことだ。
このステータスじゃかなり厳しいと思うし、凄く硬いというコキュトスウルフを切れた理由がない。
この程度のステータスでなんでなんだろうなあ。
とステータスを眺めていて、違和感に気付いた。
同じスキルが二つある?
タフネスやハイアタックなど、同名スキルが二つある。気になって詳細を見ると、覚えたクラスが異なっていた。
別々のクラスで同じスキルを覚える場合があって、それで二つあるんだ。
その瞬間、はっと気付いた。
まさかと思い、俺は能力値に対して解析レンズを使い詳細を見る。
「――そうだったのか」
ハイアタックが常に攻撃力1.4倍。剣マスタリが剣装備時に攻撃力と敏捷1.3倍。近接武器マスタリで近接武器装備時に攻撃力防御力1.2倍。腕力マスタリで常に攻撃力1.2倍。地形適応:森で森にいるときに全ステータスが1.15倍……。
などといったパッシブスキル――条件を満たせば自動で効果を発揮するスキルがあり、これらはその中でも能力を増す効果がある。
そして、これらは同名のものも含め、全て効果が重複していたのだ。
つまり、俺の攻撃力は基礎の値に1.4×1.4×1.3×1.2×1.2×1.15=約4倍の補正が常にかかっていた!
さらにアクティブスキル、つまり使った時だけ効果のあるスキルとして俺はブーストで攻撃と敏捷を強化し、強撃で一撃に限り威力を上げた。それぞれ3割アップと3割アップ。
この効果もあわせれば――おそらく、俺はコキュトスウルフに通常の7倍近い威力、攻撃力にして700以上の斬撃を食らわせたということになる。
そりゃ死ぬわ。
ためしに剣を手にとって解析レンズを攻撃力に使ったら、一部スキルが働いてない今でも120(440)って出てる。
普通じゃ基礎値しか見えないけど、詳しく見ると補正込みの値が見えるってこと、今知ったよ。
でも、わかった。
これだったんだな。
普通この世界の人は一つのクラスしかもっていないらしい。実際、今まで俺が寄生したなかで二つ以上のクラスを持っている人は一人もいない。
その場合はこの手のスキルはたいして重ならない。たとえば剣士なら剣マスタリだけしかない。それにアクティブスキルをかけあわせても、せいぜい2倍もいくかどうかってとおころだ。
それが、俺の場合だと十個ちかくの能力アップが重なりに重なった。
それら全てが乗算でかかっていくため、数が増えると爆発的に効果が増してしまったのだ。本来あり得ない超補正がかかった。
30%アップも十回続ければ1000%ほどにもなる。
いやあ、複利の怖さがよくわかるね、借りたお金はすぐに返さないと。
他の能力値も同じようにガッツリ上昇していたわけだな、どうりで狼の攻撃もひらひらかわせるし、魔法も一撃必殺だったと。
ある意味数の暴力。
倍々ゲームでテンション上がってしまった俺は、自信とやる気が溢れるままに、宿を出てダッシュした。
もちろん変な目で見られました、はい。