332列車 ゑ!
2月、3月と大人になるといつもの日常で過ぎ去る月日にあまり変化がなくなる。高校や専門学校の時とはわけが違ってくる。しかし、その変化もごくたまに変わることがある。
間もなく0時30をまわろうとしている時。
巡回車で回っている車はいつものようにトンネルの入り口近くに上っていくために奥まった所へと入った。
「今日は作業休みだし業者は来てないな。」
尾張さんはそう言った。
「春休みなのに着てたら流石にびっくりですね。」
眠い目をしながら萌は答えた。
「でもねぇ、○班はびっくりするようなところばっかり回るから嫌でしょ。お墓とかあるし・・・。」
尾張さんの声が聞こえなくなったと思ったら、次に車は急ブレーキをかけて止まった。その衝撃に体が前へと押し出される。
「なっ・・・何なのよ。あれ。」
「えっ・・・。」
それで目が覚めた。
ふと前を見ると本当にこの世のものなのかと言う光景を見た。
「イッ・・・。流石にこんなところで寝たくない。学校の裏いくね。」
尾張さんはそう言うとドライブレコーダーの電源を抜いた。車はそれまで来た道のりをバックしはじめ、今来た道をさがっていく。ハンドルをまわして、道の下にあるトンネルを通り、抜けたと思ったらすぐにハンドルを右に回して奥まった場所から脱した。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・。なんなのよ。なんで春のこんな時間に。パジャマ姿のおばあちゃんが全速力で車いすバックさせながら坂上ってるのよ。もう意味わかんない。」
尾張さんの額からは冷や汗が流れた。
「ど・・・どうするんですか。なんか寝る前にすごいもの見ちゃった気がするんですけど。」
「ど・・・どうするって・・・。」
(どうしよう。天城班長の言ってたこと嘘じゃなかったし・・・。)
さっき抜いたドライブレコーダーの電源ソケットをしがーそゲットに差し込んだ。
「と・・・。」
「と。」
「とりあえず、寝ましょうか。」
「あんなの見た後ですよ。」
「だよねぇ・・・。よし、夢に出てこないことを願って寝よう。」
「どう考えても無理有ります。」
そう言った時ドライブレコーダーから「ティロン、ティロン」と電子音がした。録画が開始されたのだ。
「なんてことがあったんですよ。」
尾張さんはそう言って昼隊で迎えに来た加賀さんと浜名さんに不満をぶちまけた。
「ハハ、そりゃ災難だったね。」
「災難どころじゃないですよ。もうこれで○班これ無くなるじゃないですか。」
「でも、今日はどっちも休みなんだろ。櫻ちゃんは旦那さんにでも慰めてもらえばいいじゃないか。」
「ええ。今日は思いっ切り旦那に甘えてきますよ。」
「坂口さんも結構怖いもの見たね。」
「あの時はもう、頭の中が真っ白になっちゃいましたよ。」
「でも、まだまだいい方だよ。」
そう言うと浜名さんは声を小さくして、
「僕なんて、○班に来たら怖くて、怖くて仕方がないからね。ときどき手招きするのが見えたりするから。」
「ああ、それ以上怖い話するな。帰るわよ、萌ちゃん。こんな意地悪なおじさんたちにさっさと任せて帰っちゃいましょ。」
「はっ、はい。」
そう言うと尾張さんはすぐに車に乗り込んだ。私も車の後部座席に荷物を積んで助手席に乗る。私達の乗った車はクルッと180度反転して詰所に戻り始めた。
「そう言えば、浜名君って霊感あったっけ。初耳だけど。」
「無いですよ。見たくないもの見たくありませんし。」
「だよねぇ。」
「でも、櫻さん絶対面白がって喋りまくりますよね。」
「そうだな。多分見たのは間違いないけど、怖いの装って旦那さんとイチャイチャする口実にするんだろうなぁ・・・。ハハハ。」
「櫻さんはいいとして、坂口さんはどうするんですかね。静岡で頼れる人って言ったら永島君がいますけど、頼りになるのかなぁ・・・。」
浜名さんはそう言った。
「おいおい、永島君だったら仕事で結構頼りになるじゃないか。特に雨警備だったら土佐と並んで頼りになるんじゃないか。」
「・・・。」
加賀さんは巡回車両の後部座席のドアを開け、自分の荷物を積んだ。
「まぁ、何だ。巡回してたらいろんなのと会うだろ。ワンピース来てるおっさんよりはいいんじゃないか。あっちの方が俺にとっちゃ怖いぜ。」
「えっ、そんなのいるんですか。」
それを聞いた瞬間浜名さんは背中に冷たいものを感じた。
いろんな人が・・・いるんだなぁ・・・。




