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MAIN TRAFFIC3  作者: 浜北の「ひかり」
Office Episode
11/69

303列車 春風談議

 今日も出勤である。最寄りの上新庄から阪急に揺られて、勤務先に向かう。勤務先で一旦集町礼を行った後、それぞれの仕事に就くのだ。尚、仕事に際しては特別に許可を得る必要がある。まぁ、当然のことだ。それをしてから仕事に就くわけだ。

 今日はほとんど改札の中で立っていることとなる。萌が前に行っていた○勤務のことである。

 まぁ、最初から立っているわけではない。当務責任者と同じで組むこととなるとそういうお墨付きがやってくるのである。そして、今日の当務責任者は春風隊長である。

「懇談会どうだった。」

春風隊長はそう聞いてきた。

「どうだったかって聞かれてこの隊の悪い評判でも流してきた。」

笑いながらそう言っている。

「そっ、そんなことありません。ちゃんと良い隊だって言ってきましたよ。」

「ハハハ・・・。まぁ、せっかく来てもらったのに「悪い隊です」なんて言われたらこっちとしてもいい気がしないからな・・・。でも、悪いと思うことがあったらそう言うことは遠慮なくいいなよ。そうでないと悪いことも改善しないからね。」

そう言っている。

 でも、春風隊長の言うこともそうであろう。悪いところは改善しなきゃ。そのためには新しく入った人の目っていうのはとても重要なのだろう。新しい視点から隊の中を見るため、新鮮に見えるようになる。その時に悪いと思えるところをピックアップし、会社の上層部からテコ入れを行うことで環境改善を狙うという意味合いもあるのだろうか・・・。ただ、其れってかなり難しいことのように思える。ただでさえ入ったばかりなのに、悪いことを上げてくれっていうのはどうだろう。新入社員の中でも「これは悪いです」と声を上げられるのは相当な度胸のいることであろう。

 あっ。僕は一つ思い出したことがあった。

「そう言えば、僕たちって異動になるっていう話を懇談会で聞きましたけど。」

「ああ。あの話ね。」

その口調からして知っているということがよく分かる。

「もともと今年JRの警備に行った人は全員Patrolに回すって考えてたからね。だから、遅かれ早かれ異動にはなったよ。」

「はぁ・・・。」

「その一言ぐらい言ってくれればいいのに。ねぇ。」

同意を求めてきた。うん、これには共感した。懇談会で初めて移動の話が出てきたのだ。いや、移動の話は他の人には申されていたのかもしれないけど、僕は少なくともそんな話を前もって聞いていない。

「Patrolって車で沿線警備するっていうふうに聞きましたけど。」

「ああ、そんなもんだよ。車で鍵のあるところまで行って、引っ張って「おーわり」っていう簡単なお仕事だよ。」

そんなこと言ってるけど、実際にそこまで単純じゃないでしょ。そうツッコミを入れたくなった。言ったことは無いからどういうことが本当なのかはわからないけど、このとき春風隊長の言っていた「鍵のあるところまで行って、引っ張って「おーわり」っていう簡単なお仕事」っていうのがあれほどのものだったとは僕はまだ知らない。

「そう言うもんですか。」

「そう言うもん、そう言うもん。実際僕もそっちに行ってたしね。」

(えっ・・・。)

それは初めて聞いたことである。

「Patrolに行ったら、こっちに戻ってくるのが馬鹿らしくなってくるよ。」

「では、どうして。」

「んっ、まぁ、其れだけ日綜警もサラリーマン社会ってことさ。」

馬鹿らしくなるとは言ったものの戻りたいという表情はしていない。春風隊長には何かやった過去でもあるのだろうか・・・。そう思ったが聞くのはやめておこう、何か開けてはいけない扉を開けそうな気がするのだ。

「簡単な仕事とは言ったが、蓋開けてみればそれほど簡単でもないからね。それよりもPatrolに行って一番憂鬱になるのが乗る人だね。」

「乗る人・・・。」

「うん。」

そう言ってから一呼吸おいて、

「例えば、僕と永島君が仲悪いとするじゃん。その仲悪い人と12時間くらい車の中で一緒に乗ることになるんだよ。これはさすがに憂鬱になると思うぞ。実際に人間関係がうまくいかないから、っていう理由でPatrolを出て他の隊に行く人はいる。」

「・・・。」

「それに車乗ってるのは2人だけだからね。何かあった時が一番大変なんだよ。いろんなところから電話はかかって来るし、報告書作るためにいろんな事メモしなきゃいけないし。いっぱい、いっぱいだよ。普段ならあんまり体力使わないけど、何かあったらそれだけで一日分の体力全部持ってかれるからね。」

それはそれでPatrol隊ってすごいところだと思える。

「まぁ、楽しみにしてればいいよ。」

そう言っていると無線機からノイズが流れた。何か喋っているようだが、何をしゃべっているのかは全く分からない。

「何か言ってるなぁ・・・。」

「はい・・・。」

「ほっとこ。何言ってるか分かんない。」

「あ、はぁ・・・。」

そう言ってから春風隊長は思い出したことがあるようだ。

「あっ、そうそう。君らってクレペリンできる。」

(えっ・・・。)

それが出たことに驚いた。クレペリンって専門学校ぶりである。あの単純な計算をただひたすら15分間前後半に分けて行われるあれである。こう聞くってことは真坂、クレペリン検査をやるってことだろうか。

「少なくとも、僕と萌は出来ますけど。」

「萌かぁ・・・。いいなぁ。あっ、これ言ったら明美に怒られるわ。ハハハ。」

誰だかわかんないよ。

「ごめん、ごめん。そうか。出来るか・・・。じゃあ、どんな検査かも分かってるんだね。」

「はい。」

「Patrol隊行くにはクレペリン検査をやるからね。後は同じ図形を探したりとか・・・。」

何かさっきから春風隊長の言っていることは僕が過去にやったことがあるだろうと思われることばかりである。クレペリン検査のことについては省くが、同じ図形を探すっていうのはおそらくあれのことだろう。鏡を置いた時に鏡に映る像はどれであるかとかそう言う検査のことだろう。そして、やるんだ・・・。

「まぁ、図形の検査でよほど悪い点数とらない限り落ちない。後はクレペリンで変なこと考えなきゃ落ちない。でも、図形の検査で落ちるとPatrol隊には行けない。クレペリンは落ちてもまた受ければいいからどうってことは無い。」

「・・・。」

「まぁ、検査日の話もこっちに来てるから、詳しい案内とかはもっと近くなってから支社から送られてくるし、その時になったらおいおいいうね。」

「はい。」

この話はいったんここで終了した。春風隊長はそれまで後ろの長椅子で腰かけていたが、立ち上がり、パソコンの前に座った。

「昔ねぇ、JRの人に「丁寧でなくていいんで読める文字書いてください」って言われたことがあってね。もう、読める門司なんて書けないから、パソコンになったんだよ。」

(えっ・・・。それは一体どういうこと・・・。)

「昔は歩行巡回の報告書とかも全部手書きだったんだよ。今は異常の有無だけ丸つけて、巡回時間書くだけだけどそれが全部手書きでね。もう、最後になったら適当に書いてたんだ。」

それが原因なんですね。

 そんなことを話しながら書類を作っていく。でも、

「実をいうとなぁ、パソコンもそんなに得意じゃないんだ。」

(えっ・・・。)

「打ってくれ。」

そう言うと春風隊長はパソコンの前から退いた。

「比叡副長から聞いたけど、永島君パソコンで切るそうじゃないか。どん位早く打てるんだ。」

それを話したのは萌以外の何物でもないだろう。確かに、慣れてない人よりは早く打てるが・・・。断る理由もないし、打ってもいいか・・・。

「・・・分かりました。」

「あっ、もうこんな時間かぁ・・・。」

春風隊長がそう言った。チラッと時計を見てみると警備に入る7分前である。

「行こうか。」

そう言って春風隊長が立ちあがる。それに「はい」と声をかけて、僕も立ち上がった。

 詰め所を出て、扉が完全にしまったかどうかをチェック。そのあとに無線機がふつうに動くかどうかを他の人と通信をとってチェック。これで白手袋を手に付け、準備完了である。

「あっ、異動って言っても7月1日からとかっていうことは無いから。」

春風隊長がそう言った。

「そうなんですか。」

「うん、新幹線の線路内入れるIDカードが出来るのが今からだと7月の中旬ぐらいだからね。」


鍵を引っ張りに行く簡単なお仕事って・・・。

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