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MAIN TRAFFIC3  作者: 浜北の「ひかり」
Office Episode
14/69

306列車 永沙

 6月下旬。JRのPatrol隊に転属になるのは7月の中旬ごろだと決まった。○○駅での勤務も7月に入ってくると終わりが近づいてくる。

 と言ってもそれは○○駅での警備であって車による警備の始まりである。新たな場所での仕事が僕の前には待っているのである。いや、沙留と萌の前にもか・・・。

「Patrol隊は夜勤が多いときは5連発する。」

春風隊長はそう言っていた。最終的に望んだわけではないが、○○駅での勤務の終盤夜勤が連続することとなった。ある意味Patrol隊に行くにあたっていい経験になることは間違いなかった。

 そして、そのうちの一つは沙留とともに仕事をすることとなったのだ。沙留と組むのは夜勤2日の内の2日目。

 今日はそういう日だ。

「少なくなったなぁ・・・。」

そんなことがふと口から洩れた。

 この駅はとても大きい。昼には多くの利用客で沸き返っている通路は夜になればホームレスを数十人数える程度にまで落ち込む。ロータリーには昼間埋め尽くすほどのタクシーが止まっているが、夜になればその多いタクシーはどこに消えたのかと問いかけたくなるほどにまで数を減らす。タクシーの運転手も煙草を吸って利用客が来るのを粛々と待っている状態だ。

「ま、少ないでしょ。」

沙留はそう言った。この駅の事情はよく分かっているみたいである。まぁ、僕とは違ってこっちの人だからねぇ・・・。厳密には大阪の人であるが・・・。

「大体、この辺りはビジネス街じゃないんだから、夜になったらビジネスマンもいないしね。ただ単に帰って来るだけになるのがここの特徴だって。」

「・・・。」

まぁ、この街の特徴だろう。それを反映した夜という具合である。

「間もなく、ジャムジャムライナー122便出発します。」

メガホンを片手に赤色のジャンパーを着た人たちが夜行バスの出発を呼びかけている。前には緑色のバスが2台並んでいる。バスの車体には東京の街がシルエットで描かれている。その中にはもちろん、開業から日が浅いスカイツリーの姿を見ることもできる。100%東京方面行きの御客を狙った夜行バス会社が運営していることは察しが付く。

 時間は間もなく24時をまわろうとしている。

 この時間になってくると夜行バスもそろそろ終わりだ。

「すみません。」

そう声をかけてきたのはキャリーバッグを片手にする女性である。

「はい。」

その声に答えたのは沙留であった。

「この中のトイレって使えないんですか。」

そう聞いてきた。だが、この中のトイレを使うことは出来ない。入口の上には案内があるが、こんなの鍵を締めてしまえば何の意味もなさない。これは丁重に断るしかないのだ。まぁ、どんなに騒ごうともトイレに入る手段などないのだ。自分らは入れないわけではないが、入れてしまうのは問題。入れるのはあくまで例外。その例外が認められない以外、入れるのはよくないのだ。まぁ、其れでも甘い。鍵を締めた以上入れないというのが常識であるため、その例外で入れるということも本来はしてはならない。

 日本人の甘さかなぁ・・・。

 夜行バスも発射して、この下にいる人間はほとんどこの近辺にいる人だろうと思えてくる顔ぶれになり始めた。

 ○○駅にくるすべての営業列車が終了すれば、駅の出口は閉鎖される。もちろん、新幹線側に関係する箇所に限られる。そこのシャッターが閉まり、客の流れを制御できた時点で、間もなくこの駅は眠りにつく。

 時間が近づいてくると駅の助役が出てきて、最後まで開いていたドアの鍵を締める。

「えーでは、閉鎖○○時〇〇分でお願いします。」

鍵を締めたことを両者確認するためのことである。これを言えば、この駅の長い1日が終わる。夜になってからというもの特に何かあったわけじゃない為安心して眠ることが出来そうである。

「はい、了解しました。」

僕はそう言って助役の時間をとった。

「では、これからもよろしくお願いしますね。」

助役はニコっと笑顔を見せてから、東京方面に向かって歩いて行った。

「五十鈴助役って若いよなぁ・・・。」

沙留は助役の後姿を見送りながらそう言った。

「ああ・・・。若いねぇ・・・。」

「春風隊長が言ってたけどさぁ、やっぱりコネって重要なのかなぁ・・・。五十鈴助役って30ぐらいって聞いたけど・・・。」

「・・・。」

コネかぁ・・・。それを言ったら一番脈があったのは留萌と木ノ本だったんだろうなぁ・・・。留萌は父親、木ノ本は母親がJR東海だと聞いている。コネが重要になってくるとその二人が採用されなかったのは謎だ。やっぱりコネって関係ないのかな・・・。でも重役クラスになると関係してくるのか・・・。うーん、分からん・・・。

「分からんし、戻ろうか・・・。」

僕はそう言って、ゆっくりと一歩を踏み出した。本来ならサクサクと歩くところであるが、一つ一つの動作をゆっくりにした。此処からまだ警備の終了までは〇分ある。

 しばらく時間が経って、時計を見ると警備終了時間の1分前だ。

「戻ろう・・・。」

沙留にそう声をかけて、僕は閉鎖したドアのかぎを開けた。

 沙留が入ったことを確認して、さっさとドアを閉めた。と行きたいところなのであるが、このドアは閉まる手前から一気に重くなる。恐らくこの建物の中に入り込んでくる空気がこの扉を押し戻そうとする力として働き、抵抗が増しているのが原因だろう。

 まぁ、そんなことを論じるよりもドアを閉める。そして、鍵をかけ、互いにしまっているかどうかを確認して詰所に戻った。

 詰め所に戻ったらしばし休息の時間である。その休息を何回かはさんでこの警備は終了する。

 僕は休憩時間になると小説を取り出した。こういう時間に最も読み進められるのである。

「なぁ、一つ聞いてもいいか。」

席に着くなり沙留はそう切り出した。

「何。」

「美萌ちゃんから聞いたんだけどさぁ、坂口さんと永島って付き合ってるのか。」

「えっ・・・。」

特にそう言う意識を持ったことはない・・・。まぁ、端から見ればそうなるのかな。

「そうなるのかな・・・。」

「なんだよ。その言い方・・・。まるで「付き合ってません」みたいな言い方じゃない。」

「だってねぇ・・・。」

「・・・今治もお前たちのこと恋人同士みたいなこと言ってたけど、キスとかあんなこととかこんなこととかやったことあるの。」

うーん・・・。あれ、萌とキスしたことあったっけ・・・。まぁ、思い当たる節がないんだから多分ない。それに沙留の言うことは・・・。

「キスはないと思うし、そういうこともないけど。」

「あっ・・・。ないんだ。」

「って、なんでこんな話になってるのかな・・・。」

「休憩中だからよくねぇか。正直言うところ夜巡回なんて閉鎖まで終わっちまえば仕事の8割終ったって考えていいぐらいだからな。」

「まぁ、そうだけどさぁ・・・。」

そう言いながら、案外眠くないなぁということを思っていた。昨日はかなり眠かったのに、何故だろう・・・。

「じゃあさあ、したことないってことは裸とかも見たことないの。」

「まぁ、まず見せてくれるなんてことは無いしね。でも、見たことはある。」

「あっ・・・あるんだ・・・。」

なんかがっかりしたような口調だ。

「こっちはさぁ、時折やろうって切り出してもなかなかガードを崩してくれないからな・・・。美萌ちゃんってなかなか見せてくれないんだよ。裸とは言わなくてもさぁ、男として下着ぐらい見たい時ってあるよねぇ。」

共感を求めてますか・・・。それは否定しないでおこう。確かにその気がないわけじゃないから。

「まぁ、あるけど。」

「でも、永島が見たことないっていうのはびっくり。」

そんなにビックリすること・・・。

「だって、坂口さんとかなりベタベタしてるじゃん。もうリア充爆発しろとでも思ったことはいくらでもあるけど、そういうことは無いんだねぇ・・・。」

あんたも十分リア充です。

「ベタベタしてるっていうか、昔からあんな感じだったから特にこっちは気にしてないんだけどねぇ・・・。」

「そう言えるのがある意味すごいわ。俺は美萌ちゃんがあんなふうにベタベタしてきたら、やらしてくれるのかなぁってこと期待しちゃうけどなぁ・・・。」

「・・・。」

考えてみれば、僕と萌の距離ってそこまで近いのかな・・・。特にそれを感じたことは無いなぁ・・・。電車に乗って大体席が隣同士だし、学校の休み時間になったら隣同士で話し合ってたし。それにあんなことがなかったとは言っても、萌の胸が僕の背中に当たることは有ったし、かなり頻繁に。貧乳だけど。

 萌はそのことどう思っているのかは知らないけど・・・。

「坂口さんって今日○勤だっけ。」

「そうだけど。」

「仮眠室行ってみないけ。」

「行ってもいいけど、どうなっても僕は知らないよ。」

「道連れにはならねぇのかよ。」

沙留がそう言った時、携帯電話のアラームが鳴り始めた。僕はアラームをかけていない。その時間になったら起き上がって出る準備をするぐらいだ。

「ヤベ。もうそんな時間か。」

「行こうか。」

お腹の上においていた制帽を頭の上におき、無線機と警棒と許可証がついていることを確認して、詰め所を出た。

 こういうことを何回か繰り返して、この駅が完全に目覚めるまでを見つめるこっちの強が終わるのだ。


男だから仕方ない(笑)

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