328列車 永沙2
「プッ、ハハハ。」
助手席で沙留は大きな声で笑った。
「笑うことないじゃんか。僕にとっては結構大きい問題なんだよ。」
そう反論すると、
「大きい問題ねぇ、だったら整形すればいいじゃん。」
「整形ってねぇ・・・。」
「世界のどっかには整形が誕生日プレゼントとかぶっ飛んだものを送るところがあるんだぜ。そんぐらいの軽い気持ちで受けたらどうよ。確かに、今の永島の顔を初見で見たらそりゃ女だと思われても仕方がないよなぁ。」
整形が誕生日プレゼントっていうのは少々異常さを感じるが・・・。いくら誕生日プレゼントと言っても、元値が変わっているわけではあるまい。さすがにその国の人々程軽い気持ちでは整形は受けられない。そもそも、自分の顔をいじるのである。しかも医者とはいえ他人にだ。さすがにそんなことはされたくない。
「まっ、さすがに他人に顔をいじくられるのは嫌か。」
そういう所を察したのか、察してないのかは定かではない。
「嫌だね。それに、そんなお金は無い。」
「結局そこなんだろうな。顔の一部だけでも結構かかるんだろ。そんなお金を使う暇があるんだったら俺と同じように遊びに使うよなぁ・・・。」
「・・・。」
まぁ、そうなるな・・・。
「あっ、俺としての疑問言っていいか。」
「何。」
車はさっきからずっと30キロ程度のスピードで前に進んでいる。話しているとそっちに注意が行って仕事にならないだろうということは考えられるが、遅いスピードだから問題ない。それに今は夜である。22時を過ぎれば先ず畑の真ん中に人はいない。散歩をしている人はたまにいるけどね。
僕は沙留の疑問を、前を見ながら聞くことにした。
「お前、よく女子からいやみだなとか言われないよな。」
「えっ。」
「いや、そこまで似合うんならあるんじゃないかなと思ってね。ほら、こ○亀のマ○アみたいにさ。」
「ああ、言われたことは無いな。多分さぁ、中学とか高校とか僕は鉄道ファンで通ってたからじゃないかな。先ず女の子が興味持つ分野じゃないし。」
「ああ、そうかもな・・・。」
「でも、僕ってそんなに女子に見える。そうとも思ってないんだけどなぁ・・・。」
「いや、一度ミラーで自分の顔を見てみろよ。」
ふと昔のことが頭をよぎった。それは自分の家に招いて昔のアルバムを見ていた時の事だった。正直こっちは恥ずかしかったのだが・・・。
「えっ、僕に似た顔の人がいる。」
子供のころの写真を見た美萌はそう言っていた。
「うん、すっごく。でも、今は声変わりもしているし、顔つきを変わってるからわからないだろうなぁ・・・。あっ。未練があるとかそんなんじゃないよ。」
あの時は美萌のことを疑ったがな・・・。ただ、和泉中央であった後、
「あんまりイメージ変わってないなぁ・・・。」
とも言っていた。恐らく昔の写真をあさると本当にそう言う写真がごろごろと出てくるのだろうなぁ・・・。
「やっぱり周りにはそれだけの認識なのかなぁ・・・。」
「・・・。」
「沙留。」
「えっ、あ。ワリィ聞いてなかった。」
「ああ、いいよ別に。て過去の話終わりにしようか。」
そもそもこの話題を振ってきたのはそっちだろう。そう言いたくはなるが・・・。
車は車1台が通れる幅しかない農道をゆっくりとしたスピードのまま進んで行く。未知の横にある構造物を照らすために途中で停止し、持っている懐中電灯で照らす。車のライトは前方に照らすといろんな弊害が襲ってくるものがない限り殆どハイビームである。
ふと左側を走っている道路を見れば、いかにもスピードを守っていない車が走り去っていく。それを沙留と少し見送り、
「今の車絶対法定速度守ってないよな。」
「ああ、守ってないな。80キロぐらい出てたんじゃないか。」
「まぁ、馬鹿だからほっとこうか。あれで捕まってもザマァで終わりだし。」
「そうだな・・・。」
車内は深夜帯にやっている全国ネットラジオ番組の校長先生の声が流れているだけだ。そういや、FMラジオ全国38局ネットなら、全国ネットじゃないか・・・。
「それにしてもさぁ、昼って本当に無法者集団多いよなぁ。交差点の序列すらわかってないおばさんとかさぁ。」
そういう話になった。
「ああ、いるいる。あれは一言言いたいよね。「お前の為に開けたんじゃねぇ」って。」
「はっ、それ言ったら確実にトラブルになるな。」
「なるね・・・。でも、あっちはこっちが何も言えないってことにつけ込んで言いたい放題だからさぁ。半ば何言ってもいいって思ってるんじゃない、馬鹿だから。」
「思ってるよなぁ。絶対。」
「そう言うこと人に言う前に自分の運転の仕方を改めようとか思わないのかな。」
ちょっと時間をおいて、
「・・・無理だと思うぜ。」
と沙留から回答があった。
「馬鹿なんだろ。学習能力を問う方も問う方だと思うよ。」
「・・・それもそうか。」
そう言うと上から轟音がした。いつも新幹線が走り去っていく時に聞こえる音である。ここら辺は周りが畑だから防音壁がないため、通過時の音は車の窓ガラス以外遮るものがない。
走り去っていった方向は東京方面だ。
「時刻は22時55分になりました。JFNニュースをお送りします。今日・・・」
ラジオからは校長先生の声からニュースキャスターの声に変わっている。
「やっぱり田舎だから運転マナー悪いのかな・・・。」
「でも、同じ田舎でも、実家の方とは大きな違いだなぁ・・・。」
「浜松って田舎なのか。ていうかそもそも、マナーじゃ比べ物にならないほどそっちがいいだけじゃないのかよ。」
そうなのかもしれない。
FMラジオ38局、どうなってるんでしょうね。




