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MAIN TRAFFIC3  作者: 浜北の「ひかり」
Office Episode
5/69

297列車 夜の告白

 さて、始まってからは短いものである。駅での仕事は立ち仕事か歩いて回る巡回かのどちらかに一つである。もちろん、巡回に穴を開けないという意味でも24時間勤務と昼勤、夜勤が交錯する。

 まぁ、最初の方は昼勤ばかりである。まだ、24時間勤務に投入するほどのものじゃないということか・・・。

 立つだけでもしんどいが、これにいろいろな枷が付いて回る。先ずは仕事位置から離れるなということ。まぁ、其れをしてしまっては警備をする意味すら無いか。このほか駅で仕事をすると言うのはその場所の人と思われがちと言うことである。事実立っている間にいろんなことを聞いてくる人間はたくさんいる。しかし、僕たちはいろいろと深入りして答えてはいけないというのは何度も言っていることである。

 その中でも「駅員じゃないの」とか言ってくる人はいるし、「駅員じゃないし」と聞こえるように嫌味を言っているのか言っていないのかわからない人もいるが・・・。そして、思い込みの激しい人もいる。自分がサービスを受けるのは当然って勘違いしている人。まぁ、最近は多いかな・・・。

 萌と僕は最初そう言う感じで勤務がスタートしたが、沙留は既に早期就業で課程を終了していることから、そのようなことは無い。

 そして、今日は初めての夜勤である。

「今日はしっかり寝たか。」

そう聞いたのは今日夜勤のOJTを担当する二人のうちの一人。夏風叡智さんだ。

「いや、そんなに・・・。」

そう答えると、

「ああ。こりゃ寝るな・・・。」

そう言う反応だ。夜勤っていうのはどういうもんか知らないけど、寝るものなのかなぁ・・・。あんまり勤務中に寝るっていうことは考えたことがないが・・・。まぁ、そういうものだと受け取っておこうか。

「多分寝ると思うし、巡回の時だけ起きていればいいよ。他は気楽にやってくれればいいし。」

「ああ・・・、はい。」

さて、ここからはそう言っていた夏風さんのスイッチが入った。

「夜の巡回ってあんまり昼の巡回と変わらないよ。ただシャッターの開け閉めを見張ったりすることがあるから、その点で違うことがあるってことぐらいかなぁ・・・。他は特にあんまり変わらないから。今日はどんなことするか、見ててくれればいいから。」

そう言って夏風さんはパソコンに向かった。

 パソコンに向かってから僕は夏風さんと今日夜巡回を行う人を見た。この人は萩風さんだ。この隊にはまる風邪っていう人が多い・・・。苗字の違いで見分けるには多少難があるか・・・。あんまり他人とコンタクトを取らない僕からしてみると全員覚えるには時間がかかりそうだが・・・。

 萩風さんはさっきから時間の表を書いている。巡回はこの萩風さんの書いている書類と、夏風さんの作っている書類を提出するまでが仕事である。

「んっ・・・。よし。始めるか。」

夏風さんは時計を見て立ちあがった。巡回を開始する時間なのだ。

「あっ。そうか。じゃあ、行くか。」

 此処から巡回がスタートした。人がたくさんいるところから、警備員が付けている立入許可証がないと入れない所に入ったり、人気の無いところまで入り込んでいくとか。いろんなところに入っていく。駅の中であれば、改札の中とかである。この空間は切符がなければ入ることは出来ない。当然のことである。そこに切符無しで入るのは新鮮味がある。

 巡回が終了するとしばらくの間休憩して、次の巡回に入る。それぞれの巡回は少しずつ勝手が違う。この間にシャッターを閉め、駅を閉鎖するところに立ち会うこともある。

 駅を閉鎖してしまうと昼間はごった返す人のいる空間は無人になる。

 あたりを見回しても人影は自分達しかいない。まぁ、つまりはこんなところに一般人がいたら不審者ということだ。

 駅を閉鎖する時間になってくると多少眠気が襲ってくる。そういう時間に突入したということか・・・。

「そう言えば、入ってきた坂口さんと沙留君は同級生なんだっけ。」

夏風さんはそう聞いてきた。答えない理由がない。

「はい。同じ二十歳です。」

「そうか・・・。てなると専門学校かぁ・・・。沙留も専門学校って言ってたけど、同じ学校なの。」

「同じ学校じゃないです。ここに来て初めて会いましたし。」

「あっ。そうなんだ。じゃあ、坂口さんもそう。」

「いえ、も・・・、坂口は違います。」

思わず普段の調子で萌と言ってしまうところだった。だが、言い換えたところで呼び捨てで呼ぶのが精一杯の対処であった。

「まぁ、そうだろうな。あの人も関西弁入らないしなぁ・・・。彼女って出身どこ。少なくとも大阪より西とは思えないんだけど。」

「ああ。萌も静岡です。」

言ってから気が付いた。でももう遅かった。

「だよなぁ・・・。知ってる口調だもんなぁ・・・。」

その反応を見てから、萩風さんが

「マジかぁ・・・。」

といった。

「おいおい。まさか狙ってた。」

それに対し夏風が突っ込みを入れる。

「だってここいたって出会いがないもんなぁ・・・。副長とかさぁ狙ったところで仕方ないじゃん。既婚である上に彼女子供要るじゃん。そうなったらピチピチの少女探すしかないじゃん。」

「それで変なのに手出すなよ。」

「だすかよ。」

「こういってるけど坂口さん危ないかもよ。」

二人して煽りますね・・・。

「まぁ、その話はどうでもいいわ。この会社ってなんで知った。そもそも来たくてくる会社じゃないと思うし。」

「・・・。」

まぁ、そうですね。来たくてくる会社じゃないですね。そう言いたいが入った会社にそんなこと言っていいとは思わず、黙っていたが・・・。

「そもそも第一志望なわけないよな。」

「ええ・・・。」

そうだ。この会社は第一志望じゃ無い。ただ単に新幹線の沿線警備とかを行っている。その事実だけを知ってここに来たようなものだ。それ以外に感じたことは今のところ存在しない。此処は自分の中で一桁の志望社でも、三桁の志望社でもない。存在すら認識していなかった会社が自分のランクの中にはいるはずはない。

「元の第一志望ってどこだ。」

「・・・。」

その質問が来るか・・・。自分の第一志望はまだ変わっていない。この後ろにあるものだ。たった今閉まったシャッターの後ろにあるのが僕の働きたい会社であることに他ならないのだ。

「ここです。」

ぶっきら棒に答えた。そう言いながら、僕はシャッターの方向を指差した。そして、夏風と萩風の顔がそっちの方向を向いた。

「ここかぁ・・・。」

「未来安泰すぎる場所だな。」

「99%倒産しない会社ですからね。」

そうは言ったが、其れだけじゃない。運転したいのが僕の夢だ。それがこれでなければ話にはならないというのが今も持っている感情である。

 そのうえ、第一志望であるが最も遠い会社でもある。この状況でここに行けることは出来ない。新人でなければ難しい場所と言われるのが鉄道会社の定石である。自分がここにきてしまっている以上ここにはいる手段がないのだ。

(こことこの会社の接点ていうのは何なんだよ。警備しているってことか。)

「まぁ、水際で受けただけですからね。専門学校の講師の方にここがこういうことやってるっていうことを知って受けただけですから。」

そう言うところを正直に言った。それ以外のことは無い。本当にない。

 しかし、こんなところでそう言うことを突き詰められるなんて。もうどうでもいいことではないか・・・。

 この会社に来た経緯など誰も知る必要はないことなのに・・・。

「うーん。まぁ、そう言う会社だもんな。警備会社なんて厳しいところは本当に厳しいし、誰も来たくてくるわけじゃないしな。みんな第一志望とかにはしてないさ。」

夏風さんはそう言った。

 警備会社ってそう言う会社なのだろう。うん。そう言うところなんだろうな・・・。全国に50万人以上いるという警備員すら、こういう感情の中にいるのだろうか・・・。

「じゃあ、何だ。すぐに辞めるつもり。」

萩風さんがそう聞いてきた。まぁ、あんなふうに気化されれば、誰でも・・・。

「そのつもりはないです。行く場所がないですから。」

その言葉を言った時、心の中で「行く場所がないか」と呟いていた。確かに行く場所がない。それこそ由々しき事態である。

 深夜帯の巡回は話しながらする感じであった。此れもあってか夜勤は眠ることなく終了した。まぁ、眠らなければそれでいいか。

 しかし、巡回が終了するととても眠くなった。やはり、仕事の疲れが一気に出たということか・・・。着替えが終了したらすぐに電車に乗り込んだ。

 普段は乗らない電車に乗り、そこまで時間を掛けずに行ける所へ時間をかけて移動した。そして家に着く。

 家についてベッドの上で横になった。

 寝るまでにいろんなことを考えた。一体何が自分をここまで鉄道の世界に惹きこむのか。それを考えた。何かあるからこそ僕は鉄道会社に惹かれるのだ。

 就職活動をしている時は見つけられなかった鉄道会社に惹かれる答えを・・・。

「あっ・・・。」

頭の中をある考えがよぎった。其れで全部の説明がついた気がした。いや、これ以外に有る筈がない。

 僕はひかれたんだ。他人にいい考えのない僕にとって唯一他人との確執を作り上げられることが出来る空間。それが運転室であるだけだ。

 そうだ。僕は他人を排除できる環境がとても魅力的に映ったのだ。あの中にはいれば一人だ。それが一番よかったんだ。

「そうか・・・。」

 次の日。

「えっ。」

「だから、そうなんだって。」

萌に話した。それがあの部屋に入りたかったこだわりだったって・・・。


まだタブーのようです。

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