329列車 その前に
年末年始は仕事をして過ごした。人生初めて仕事をしながら、年を越したのだ。今まで、アルバイトの経験は0であるから、当然と言えば当然ではあるけど。まぁ、この仕事には最初から曜日は関係ないからこうなるのは遅かれ、早かれ有ったか・・・。
まぁ、そんなことはさておき、僕は時刻表に見入っていた。
「どうしたの。またどっか行こうと思ってる。」
萌がそう聞いてきた。本当に萌は僕が何を考えているのか分かっているのだろうか。
「思ってるよ。ちょっとね。」
「ふぅん。小田急に言ってる美鈴ちゃんのところに押しかけようとか、土佐電に行った犀潟君のところに押しかけようとか。思ってるんでしょ。」
「まぁ、ちょっとね。でも今回は違うよ。」
僕はそう言うことをするなら、誰にも言わずに押しかける人だ。特に会いたいとも思っていないが、もしあったらびっくりするかな程度である。
「確かに、「南風」には乗ってないし、もう一度2000系には乗っておきたいとか、小田急はそんなに乗ってないから、乗っておきたいなとは思うけど。それよりも前に乗っておきたいのがあるの。」
そう言いながら、時刻表のページをめくる。
開くページは新幹線などが載っている時刻表でページの縁が青くなっている場所である。時刻表で始めの方にあるこの場所には、前述の新幹線のほかに、新幹線と接続する在来特急の時刻と全在来特急の時刻が記載されている。ようは特急しか利用しない人のためのページだと言い切れるところである。だが、大概の人はこんな分厚い本を見ずにネットを見るか・・・。
「あっ。」
後ろから覗き込んでいた萌が声を上げた。どうやらどこに行きたいというよりも何に乗りたいのかという糸が分かったらしい。
「「はくたか」かぁ。確かに、「はくたか」ってもうすぐなくなっちゃうもんね。」
「うん。」
「えっ、でも前「はくたか」乗ってなかったっけ。」
「乗りはしたよ。でも、あの時は新潟の大雨で越後湯沢じゃなくて、長岡に行ってたからね。ほくほく線内は通ってないんだ。」
「あっ、そっか。そんなこと言ってたね。」
「だから、消えちゃう前に160キロ体験しておこうと思ってね。」
「そうね。北陸新幹線が開業したら、名前はそっちに引き継がれても、在来特急は無くしちゃうしね。それに北陸本線の金沢から直江津の間も第セクに変わっちゃうからあの間を走る特急も全部なくなるんだよね。」
萌はそう言った。
萌の言うようなことは既に何回かある。
東北新幹線の八戸開業に合わせて、並行在来線である東北本線の盛岡~八戸間がIGRいわて銀河鉄道と青い森鉄道に移管、当該区間を走っていた特急「はつかり」を「白鳥」、「スーパー白鳥」に改め運転区間縮小を行った。その後、東北新幹線全線開業に合わせ、東北本線の八戸~青森間も青い森鉄道に移管されたため、特急「白鳥」、「スーパー白鳥」の運転区間縮小をしている。西では九州新幹線の新八代~鹿児島中央間の部分開業時に鹿児島本線の新八代~川内間が肥薩おれんじ鉄道に移管されたことで、博多~西鹿児島間の特急「つばめ」が愛称を新幹線に移行し、博多~新八代間の新幹線接続特急として「リレーつばめ」が走るようになった。尚、その後の全線開業で「リレーつばめ」は廃止された。
そして、2015年3月のダイヤ改正で北陸新幹線の長野~金沢間が開業するのに伴い、北陸本線で新幹線と並行する金沢~直江津間がIRいしかわ鉄道、あいの風とやま鉄道、えちごトキめき鉄道に移管される。また、これによって第三セクターの移管される線区に入線している特急「サンダーバード」、「しらさぎ」、「はくたか」、「北越」が廃止または運転区間の縮小が行われる。これで運転区間が縮小されるのは大阪~金沢間を結ぶようになる「サンダーバード」と名古屋~金沢を結ぶ「しらさぎ」。一方、廃止されるのは愛称を新幹線に移す「はくたか」と金沢~新潟間を結んでいる「北越」である。
僕が「はくたか」に乗りたいのは何も消えるだけが理由ではない。前にも行ったが、「はくたか」は在来線最速の160キロを出す特急なのである。160キロを体験したいだけなのであれば、京成スカイアクセスを通る京成「スカイライナー」がある。そっちでもいい感はあるが、成田空港に行く用はない。それに、やっぱり「はくたか」に乗車経験があるのに160キロ区間に乗っていないというのはもったいない。
「ただ、問題はどっち周りで行くかだけなんだよ。」
僕はそう言った。
「どっちって・・・。あっ。」
これも萌は察した。
「ナガシィが回りたい方でいいんじゃないの。私は別にどっちでもいいけど。」
「えっ。」
思わず聞き返した。
「えっじゃないよ。またナガシィばっかりどっかに行こうとして。私も連れてきなさい。お金まで払ってよとは言わないから。」
「ついて来るの。」
「行っちゃダメ。ひどいなぁ・・・。ちょっと前に映画行ったじゃない。」
「あれは、萌が半強制的に連れてったんでしょ。」
「半強制的だろうと何も言わないで付いてきたじゃん。」
「それとこれとは話が・・・。」
「連れてきなさい。」
僕が何か言うのを遮るように萌はそういい、後ろに回り込んだ。
「ヒャイッ。」
くすぐられたことにびっくりした思いっ切り足が動いたかと思ったら、前にある小さい机の脚にそれがぶつかる。
「痛っぁ・・・。」
「ごめん、大丈夫。」
「う・・・うん。大丈夫、痛ぁぁぁ。」
「連れてってくれる。」
「・・・。」
すぐに返事はしなかったけど、確か萌のシフトに僕を休みが同じ日があったっけ。もう一緒にいくでいいか。
この作中では走っている「北斗星」は8月23日を以て運転を終了。お疲れ様。




