327列車 京都
滋賀県に大量の雪が降るのと同じころ、僕たち警備員には教育ってものが絡んでくるようになる。と言っても、その教育っていうのは新幹線の警備に関するものである。もちろん、この中には外に出すべきものではないことがふつうに含まれるためにその内容については言わない。
だが、その教育は12月24日にある。
まぁ、そう言うことだ。
「えー、クリスマスイブまで仕事。警備員は大変だねえ。」
二ノ橋さんは他人事のように言う。
「美萌ちゃんはイブは仕事じゃないの。」
萌が聞いた。
「まっ、イブもクリスマスも関係なしに仕事の萌ちゃんからしてみれば、残念極まりないかな。」
「・・・。」
「お互い仕事だから、割りきれますか。」
馬鹿にしたような顔だ。殴ってもいいだろうか。とでも思ってるんだろうなぁ・・・。
「まぁ、そういう所よ。お互い仕事だし、そのあと休日は同じ日があるし。クリスマスに特段イチャイチャする必要もないわ。」
「普段からイチャイチャしてるお前が言うな。」
「別にイチャイチャしてるわけじゃない。」
「ホントか。普通女の子が男の子の背中に胸密着させるか。気を許して無かったらそんなことしないわよ。」
「・・・。」
結構親しくならない限り、そんなことしないよなぁ・・・。それかお化け屋敷が嫌いだからで離れないように密着するとか・・・。
「そりゃ、私がナガシィに気を許してるんだから問題ないでしょ。」
「グッ・・・。く・・・。萌ちゃんがナガシィ君に気を許してるのは分かってるわよ。でも、昼間にするか。周りにはあのリア充爆発しろとしか思われてないって。それか夜になったらもっと激しいんじゃないかって。」
それ以上は危険です。
「・・・。」
「そんなの自分に恋人がいないからって羨ましがってるだけじゃん。それに夜が激しいって勝手な妄想でしょ。言っとくけど、私は今まで一線越えたことは有りません。」
確かに一線越えたことは無いな・・・。
「そうなんだろうけどさ。」
「あのー・・・。」
「んっ。」
「聞いてるこっちが恥ずかしくなるから、そう言う話はやめない。」
萌も二ノ橋さんも僕がいることはそっちのけだ。流石に男である以上、かなり踏み込んだ話を聞いていると気が引けてくる。
「ああ、そう。」
「でも、ナガシィ君ここにいても、ただの女の子の集まりの会話に一人だけ入ってこれてないんだかなとか思われてないと思うけど。」
萌、二ノ橋さんの順に言う。
「ええ・・・。」
「あっ、それは言えるかも。ナガシィってふつうにしてたら女の子だもんね。腕は細いし、声は子供のころのままほとんど変わってないし、ポニテにすると似合うし・・・。男装女子ぐらいにしか思われてないかも。」
ちょっと・・・。
「ハハ、男装女子か・・・。座り方が男の子っぽくてもズボン履いてるから関係ないで全部説明ついちゃうからな。」
「ほら、ちょっと前だけど高槻君の彼女に会ったときだって、男の子に思われてなかったじゃん。」
確かにそんなこともあったけど・・・。あっ。
「でも、木ノ本や留萌は勘違いとかしてないぞ。」
「それってただ単に男子の制服着てたからでしょ。」
「えっ、それだけ。」
「多分それだけだと思うよ。」
「おい・・・。」
ちょっと真意を聞きたいのだが・・・。
「今更だけどよかった。ナガシィ連れてきちゃって。」
「大丈夫って言ってるでしょ。ナガシィ君を女装させればわからないからって流したのはどこの誰なのさ。」
「ちょっと萌・・・。」
「ごめん。でも、許してね。後で何か甘いものでも奢るし。」
「もういいよ。薄々感づいてるし、諦めてるから・・・。」
「よし、決着。」
「・・・。」
そんなことで勝ち誇られてもなぁ・・・。そう言えば、僕はまだ二ノ橋さんが僕たちのことを呼び出した理由を聞いていない。
「そう言えば、何で二ノ橋は僕たちのこと呼んだわけ。」
「えっ、萌ちゃんから聞いてない。」
「あっ。ごめん、言ってなかった。」
「・・・じゃあ、奢りの甘いもの更に追加で。」
「ありがとう。」
「聞いてないんならちょうどいいし、私から言うね。私、ちょっと前のラジオ番組で大津の映画館のチケットが当たったのよ。最初は桃李と行こうかなって思ったんだけど、そもそも桃李は興味あるのしか見ないから、今やってるのじゃあ釣れないと思ってね。それで、萌ちゃんに譲ろうと思ってね。」
「なんでそれ最初に調べなかったの。」
普通の疑問である。
「事前調査怠りました、テヘペロ☆。」
テヘペロって・・・。
「でも、僕もあんまり映画に行く柄じゃないこと分かってるよねぇ。」
僕はそう言った。今まで映画館に行った回数は数えるぐらいしかないうえに、片手で足りてしまうほど少ないのだ。
「でも、ナガシィって興味ある無いは置いといて、見に行かせたら見入るタイプでしょ。」
「ってことだからよろしく。」
「分かったよ。でも、何でFM滋賀聞いてるの。ラジオの電波泉州に届くの。」
此れも素朴な疑問である。
「ほら、あれじゃないかな。スマホでラジオが聞けるアプリってCMでよくやってるじゃん。あれで聞いてるんじゃない。」
「そうよ。最初は桃李がかなり笑えるラジオ番組があるって聞いたから聞きはじめて。結構面白かったらからは待っただけ。やっぱり関西だけあるのかな・・・。それ聞いてるうちにそう言うコーナー知っただけだもん。ちなみにラジオネームは「桃大好き」だよ。今度から昼間のラジオは注意して聞いてみたら。結構出没してるかもね。」
年末が近づいている頃の日常であった。
これから数日後に萌と一緒に映画館に行ったが、その話は割愛する。
木ノ本さんの真意は確認できたかなぁ・・・。




