343列車 The 民宿
ほっとはぼろを出た。外はもう真っ暗である。今日泊まるところは苫前の道の駅風Wとままえの近くにある民宿である。民宿の名前は民宿31ノット。そのままだ。
ここからの運転は萌に変わる。
「でも、萌ちゃん夜運転大丈夫なの。」
今治がそう聞くと、
「大丈夫だよ。僕らは夜も最低35キロ近くは走るしね。」
そう僕が答えた。今治の心配は杞憂である。そもそも、新幹線の沿線をほぼ半日走り回る仕事だからだ。夜の道に慣れていないと思う方がおかしいが、他の警備隊からしてみれば、心配になることでもあるのだろうか。
「そうそう。大丈夫よ。さて、じゃあ安全に飛ばしていくよ。」
駐車場から出て、国道232号まで来ると左に曲がる。そちらの方が苫前方面だ。
夜と言ってもまだ7時を少し過ぎたぐらい。車どおりは結構あるほうかな。はぼろから苫前の間も市街地以外周りに光は無い。有るのは前からやってくる対向車のヘッドライトだけだ。それだけ自然の中を走っているということなのだろう。
民宿31ノットはパッと見ではわからない暗闇の中にあった。看板が「ここです」とか主張をしているわけではないからだ。看板さえ暗闇の中に溶け込んでいる。ただ、唯一の救いはそれが白いことだ。あれが暗い色とかだったら、本当に分かんなかっただろう。
自分たちの荷物を持って、民宿に行く。外の玄関を開け、中の玄関を開ける。
「お邪魔します。」
そう声をかけ、恐る恐る中に入る。
中は暗い。というより、ここが本当に民宿なのかと一瞬錯覚する。暗くなってはいるものの、中がどうなっているかはよく分かった。大きいテーブルと数の多くの一人崖の椅子。そして、自分たちから見て左側のいかにも厨房と思えるスペース。昼間は食堂でもやっているのだろうか・・・。と中を見ていても、奥から人が出てくる気配はない。今治が食堂とも思える空間を置くまで歩いていく。それについていくように高槻、百済、僕、萌が続く。
「すいません。」
「はーい。」
そう声をかけると中からおばあさんが出てきた。この民宿の主だな。どう考えても。
「どうも、先ほど電話した今治ですけども。」
そう頭を下げる。
「あっ、イマバリさんね。5人だったかしら。」
「はい。」
「今案内するわね。あっ、そうそう。電話じゃあ素泊まりでいいって聞いてたけど・・・。」
「はい、それでいいです。」
「分かったわ。スリッパあるからそれ履いて、あがっといで。」
おばあさんはそう言いスリッパを5足出すと、奥にある階段を上がっていった。僕らはスリッパを穿いてから、其れについてあがっていく。階段の上は暗い。おばあさんが明かりをつけると民宿らしい普通の部屋が何部屋かある。おばあさんは右手前、左手前と2番目の部屋の明かりをつけて回ってから、
「そっちの部屋に2人、こっちにも2人。それでお嬢ちゃん1人になっちゃうけど、ここに一人でどうかいね。」
右手前の部屋、左2番目の部屋、左手前の部屋を順番にさしながら言った。手前の部屋はドアに扉がつき、2番目の部屋より奥にある部屋は引き戸があるだけだ。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。」
「ゆっくりしていきなさいね。」
「ありがとうございます。」
そう言い全員で頭を下げる。満足そうな顔しておばあさんは下の会へと降りて行った。おばあさんが出てきたときにテレビが少しだが聞こえた。それを見に下りて行ったのだろう。今更だが、一番いい時だったらごめんなさい。
「2人、2人、1人だったな。」
高槻が確認するようにおばあさんがさした部屋を指差しながらつぶやく。
「俺、そこで一人でいいし、今治と百済そっちで、永島と萌はそこの部屋でいいだろ。」
と言って勝手に分ける。いや、それおばあさんが分けた部屋割りと違うし。
「いや、それじゃあ・・・。」
「うん、それで行こう。今治君も早くこっちに。」
「えっ、えっ、ちょっ。」
百済もそれに賛成し、そそくさと部屋ごとに分かれていった。もう残ったのは右手前の部屋だけであった。
「・・・。」
「あれぇ、あの調子だと私が一人じゃなかったっけ・・・。」
「まぁ、残ったのここだけだし入ろうか。」
「そうね・・・。」
そう言い右手前の部屋に入った。部屋は何処となく寂しそうな雰囲気がある。そして、なぜか出そうな感じも受ける。
「どうかした。」
後ろから萌が話しかける。
「えっ、何でも。」
「あっ、ナガシィお化けとか出たら守ってね。」
「・・・僕がいても守れないからね。実体を通り抜けるようなものとどうやって戦えっていうのさ。」
とマジレスする。それだけじゃあない。僕だって苦手だ。守ってやれる余裕なんて本当に出てきたらない。
「嘘でもいいから守ってやるよって言ってほしいかな。」
「期待してないでしょ。」
「まぁね。ナガシィだってお化け苦手だしね。」
部屋に入って荷物を置いてから、少し時間が経つ。その頃になると落ち着いて、部屋に寝転がった。
「静かだねぇ。」
萌が呟いた。
「そうだね。」
「今日は運転お疲れ様。」
「萌もね。」
「ナガシィ程じゃあないけどね。さるふつ公園まで165キロぐらい走ったじゃない。あれには勝てないよ。」
「あっ、そう言えば天北線の飛行場前ってどのあたりだったんだろうね。」
「あっ、そう言えばそんなの合ったね。どこだろう。あの近くかなぁ・・・。」
さるふつ公園近くには帝国陸軍浅茅野第二飛行場があり、そこから約30キロ離れたところに同第一飛行場が有った。そして、飛行場前駅は第一飛行場周辺に存在した。近くなんてとてもじゃないが言えない所にあるらしい。
「近くじゃなかったかもね。飛行場前って結構離れてたような気がするし。」
はい、離れてます。
「離れてるのかぁ。じゃあ、ホームは見れなくて当然だよねぇ。」
そもそも仮乗降場として開業した板張りのホーム、今も残っているのだろうか。まぁ、この駅がなんでこんな話題になるかというと、飛行場前なのに「お察しください」という状況だったからだ。
「ガチャっ・・・。」
ドアの開く音がして、ふとそっちの方に目をやる。
「何だよ、せっかく二人だけにしてやったのに、こっちを楽しませてくれるような展開にはなってないのかよ。」
高槻が残念そうに言いながら入ってきた。それに続けて百済も入ってくる
「ほらやっぱり思ったとおりじゃん。」
今治も入ってくる。
「なぁに。二人でイチャイチャしてたほうがよかった。」
萌が聞き返すと、
「うん、その方がよかった。出来ればエッチな方に発展してくれてたほうがもっとよかった。」
「絶対そうはならないし。ていうかそんな恥ずかしいことしません。」
僕がそう言うと、
「なんでさ、好きなことエッチな方に展開出来たらそれこそいいじゃん。」
「いや、いいとかそう言うことじゃなくて、何でそんな恥ずかしいことに発展しなきゃならないのさ。」
「なんでそんなに男のお前が恥ずかしがるんだよ。お前顔だけじゃなくてメンタルも女だったのか。」
「そうじゃないよ。でも、恥ずかしいじゃん。」
「なんでそんな目で私のこと見るの。高槻君。優奈ちゃんに言っちゃおうかな。」
「ごめん、それだけはやめて。」
「やめてほしいなら、さっさとあっち行って。」
「はい・・・。」
そう言うと高槻は出て行き、百済も面白くなさそうな顔して出ていった。今治はというと苦笑いしてから出ていった。
「もう・・・。」
「まぁ、そういう展開にはならないけどねぇ・・・。」
(そもそも、そうなったら後で萌に何されるか分かんないし・・・。)
「ナガシィ。」
「なーに。」
「エッチな展開になるのは結婚してからだからね。」
「あ・・・そう・・・。」
って何、その前提の話。
「早く寝よ。疲れたし。今日朝早かったし。明日は少しはゆっくりしていいのかなぁ・・・。」
「あっ、そう言えば今治に聞いてなかったなぁ・・・。」
「まぁ、いいんじゃない。どうせ朝起きることにはナガシィも私も困らないし。」
「・・・それもそうだね。」
そう言うと部屋の隅に寄せてあった布団を敷いてちょっと軽装になって布団の中に潜り込んだ。
民宿ってどこもこんな感じなのかな。




