344列車 オロロン
「結局、そう言う話には発展しなかったのね。」
第一声はこれか。
「だから、そういうことに発展するわけないでしょ。」
「そうそう。」
「せっかく急接近・・・はもうしてるか。急接近から更なる発展のチャンスだったのに。よく棒に振っちゃうよなぁ。」
「更なる発展ってねぇ・・・。」
「嫌なわけじゃないでしょ、二人とも。」
「そうだけどねぇ。」
顔を見合わせた。
車は今治の運転で苫前から、小平に向け、232号オロロンラインを南下している。この国道231号と232号を含むルートオロロンラインの由来は天売島にすむウミガラスの通称にちなむらしい。そして、ウミガラスは「オロロン」という鳴き声を発するのだという。俄には信じられないけど、そう聞こえるんだろうなぁ。コケコッコーとクックアドゥドゥルドゥーの違いと同じか。
「もうその話はいいんじゃないの。」
今治がその話を止める。さすがにこれ以上発展させるほど話題もなくなっていたのか高槻もその話はしなくなった。
ふと、左側の方を見るとところどころにコンクリートの橋台が草の中に見え隠れする。このあたりを通っていた羽幌線の跡だ。
「あれはどう考えても羽幌線のだな。」
と言った。
「ここにも鉄道がねぇ・・・。考えてみれば、北海道も結構鉄道が走ってたんだねぇ。」
百済が言う。
「まぁ、ほとんど廃止になったけどな。」
高槻がそれに続けた。
今回回った道北の方(ここでは今回回ったところや旭川より北に延びた路線を対象)で廃止になったJR、国鉄の路線は中湧別~網走間の湧網線、名寄~興部・中湧別経由遠軽間の名寄本線、渚滑~北見滝ノ上間の渚滑線、興部~雄武間の興浜南線、浜頓別~北見枝幸間の興浜北線、美深~仁宇布間の美幸線、音威子府~南稚内間の天北線、そして留萌~幌延間の羽幌線、深川~朱鞠内経由名寄間の深名線があがる。地図上で地名だけを頼りに点と線で結んだとしても、海岸線を中心に道北の鉄道網が整備されていたのが分かるはずである。なお、これらの路線は1985年から徐々に廃止され、1995年に旭川~稚内間の宗谷本線、深川~留萌経由増毛に至る留萌本線だけを残して全廃された。
「建設した意味を問いたいね。」
それは今となっては問える話だな・・・。
そうそう、これに元首相の田中角栄氏と鉄道公団は関係ない・・・とはいえなかった。彼らの働きのおかげで「我田引水」ならぬ「我田引鉄」なる言葉も生まれている節はあるからなぁ・・・。
羽幌線の遺構を見ながら、国道を南下しおびら鰊番屋に到着した。
「朝ごはんまだだから、ここで何か食べよう。」
今治はそう言って車を降りた。それに続いて僕らも車を降りる。
そうだ。ここでこの沿線を通っていた羽幌線の目的について行っておこう。それにはこのおびら鰊番屋も切り離せない。
羽幌線は留萌本線の留萌から宗谷本線の幌延までをほぼ日本海に沿って北上する旅客船である。そもそもこんなところに鉄道が開業したのは旅客輸送と沿線地域から産出される石炭を一大消費地である札幌、旭川、ひいては本州に輸送するためである。さらに、沿線地域からしてみれば殆ど地元に消費されてしまう鮮魚を売り物にできる利点も生じる。鰊もその一つだったのだ。
ただ、現実ってそううまくいくものじゃない。というのはいつもの話。鰊は不漁が続くうえに、頼みの綱でもある炭鉱からの石炭等は消費が減る一方。次々と閉山していき、羽幌線の貨物輸送は終った。こうなると旅客輸送だけが残るが、もともと貨物の性格が強い羽幌線にそんな需要は無いのと変わらない。その時点で廃れる道しか残っていなかっただろうなぁ・・・。
さて、朝ご飯を食べてから、少々日本海の方を見た。小さい砂浜があるけど、テレビとかで見る遊びなんて到底できはしない。でも、そこでちょっとだけ遊んで車に乗る。留萌市を通り過ぎ、バイパスに入る。そこからは道央道と一緒になる深川まで道なりに走っていくだけだ。
道央道に入り、一旦札幌で降りる。そこで少し時間を潰してから再び道央道に乗り新千歳を目指す。が、途中で旅の最初に話題になった輪厚サービスエリアに寄った。そこで荷物をまとめ、新千歳に帰る。
と言っても、ほとんどの人は荷物を広げていないから片付けることもないのだけど・・・。
新千歳に帰ってきたレンタカーの走行距離は995キロ。あと5キロで1000キロを超えるところまで来ていた。そりゃ3日もほとんど走りっぱなしならそうなるか・・・。後は飛行機の出発時間まで空港で待つだけである。
「結構慌ただしかったねぇ。」
隣で萌が呟いた。
「そうだね。もうちょっとゆっくりしたかったかなぁ・・・。だいだいこんなことするなんて聞いてなかったし。」
「そうだよねぇ。出来れば今度来るときはどっちに行くか言ってほしいもんだねぇ。それにこれ1回だけじゃないでしょ。これからもっと道の駅回らなきゃいけないし・・・。」
「アハハ・・・網走とか根室回る日にはどうなるんだろうねぇ・・・。」
「あんまり想像したくないかも・・・。」
萌がそう言ってから顔を見合わせて、クスッと笑う。
そうそう、大阪に戻った別れ際に今治はこういった。
「また5月によろしく。」
ということらしい。
キーングボンビー。




