314列車 疑問
「うーん・・・。」
僕の気持ちは両方だった。今治からは「トワイライトエクスプレス」に乗って北海道に行くとたった今聞かされたのだ。
確かに、「トワイライトエクスプレス」には一度も乗ったことは無い。将来暇になったら萌と一緒に行くのも悪くないとは思っていたが、車両の老朽化がそこまで待ってくれない事は分かっている。それはさておき、超豪華寝台特急の「トワイライトエクスプレス」に一度も乗ったことがないまま、終ってしまうのはもったいない。だから、乗りたいとする心。
もう一つは切符の面。「トワイライトエクスプレス」はJR西日本が来春の2015年3月のダイヤ改正を持って廃止することを正式に発表している。さらに、相手は運行当初から絶大な人気を誇り今なお切符の取り辛い列車であることに変わりはない。皮肉な話をすれば、どんな人気の無い路線でも「廃止」と聞いたとたんに「乗り収め」に来る人がいる。間もなく廃止されるのに開業時の活気を取り戻したかのように人でごった返す例は数知れず。そして、これも例にもれずそうなるのは容易に察しがつく。となれば、切符発売と同時に売り切れるということがこれから運行される列車全てで起こることになる。
最近北海道新幹線の開業の為に廃止された北海道の江差線(五稜郭~江差(廃止区間:木古内~江差)の時とはわけが違う。江差線の場合であれば運行される列車に乗れば乗り収めが成立するが、「トワイライトエクスプレス」の場合は寝台であるがゆえに全車指定と変わらない。切符をとることが出来ない限り乗り収めは出来ないのだ。
「どうしたの。」
萌がスマホの画面を覗き込む。胸が左腕に押し当てられた。
「うわぁ・・・。結構豪勢なものに乗ってくんだねぇ。」
かなり他人事で話しているが、今治は萌も誘っている。もしかしたら行くことになるかもしれないんですが・・・。男4人の中に一人だけの女の子として・・・。
「でも5人で言ったらBコンパートメント使えないよねぇ・・・。それとも何、私は個室に乗っていいのかな・・・。」
「うーん。どうなんだろうねぇ・・・。」
(メンバーに入ってることは分かってるんだ・・・。)
萌が言うBコンパートメントは「トワイライトエクスプレス」のB寝台車。寝台特急でよくみられる上下2段の寝台を対向に配置するあの形状を利用し、各区画の通路側に扉を配置することにより、それを閉めると4人で一部屋というような簡単な個室を作れる構造になっているのである。
今回かりに乗るとしたら、5人で行くことになる為、誰かひとり別のB寝台かB寝台個室になる。
「個室は当然私よねぇ。いくらなんでも高槻君や百済君や今治君の前で下着だけになるのは嫌だからねぇ・・・。」
「まぁ、そうなることは無いでしょ。いくらなんでもそこは考えてくれるって。」
「・・・。でも、そんな融通きくかなぁ・・・。」
「そこだよねぇ・・・。」
同じ疑問は萌も持っているらしい。都合よく5人が取れたとしてもBコンパートメントを占有できるように切符をとるのは難しいだろう。それに萌の為に一人だけ個室にするっていうのもどうだろう。個室をとれてもかなり離れているとかっていうことになるのは仕方がないにしても、個室はもっと取り辛い。
「これだとさぁ、今治君考えないといけないよねぇ・・・。」
そういい萌は僕のスマホを取り上げた。僕のスマホと萌の持っているものはまたしても色違いである。そのため、萌は慣れた手つきで操作していく。
「「いつから並ぶつもりなのさ」っと・・・。あっ、ナガシィもかなりカワイイスタンプ取ってるじゃん。送っちゃおう。」
そういいながら、勝手にLINEを送っている・・・。
動作するスタンプを送ったため、両方に首をかしげるアザラシの姿が画面右下に入る。
「ホント可愛い物好きだよねぇ。」
そういいながら、萌はスマホを僕に渡す。
「勝手に送んないでよ。」
「今治君どっちが送ったと思うかなぁ・・・。絵文字とかつけて送ったからナガシィじゃないとは感づいてると思うけどねぇ・・・。」
そんなことを言っていたら、スマホが震えた。
「早朝から並ぶ。」
「えっ・・・。」
それに思わず声が出る。
「何だって。」
画面は萌の方から覗き込んでくる。また左腕に萌の胸が押し当てられた。
「えー。そりゃ甘いよ。さすがに・・・。」
「甘いよなぁ・・・。」
というよりも・・・。
「まず帰ろうか。」
考えてみれば、今までずっと外にいたのである。ここを通る人からは「リア充爆発しろ」とか思われているかもしれないが、それは置いといて。夏の夜で蒸した空気に包まれている場所からそろそろ動いてもいいだろう。立話もなんだし。
部屋につくともう一度LINEを開いた。トーク画面で今治とのトーク画面を開く。ベッドの上でスマホ画面を見つめている時に荷物を置いて、着替えを済ませてきた萌が部屋の中に入ってくる。
萌が来てからベッドの上に二人でうつ伏せになり、枕のところにおいたスマホの画面を見るようになる。
「いくらなんでもこれは甘すぎるって・・・。今治君にそう送ってやったら。」
「送ったけど・・・。結構楽観的かなぁ・・・。」
そういい萌に今治から返ってきた返信を指差した。
萌はそれを見てから、さっきと同じように今治に返信を送る。今度は怒った表情をしているアザラシのスタンプ付だ。
「さすがにこれはちょっとねぇ・・・。「トワイライト」だったら発売1秒で売り切れっていうのも。」
「あり得るでしょ。もう来年3月で廃止になりますってJ西が正式発表したんだし、当然じゃないかな。」
「マルスで一斉発売するんだし、大阪で1日前からとか並んでても取れるかどうか怪しい切符だよねぇ・・・。」
「まぁ、少なくとも早朝に行って取れる切符じゃないってことは分かるね。」
スマホが震える。
萌は今治からの返信を見てから、
「これさぁ、さすがに取れなかった時の話をしたほうがよくない。もし取れなかったら確実にLCCでしょ。ナガシィ飛行機無理じゃん。今まで飛行機乗ったことあったっけ。」
「あるよ。前に「北斗星」に乗って函館行った時。ジャンボ乗ったけど怖かったって言ったじゃん。」
「あっ、あったね。そいえば。」
そう言ってから、萌はスマホを操作し、今治に返信を送る。
数分経ってから再びスマホが震えた。その画面を僕にも見えるように萌は僕の方に寄ってくる。
「こうだって。札幌行きの「トワイライト」が取れたら、それで札幌まで行って帰りがLCC。帰りの大阪行きの「トワイライト」が取れたら、行きがLCC。帰りは札幌を18日に発って19日にこっちに帰ってくる予定なんだって。それで、どっちも駄目だったら往復LCCだって。まぁ、北海道行くんじゃこうなるよねぇ・・・。」
「そうなるよねぇ・・・。」
萌は僕の方を見て、
「どうする。往復LCCの可能性が一番高いけど行く。」
と聞いてきた。
「乗れるんだったら行くよ。」
「じゃあ、取れなかったらいかないの。」
「ううん。取れなくてもいく。北海道はずっと函館に行ったきりで札幌とか奥まで入ったことは無いからね。」
「そう。じゃあ、ナガシィ行くよって送っとくね。」
「いいよ。別にそんなことしなくても。行くって自分で送るし。」
そういうと、
「それもそっか。ていうより、ずっとこのままだとナガシィに服脱がされちゃいそう。」
そんな冗談を言って、起き上がった。
「別にそんなことしないし。」
「まぁ、いいわ。ナガシィ何か食べる。私は無しよ。」
「だから・・・。」
この時期、どういう売り切れ記録を打ち立てていたでしょうね。




