表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MAIN TRAFFIC3  作者: 浜北の「ひかり」
Office Episode
56/69

348列車 三連話

 何年くらい前の話なのだろうか。それは分からない。ただ、結構前の話であることには変わりない。

 時間は0時を過ぎている。ただ、まだ休憩時間までは長い。前話の巡回と同じように車が上から降りてきて、普通の道に出ようとする。運転している人は夜露(よつゆ)副長、助手席には落ちかけている赤城(あかぎ)さんが乗っている。

 道に出る前にいったん停止する。今出ようとしている道は昼間結構通りの激しい道だが、22時を過ぎるとその交通量は一気に減る。ときどきくるトラックや乗用車があるぐらいだ。今どっちからも車は来ない。

「左自転車。」

発進した瞬間に赤城(あかぎ)さんの声が車の中に響く。その声にブレーキを踏みこんで、車はびっくりしたように停車する。赤城(あかぎ)さんの声量は差し迫った危険を示唆するぐらいの大きさだった。自転車は相当近い位置にいたことになるが、当の自転車は車の前も後ろも通らないばかりか現れない。

夜露(よつゆ)副長、いくらなんでも今のは目が覚めます。今左から自転車が来てました。」

「えっ、自転車なんて見えなかったけど。もしかして無灯火。」

車を運転していれば、無灯火の自転車の怖さっていうものがよく分かるはずである。ライトを付けない自転車は運転手からは見え辛い。発見が遅れ事故になる可能性を孕んでいる。

「無灯火ではありません。ちゃんとライトつけてました。」

「そんな自転車見えなかったけど・・・。」

「えっ・・・。」

車の中が一気に寒くなった気がする。今夏なのだが・・・。さて、車の周りを見ても走り去る自転車の姿は無いし、近づいてくる自転車もない。

赤城(あかぎ)、ちょっとなにを見たの。」

「・・・もう何も聞かないでください・・・。」

というのが精一杯だった。


 前話の時とは違い、今度は車を上において、そこから調べられる点検個所まで歩いていく。懐中電灯を片手に歩いていくのは僕たちがここに来た時にはもういない人なのだけど名前は駿河(するが)さんっていう人。その時期は定年が近づいてきていた時らしい。一緒に仕事をしているのは土佐(とさ)さん。

駿河(するが)さん、こっちタバコ吸ってますよ。」

「はい、じゃあおじちゃん調べて来るわい。」

そういい、ゆっくりした足取りで調べに行った。

 煙草の煙が夜の空に靡く。夏であるから、まだ昼の暑さが抜けきっていないようだ。まぁ、空気が湿っていないから身体にまとわりつくような気持ち悪さは無い。

「ハァ・・・。ってあれ。」

土佐(とさ)さんが煙草をふかしたとき、懐中電灯を持ってこっちに戻ってくる駿河(するが)さんの姿を見た。

(もうちょっとかかってたと思ったけどなぁ・・・。)

そう思っていた時、駿河(するが)さんがこう言ったらしい。

「なぁ、土佐(とさ)君。人がいるんだけど。」

(・・・人。点検個所に・・・。)

「そりゃ、まずいなぁ。飛び降りようとか考えてなきゃいいけど・・・。」

時間は22時を過ぎたぐらい。新幹線はまだ動いている。もう東京に向かう列車は無いが、新大阪(しんおおさか)に来る下りと名古屋(なごや)まで運転する上りが残っているからだ。京都が近い場所だが、ここでも十分に200キロ以上のスピードを出して通過していく。N700系はまだ登場していない時期だが、300系にも、500系にも、最新鋭の700系にもそれぐらいの性能が備わっているからな・・・。

「いや、そっちに人はいないんだ。あっちの方歩いて行ったら井戸みたいなところがあるだろう。」

そう駿河(するが)さんは言う。

「井戸・・・。ああ、有りますね。」

「そこの上に軍服来た人立ってるんだわ。ただ、懐中電灯で照らしたら消えて、また照らさなくなるとボアッとあらわれるんだ。」

「・・・。」

(それってマジの幽霊じゃん・・・。)

軍人って、確かにここには軍人が祭られているお墓もあるけど・・・。

「あ・・・足はあったんですか。」

「足はあったよ。じゃなくて、早くこっから出るけどいい。」

「はい。」

車にそそくさと乗りこんで、ここから出た。


 時間は今0時30をまわろうとしている。新幹線は法律的にも走ってはならない時間になっている。最短3分間隔で運転される東海道新幹線(とうかいどうしんかんせん)も今は沈黙している。住宅が密集するところを通り抜ける高架橋の下を通り、車は左に曲がる。名神の下をくぐる手前で上に上っていくための細い道が有り、そこに車は入っていく。

 登り切ると砂利を踏みしめる音に変わる。砂利の上を少し走ってから止まった。ヘッドライトを消すと辺りは真っ暗だ。この闇を照らす光は一つもない。

 シートを倒し、

古鷹(ふるたか)班長先休憩しますね。」

そういい、加賀(かが)さんは休憩に入った。

「お休み。」

そう声をかけた。古鷹(ふるたか)班長もそのすぐ後に書類を整理し終え、休憩する。

 周りは名神から聞こえてくる車の音もあんまり聞こえてこない。辺りは静寂が包んでいる。とても静か・・・、

「グウウウ・・・。」

いや、いびりだけは聞こえてきている。

 車はそのあと2時間動かない。次に動かすのは2時30分以降だ。

 2時30分になると携帯電話のアラームが鳴った。けたたましいぐらいの音で目が覚め、古鷹(ふるたか)班長と加賀(かが)さんは起き上がった。眠い目を多少こすった。車内の明かりが灯った。

「わっ・・・。」

加賀(かが)さんが声を上げた。

「どうした・・・。」

「ちょっと、古鷹(ふるたか)班長これなんですか。」

そう言いながら、フロントガラスを指差した。指差したところはちょうど助手席の前あたりだ。そっちの方向を見ると明らかに手形と分かるものが有った。手形だとして付いていたのは左手のものになりそうだ。

「おいおい、こんなの寝る前は無かったぞ。」

「そりゃそうですよ。流石にこんなところに手形あったら気付きますって。」

「全くこんな場所でしかもこんな時間に誰がいたって言うんだよ。」

古鷹(ふるたか)班長はそう言いウェットティッシュを片手に車の外に出た。その手形があるところにウェットティッシュを置いて、何回か往復させる。

「ちょっと待ってください。これ、外じゃなくて中です。」

加賀(かが)さんはそう言って車から出てきた。表情は完全に青ざめている。

「こ・・・これって本当にどうやってついたんですか・・・。」

流石に冗談とも思っていた古鷹(ふるたか)班長も表情が変わった。車の中に乗り込み、すぐにこの場所から出た。

「これどうするんです。」

「下にある駐車場ちょっと借りよう。」

 車を下の駐車場に止め、内側についている手形を取った。他にも手形とかがついてないか車内を見たが、車内についていたものはそれ一つだ。ただ、車の後部にも同じ手形がついていた。しかも一つではない。数えてみたところ6つあった。それを拭いたティッシュには赤いものが付いたが、結局それが何なのかはいまだに分かっていない。

 ただ、これ以降ここの墓地は夜間の休憩場所から外れることになった。


又聞きを脚色しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ