11,期待の新人
証拠にローレルウルフたちの牙を切断し、俺たちはローレルのギルドへと帰った。ギルドの受付でとってきたものを見せると、ウェンディが首をかしげた。
「一対妙に大きい牙があるんですけど、しかも青い宝石みたいなのが埋まってますね。これって、ローレルウルフじゃないような?」
「それはコキュトスウルフよ。ローレルウルフたちの親玉を気取ってたみたい」
「コキュトス…………ええぇっコキュトス~!?」
ウェンディが目を丸くした。
と同時に、冒険者ギルドの中がざわめきで満たされた。
「そ、そんなのがいたんですか!? 怪我は? お二人におけがは?」
「大丈夫よ、私は生きてるのとは会ってないから。エイシが、彼が一人で倒したの」
ウェンディの、冒険者ギルドの中の人達の視線が俺に向く。
俺はなんとなく、とりあえず頷いておいた。
「す、すごい。冒険者ギルドに登録してなかっただけで凄腕だったんですね。言ってくださいよぅ。お姉さん気分で説明しちゃったじゃないですか~」
「いや、お気になさらず。実際ギルドのこととか知りませんでしたし、色々と。それより、早くその、依頼完了の処理をお願いします」
「あ、はい。忘れてました。じゃあ、やりますね」
ウェンディは書類にさらさらと書き、ギルドカードを出すように言って、魔道具を取り出しギルドカードに当てた。これで依頼を記録しているのだろう。
そして規定の報酬を取り出して、遠慮がちに渡した。
「あの、すいません、一応依頼の報酬はこれなんです。ちょっとでごめんなさい、コキュトスウルフを倒してくださったのに」
「いや、全然! むしろ一匹ローレルウルフじゃなくて大丈夫かなって心配してたから、もらえただけでありがたいです」
俺がそう返事すると、ウェンディは驚いたように身をのけぞらせる。
「そう言ってもらえるなんて! こっちの方がありがたいですよぅ。変わりと言ってはなんですが、そのコキュトスウルフの牙の宝石は強力な魔力を秘めていますから、結構な額になると思いますよ。あの、あと、なるべくいい依頼を紹介させていただきますね!」
俺は礼を言い、報酬を受け取ってカウンターを離れた。
それから遠慮するヴェールに無理矢理報酬を半分ずつ分けて、さらに倒したモンスターから素材として使えるものをとって、それを換金して半分にわけた。ただ、牙についている宝石だけは、倒した証として受け取るようにヴェールがかたくなに言い、俺は折れて受け取った。
全て後処理が終わると、俺は宿屋に戻った。
マリエちゃんにいつもどおりにお帰りなさいと言われると無性にほっとする。いつも頑張ってるなあと頭に手をぽんと乗せて答えると、顔を赤くして固まってしまった。
部屋に戻ると、所持金を確認もせずにベッドにダイブ。
「はー、疲れた。なんか戦うより疲れたよ」
あんなに注目の視線を浴びたり色々言われることには慣れてないんだよなあ。
もっと静かにまったり暮らすために、強い魔物はなるべくもっとひっそり倒すようにしよう。
「でも、依頼を出来たし、結構、いやかなり戦えるとわかったのは依頼の報酬以上の成果だった、これでとれる行動がだいぶ広がる」
とはいえ、成長に関してはパラサイト最強なのは変わらないだろうけど。
しかし物や金を手に入れるには、依頼をこなさなきゃいけないわけだし、そういうのが簡単にできるってわかったのはよかった。
【パラサイト 19→20】
お、レベル上がった。やっぱりあのコキュトスウルフは経験値多めだったのかな?
【スキル パラサイト・ゴールド取得】
しかも新スキルもだ。
……しかし、このスキル名、もしかして。
俺は解析レンズを使いスキルの詳細を見る。
レンズはあっさり割れたが、しかし、もうそんなことはどうでもよさそうだった。
【パラサイト・ゴールド】
寄生した者が得た金を自分も得ることができる。
依頼でお金稼ぐ必要もなくなったよ!
お金を得ることができるっていうのがどういうことかってのは、翌日の朝にわかった。
朝起きると、枕元に貨幣が積まれていたのだ。
最初は何が起きたのかと思ったけど、すぐにスキルのことを思い出し納得した。
昨日一日の間に寄生している人が稼いだお金を得ることができたのだと。
もっと正確に言うと、トリプルパラサイトの力で、寄生相手の稼いだ額の三倍があるのだと。
おおざっぱに計算すると、他の人の三かける三で九倍の収入が寝てても入ってくる計算になる。
これもう依頼とかまったく必要ないですね、はい。
もうだらだらしてるだけでよくなった。
思う存分宿にいよう。