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MAIN TRAFFIC3  作者: 浜北の「ひかり」
Office Episode
25/69

317列車 1か月前

 暑い夏がだんだんと終わりに近づいているのか、それともまだまだ長引きそうなのか。そんな気候が9月になっても10月になっても続いている。その10月も半ばを過ぎた19日。

 和歌山(わかやま)の駅前はいつもと変わらない時を過ごしている。大体の列車はここから大阪(おおさか)に向かって行く紀州路快速だ。1時間に1回くらいのペースでオーシャンブルーのラインが入った車両を使っている特急「くろしお」が発車する。たまに1色に塗られるようになった和歌山線(わかやません)の2両編成の列車が桜井(さくらい)高田(たかだ)方面に向かって、紀勢本線(きせいほんせん)に入り御坊(ごぼう)方面に向かって行く普通列車がごくたまに発車する。

 その和歌山(わかやま)駅の一角でただ茫然と今治(いまばり)は立っていた。口は先ほどから動いているものの、言葉を発することは無い。そして、顔にはかなり疲れが出ている。目の下には寝ていないことを物語るようにクマが出来ている。

「・・・。」

頭の中には先程までの疲れる要因が映っていた。

 今治(いまばり)がここにいる理由はただ一つである。永島(ながしま)達と行く北海道に「トワイライトエクスプレス」で行こうと提案していたからだ。問題の「トワイライトエクスプレス」は既に廃止が発表されているのは前にも述べたとおりである。当然そのプレミア切符を取る為に「発売開始」とともに多くの鉄道ファンやこれを期に「トワイライトに乗りたい」という人が殺到したのだろう。自分も結構速く窓口に行ったつもりではあったが、その時にはすでに売り切れた後であった。

(どうしたものかなぁ・・・。)

天井を見上げてみた。もともと鉄道学科に通っていたと言うこともあって、「トワイライトエクスプレス」に乗れるという可能性を待ちわびている人がいたであろう。だが、問題の切符は取れなかった。もしかすると行く人数に増減があるか・・・。

 そんなことを思った。だが、それを考えていても仕方がないか。先ずは報告をしなければならない。スマホを取り出してみると上の方に何かの通知が来ている。

 発信元は10時00分で高槻海斗になっている。文章は「どうだった」と短い。それに対する返信は完全に生きる気力を失ってい、すべての色の抜けた初○ミクである。

「やっぱりか。」

それの返信は早かった。そして、この文言からして取れるかどうかは諦めていたようだ。

「朝5時じゃ甘かっただろ。」

立て続けに通知が入る。

「ああ。甘かったな・・・。」

「まぁ、その時間に行って取れるんなら、大阪(おおさか)とか東京(とうきょう)で3日前から並んでる人が馬鹿みたいに見えるしなww。」

「確かにww。」

「んじゃ、往復飛行機なんだな。」

「そういうこと。」

「往復飛行機で行くのはいいけど、どこ行くつもりさ。目玉っていう目玉は外れたも同然なんだからさ。」

そう返ってきた。

 其の事に関してはいろいろと考えている。旭山動物園とか、小樽(おたる)とか。ただ、漠然と決まっているだけであり、確定事項ではない。

 考える暇もなく高槻からはLINEが届く。

「北海道だったら、小樽(おたる)手宮線(てみやせん)跡とか、赤のポンコツとか、バケモンみたいなディーゼルとかいろいろあるじゃん。」

「ww.」

何が言いたいのか分かるものがたくさんである。小樽(おたる)にある手宮線(てみやせん)跡というのは小樽(おたる)港に向かって伸びていた北海道最初の官営鉄道。北海道にあるJRの歴史はこの路線から始まるのである。実際に運行されていた時は函館本線(はこだてほんせん)南小樽(みなみおたる)から、小樽(おたる)市街の中心を貫くように手宮(てみや)小樽(おたる)港の桟橋まで線路が伸びる総延長4キロにも満たない小さい路線であった。今は実際に使われていた線路と踏切、そして手宮線(てみやせん)跡があったことを今に伝える碑があるだけである。

 他のは順番に711系という電車とキハ201というディーゼルカーのことを指しているのであろう。だが、

「高槻って北海道行ったことないの。」

と聞いてみた。高槻ならあるのではないだろうか。

「あるけど、俺行ったの函館ぐらいだし。それにその時は小さかったから何見たかもわかってねぇし。ただ、従姉にちちくりまわされたのは覚えてるけどなwww」

「www。」

 そんなやり取りをしていたが、どこかに申し訳ないなという気持ちがあった。

 夜、僕たちは仕事を終わって帰ろうとしているころである。挨拶してから、詰め所を出て、部屋に戻ってくる。

「うーん・・・。」

スマホを見てみても今治(いまばり)からLINEが来ていない。こっちも取れているかどうかは気になるのである。

「ナガシィ、入るよ。」

(もえ)の声が聞こえた。いいよと言ってから、(もえ)が部屋の中に入ってくる。

「どう、今治(いまばり)君からLINE来てる。」

「ううん。来てない。」

「・・・。」

「ちょっと聞いてみるね。」

そういい、僕はスマホを操作した。

「やっぱり、「トワイライト」取れなかったんじゃないのかな。言い辛いんだよ。きっと。」

「そうだとしても聞けば答えてくれるでしょ。」

そう言った直後にスマホが震えた。画面には、「イマバリーが画像を送信しました」となっている。

 開いてみると丸い顔の熊が出てきた。影が多く使われているところを見る限り、無理だったということが伝わってくる。

「無理だったか。」

とLINEで送ってから、

「無理だったって。」

(もえ)に言った。

「無理だったんだ。廃止発表された列車で全車指定なら無理もないよねぇ。」

(もえ)はそういうと僕のところに顔を近づけ、

「どうするの。往復飛行機だよ。」

と聞いてきた。

「別に飛行機なのはいいよ。怖いのは変わりないけど、札幌とかには行ったことは無いんだから、行くつもり。」

そう答えた。

「ふぅん。」

他人事のように答える。

「そう。「怖かったよ」とか言っても助けないからね。」

「・・・。」

「当然、窓側でいいわよね。」

「窓側は絶対嫌。」

「へぇ・・・。」

「ば・・・馬鹿にしないでよ。」


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