334列車 1年
4月。
詰め所に帰ると名取課長が座っていた。新聞を読んでいるが、その新聞は教養・・・を身に付けるための物なのだろう。競馬新聞だ。隊の中ではしばしば競馬やパチンコなどギャンブルの話に花が咲くことがある。僕はやろうとは思わないが、やっている人にとっては楽しいんだろうなぁ・・・。
「お疲れ様です。」
「おっ、お疲れさん。」
こっちが帰ってきたことに気付いたようで名取課長は新聞をとじた。
さて、月に数回こうして支社から来る人に合わなければならない。ようは支社の人による視察があるのである。隊は支社から離れたところにある店と同じである。まぁ、Patrol隊として外を走り回っている時に来る場合もあるから、それがいつかは月1、2回を除いて決まっていない。
「お疲れ。」
その声が横の方から聞こえてきた。そっちに目をむければ、長良隊長がいる。今日は昼隊のようだ。
「お疲れ様です。」
「山雲君はまだかな。」
「その内戻ってくると・・・。」
そこまで言った時、詰め所のドアが開いた。そして、今日の相勤者だった山雲さんが入ってくる。
「お疲れ様です。」
「おっ、山雲君お疲れ。」
「っ、お疲れ様です。」
山雲さんが入ってきたところで名取課長は立ちあがり、胸ポケットからメモ帳を取り出した。
「お仕事お疲れ様でした。」
その声で山雲さんとともに頭を下げる。
「いつも言っていますけど・・・。」
名取課長はそう言い始めた。社員教育の一環である。だいたい言うことはどこの企業も言うことと同じであろう。特に車の運転に関わる所なら、無事故はまず言われることだ。そして、次に言われることは仕事に関連する制服、情報の管理であろう。後は体調管理とか。違うかな・・・。
「・・・そのようにお願いします。」
「はい、ありがとうございます。課長、時間は。」
山雲さんはそう聞いた。
「じゃあ、○時〇〇から○○までで。」
「○○から○○まで。かしこまりました。」
これで通達は終了である。
僕は報告書に向かい、今あったことを書いた。そして、それをファックスの近くに置く。時間が来たらファックスを送ってお仕事終了だ。
「永島も今月で入社から1年だな。」
名取課長が呟いた。
「ああ、そうなりますね。」
とだけ言った。もうそんなになるのかぁ。1年は続いたわけだ・・・。だが、Patrol隊に来て1年ではない。厳密には9か月もまだ言っていないのだ。
「もう、ベテランだな。」
「ベテランって・・・。まだまだそう呼べませんよ。」
「でも、言ってるうちに新人が入って来るぞ。」
山雲さんが言った。
「入ってくる言って行っても、僕と同じように7月ぐらいでしょ。4月に入社した人は。」
「そうだな・・・。IDを作るのに時間がかかるからな・・・。それだけはどうあっても短くならないからな・・・。」
「・・・。」
時速270キロ乃至285キロで通り過ぎる新幹線が走るすぐわきに入ることが出来るIDカードだもんなぁ。そりゃ申請と製作に時間がかかっても仕方のない代物である。
「課長、今年は何人Patrolに回す予定ですか。」
・・・去年みたいに3人なんてことは無いら。
「今年は、大阪支社は○人JR要員で取ってそのうち半分ぐらいはPに回す予定だけどね。でも、検査で適性がないって分かればそれよりも少なくなるけど。」
「○人ぐらいですか・・・。てなったら〇隊でそれぞれ割るから大体どこの隊も1人ですか。」
「・・・まぁ、少しは良くなるんじゃないんですか。シフト作るにもね。」
「いや、1人増えたぐらいじゃあそんなに変わんないよ。そもそも会社が言ってることがおかしいんだって。残業は45時間以下は年6回ぐらいにしとけとかな。そういうふうに言うからなかなかシフトが出来上がらないんだよ。言っとくけど、45時間っていうのを考慮せずにシフトを作ったら、今の人数で十分回るんだよ。もちろん、80時間とか超えることは無いけどね。」
「・・・。」
「ねぇ、課長。これを早く救済してほしいぐらいですよ。」
「んー、伝えはするけどなぁ・・・。」
「何回も言ってるけどな永島、これ何年も前から言ってることだからな。」
つまり支社には救済する気がないと・・・。
「そもそも○○警備するために他の支社から人募らないと回らないっていう状況をなんとかしないとダメなんだろうけどね。」
と続けた。だから、救済する気がないわけではないと思う。
しかし、1年かぁ・・・。移動したりとか結構いろんなことがあったと思うが、最も大きい収穫は自分がなりたいと思ったものになる為に行って今のように定着できているかという疑問を持ったことだろうか。そもそも、あの一人だけの空間に入りたかっただけの人が定着するわけはないと思ってはいるものの、ここにいるのも楽しいとかではなく他に行き場がないからだ。
「・・・。」
それ以外に理由は無いはずだ・・・。
1年経つのは早かった。




