357列車 なっ!
米原駅。滋賀県唯一の新幹線駅である。在来線としては北陸の玄関口、アーバンネットワークの東端にあたる当駅であるが、新幹線は1時間に1本の「ひかり」と1本の「こだま」しか停車しない中間駅である。
そこに到着するのはN700系。電光表示には赤地に白の文字が入る。東海道新幹線内の「ひかり」だ。扉が開き、ちょっと大きめの荷物を持って降り立つ人がいる。皆一様に改札口へと続く中央の階段、エスカレーターへと吸い込まれていく。
「来ちゃった・・・。」
旅行にでも行くような大きなバッグをたすき掛けする女性がそう呟く。
「ウッ、まだ寒い。失敗したかなぁ・・・。」
吹き抜ける風を受けるとその感想がこぼれた。来ているものは全部薄手だ。冬物のコートは今トラックの中で揺られている頃だろう。
「梓ちゃん行くぞ。」
「ごめん。」
小走りに呼んだ人のところへと向かう。
「梓ちゃん、その・・・。」
「いいの。私が付いてきたかったからついてきたんだし。それに結婚したんだから気にしないの。もう、その話はもうしないってことだったでしょ。」
「ああ、悪い。早いところ行こうか。でないと坂口さんを待たせることになるからな。」
「うん。」
それで二人も階段の方へと歩いていく。乗り換え口の人はもうほとんど履けてしまっていた。
「ティンコン。」
携帯電話がそうなった。ラインが来たのだ。
「次で守山だった。もう着くよ。」
と来た。
「もう待ってるよ。」
と送った。時間は10時36分をまわったところである。10時38分発の列車が大阪方面行きの一番上に表示されている。どうやらその列車で来るようだ。
ちょっと待っていると下り線側から人が出てくるようになった。列車が到着し、ここで降りる人たちが出てきたのだ。その中に知人の姿を探したが、まだその中にはいない。だが、すぐにその人は現れた。
「梓。こっちこっち。」
そう言って手を振った。それに気づいたようで梓も改札から出てくると駆け寄った。
「久しぶり、萌ちゃん。」
「久しぶり。梓。こうやって会うのは卒業式以来かな。」
お互い手を取り合った。
「そうね。卒業式以来ね。萌ちゃんが大阪行ってから会うことなかったしね。」
「・・・。」
「梓ちゃん。」
「えっ・・・。」
その声に思わず固まった。固まったのは梓ではなく萌の方だ。ふと声のしたほうを見ると、よく見慣れた顔の人がたっている。誰だかはすぐに分かった。ロッカーに名前が張ってある時点でその人ではという思考が働いていたから、そっちは別に驚かない。だが、それよりも驚くのは梓と一緒に来たという事実である。
「ウソッ・・・。」
「エ・・・ヘヘ・・・。」
「えっ、マジッ。」
「マジです。」
そう言いながら、梓は恥ずかしそうに左手を見せた。薬指には見ればすぐに分かるものがはまっている。指輪だ。
「ちょっと、待って結婚してたの。私知らないんですけど。」
「だっ、だって黙ってたもん。その恥ずかしくて・・・。結婚式は全部身内だけで済ませちゃってたの。」
「いや、それは別にいいけど。えっ・・・。嘘でしょ。信じらんない。あのスーパー恥ずかしがり屋の梓がほんとに鳥峨家君と結婚したの。」
「そのスーパー恥ずかしがり屋の私は本当に大希君と結婚したの。」
「じゃあ、何。初めても済んだってこと。」
声を小さくして、梓の耳にささやくように言った。
「ちょっ・・・まだお昼にもなってない。」
顔真っ赤にしてそう言ってから、今度は萌の耳にささやくように
「その話はまた二人だけになった時にね。」
と言った。
「梓ちゃん、坂口さんいい。」
鳥峨家君が話しの切れ間に入ってくる。
「これから、俺と梓ちゃんは新しいところに行くつもりだからさぁ。また今度梓ちゃんと話してよ。こっちで知り合いって坂口さんぐらいしかいないからさ。」
「それは別にいいよ。でも、新しいところってどこなの。」
「えーとねぇ、確か・・・。」
「○○ってところだよ。」
考え込む鳥峨家君に梓が助け舟を出す。
「ああ。そうそれ。部屋は312だったかなぁ。」
「そこ私も住んでるところなんだけど。」
「えっ、マジ。」
今度驚いたのは梓達の方だ。
「日綜警に努めている人なら他にもいるよ。でも、二人って入れるのかなぁ・・・。確かに二人入っても問題ない広さあるけど。」
「そういう所ケチりたかったんだろうな。会社としては。」
ケチるところがなんか違うのは気のせいだ。
「上の人の考えることって本当に分かんないわよね。でも、案内だったらしてあげる。私は梓達の隣の部屋なの。それに、私と同じところに行ってる人も実は隣だったりするのよ。なんかの偶然かなぁ・・・。」
(偶然にしては出来過ぎよねぇ・・・。でもいっか。知らない土地に顔見知りがいるといないじゃ大違いだから。)
まあ。




