~呼ばれた理由~
やっと女神体の名前が判明。
ふむ…。どうしたモノか。
自称ハーデス曰く、暫くしたら身体に帰れるらしい。
本当かどうかはわからんが。
ん?冥府の王がいるってことは、ここって冥府だよな?
あの世とか言われる場所だよな?俺、仮死状態に無理矢理されたとか言わないよな?
「なぁ、ここって冥府なんだよな?」
「さようでございます。」
「そしたら、今の俺って仮死状態ってこと?」
勝手に呼び出した挙句、仮死状態とか…シャレにならなくね?
「いえいえ。姫様は冥府の女王であらせられます。
仮死状態になどならずともこちらに滞在することに問題はありませんよ。」
なるほど。そりゃそーか。
「ふーん?んで、この身体の人?女神?の名前って何て言うんだ?」
「うむ!我の妻の名はペルセポネーという!名前まで愛らしいだろう!」
ノロケはいらねぇ。
さっきから、コイツの頭の中に花咲いてねーか?
春が来たってヤツか?
「ペルセポネー…ねぇ…」
知らない名前だなぁ…。
「我は愛情を込めてペルと呼んでいるぞ!」
いちいちうぜぇ…。
長いから愛称つかアダ名か?で呼ばれてんのか。
「さぁ!お主も我の名前を呼んでくれ!」
「黙れ変態。」
「なに、そう照れなくても良い。照れてるお主も可愛いらしいが、
久方ぶりに名を呼んでくれてもいいではないか。」
照れてねぇぇええ!!
「………呼んでくれぬのか?」
ショボーン
くっ!デカイ図体してしょんぼりするな!
縋るような目で見てくんな!
さっきのもウザイけど、こっちはこっちでウザイ。
視覚的ダメージではこっちの方が上じゃねぇか?
気持ち悪いって意味で。
「はぁ…仕方ない。ハーデス。これでいいか?」
「おぉ…!ペルゥゥウ!!」
「抱きつくな!!頬ずりすんな!!花を撒き散らすな!!」
名前呼ぶだけでどんだけ喜んでんだよ?!
「主…良かったですね…。まさか姫様が…!
我ら配下一同、感激で涙が止まりません。ぐすっ」
はぁ?!大袈裟すぎじゃね?!名前呼んだだけだぞ!?
「まさか…姫様が…主の事を様付けではなく、
愛情と親しみを込めて名前を呼んでくださる日がこようとは…!
その場面に立ち会えた事、光栄の極みでございます!ぐすっ」
え?はっ?お前、嫁さんに様付けで呼ばれてんの?
あ。いい所のお嬢様なんだっけ?
ハーデスの嫁になるくらいだから、結構上位な神様だよな?
「んで?お前の名前は?」
そうそう。さっきからちょいちょい人の心読んだり解説したりしてる奴。
ハーデスの直属っぽいから、かなり上位だよな?
見た目は、黒髪黒眼で色白だな。
みんな黒髪なのか?
ハーデスほどの超絶イケメンじゃないが、かなりイケメンだ。
身長も俺よりあるし。
あ。今の俺の身長が低いだけか?
後ろで緩く髪を一本に結ってるな。ハーデスよりは髪が短い。
モノクルを掛けてて、インテリっぽいな。
んー?顔立ちが何となく護と似てるか?
護は剛。こっちは柔って感じだけど。
曲者って感じだなー。頭良さそうだけど、悪巧みに使ってそう。
冥府だからその方がいいのか?
「あぁ…!主だけならず、私の名前まで尋ねてくださるとは!!
さすが姫様でございます。記憶がなくとも姫様は姫様だということが、
私にもよぉ~く理解出来ました!!」
名前を聞いただけなのに面倒な奴ばっかだなぁ…。
「私は、死を司る神、タナトスと申します。」
はぁ?!死を司るぅ?!コイツ、ヤバくね?!あれ?!でもココ、冥府。
あれ?普通なのか?死神みたいなもんか!?
………余計怖ぇぇ!!
「只今、抜け駆け…いえ、任務のため出払っておりますが、私には双子の弟がいまして。双子神などと呼ぶ者もいますね。」
今、抜け駆けって言ったか?
弟は任務と言う楽な仕事にでも行ったのか?曲者の弟もやっぱり曲者なのか?!
それともこの面倒な兄貴や上司と少しでも離れたかったマトモな神経の持ち主なのか?!
俺としては後者を希望するぞ!!
「あぁ…姫様…!どうか私の名前もお呼びください!!」
お前もか…!!
「姫様…!!どうか!どうか…!!」
グイグイ来んな!!必死すぎて怖ぇえよ!!
さっきのハーデスの事を考えると、多分、ちゃんと名前で呼んでない気がする。
うーん。なんて呼ぶか…。
「メガネ。これでいいか?」
なーんてな。さすがにコレはねーか。
でもなー。他に特徴らしい特徴がなぁ…
「あぁ!姫様!!私の呼び名を覚えてくださったとは!感動で涙が止まりません!
ぐすっ。ずびっ。」
ま じ か!!
涙どころか鼻水まで出てんぞ?!
そこまでか?!そこまでなのか!?
「ペル、そんな奴の相手をしていないで、我を構え。」
お前も大概面倒だな!構ってちゃんか!!
「お主は我だけを見ていれば良い。我が守ってやろう。安心して身を委ねるがよい」
いや、それってどーよ?赤ン坊じゃあるまいし。
自立させろよ。この身体、どう見ても高校生くらいには育ってるぞ。
女神らしいから、実年齢はもっと上だろ?
百年以上生きてたとしたら、赤ン坊みたいな扱いは本人の為に良くないぞ。
「ふむ。せっかくペルが目の前にいるのに、そのような質素な装いではつまらぬな。」
唐突だな。おい。
まぁ、確かにお姫様?女神様?が着てるには、俺のイメージとしてはシンプルだな。
足首くらいまである長いワンピースで腰に細めの布巻いてる。
アクセサリーの類いはまったくなし。
長い銀髪もそのまま流してるだけだ。
中身入ってなかったみたいだし、寝間着みたいなもんか?
俺としては楽でいいんだが。
「ふむ。入浴がてら着替えてこい。その間に茶の準備をさせよう。」
「別に俺は今のままで構わないんだけど。どーせすぐ帰るし。」
すぐ帰れるよな?大丈夫だよな?なら、別に風呂はいいや。
着替えなんてもっといらねー。
「そのままでもペルは誰よりも可愛いく愛らしいが、
愛する妻の着飾った姿が見たいという我の気持ちもわかれ。」
いや、確かに女の子が可愛い格好してるのを見るのは俺も嬉しいから
気持ちはわかるんだけどさー。
対象が俺って時点でない。
「おい。世話係」
「既に準備は整っておりますわ。我が主。」
うおっ?!いつからいたよ!?
二人の綺麗なお姉さんが知らない間に壁に控えてた!
「さっ。姫様。ご入浴に参りましょう。」
「こちらでございますわ。」
「いやいや!待って!必要ないから!」
「まぁ、相変わらず恥ずかしがり屋さんですのね。」
恥ずかしいとか言う問題じゃねーよ!
「姫様?寝間着姿を夫以外にいつまでもお見せするのは感心いたしません。
お着替えすることをお薦めいたします。」
あー…。そういう問題もあるのか。それならしょーがないか。風呂ねー。
ここの世界の風呂ってどんな感じなんだ?
「納得いただけたようでなによりでございます。さっ。こちらでございます。
私達がお世話をさせていただきますので、ご安心くださいませ。」
「は?!いやいや。俺一人で入れるから!」
綺麗なお姉さん達に洗ってもらうって!嬉しくないとは言わないけど!
俺にはちょっとハードル高い!!初心者用でお願いします!!!
「ふふふっ。女同士ではありませんか。何を恥ずかしがることがございましょう。」
「身体は女だけど!俺、中身男!!」
「あら?でしたら、私達は構いませんわ。お好きになさってくださいませ」
何言ってんのー?!
「お前等。何を隙を見て美味しい思いをしようとしている。我が許す筈なかろう。」
よし!ハーデス、よくやった!!
「あら。ふふふっ。主に釘を刺されてしまったら仕方ありませんわね」
「姫様から望まれるのを待つといたしましょうか」
マトモな奴はいねーのか?!
「俺、一人で入る…」
それでゆっくりしたい…。なんかコイツ等の相手疲れる…。
「あら?姫様?お身体は女性ですが、中身は男性なのでしょう?ふふふっ。
姫様ったら…ふふふっ。」
はっ!そーだった!!俺の身体、女だった!いや、でも自分の身体だし……いや。
無理。俺には無理。
「ふふふっ。姫様?姫様が目を瞑っている間に私達が洗わせていただく。
というのが一番ではございませんか?」
うーん。それなら…有り…か…?いや、でもそれって何てプレイ?
危険度増してね?特に含み笑い怖い。さっきの発言の後だと余計怖い。
「ふむ。ペルは世話係が女というのがダメなのか?」
「当たり前だろ。今の俺は男なんだから」
お前みたいな超絶イケメンモテ男、女に困ったことがなさそうな奴にはわかんないだろうが、俺にはハードル高いんだよ!!
「よし!では我が洗ってやろう!!」
はぃぃい??
「我なら男だからな。問題なかろう?」
「違う問題が浮上するわボケ!」
何が悲しくて男に洗って貰わなきゃならんのだ!
「何を言う。何千年夫婦をしていると思ってるんだ?
お主の身体など数えきれないほど触れている。洗うだけではなくもっと気持ちよ」
「それ以上言ったらぶっ飛ばす!!」
「くっくっくっ。いつまでも初心なことだな。だが、それがイイ!!さ。行くぞ。」
「ふざけんなー!!姫抱っこ辞めろ!!降ろせー!!!」
「良いではないか。良いではないか。」
どこの悪代官だよ?!
マジで辞めろ!!!身体はお前の嫁さんでも俺は違うー!!!
パァァァアアア……!
なんだ?!身体が光ってるぞ?!
「ちっ。ペルめ。やはり保護結界を施してあったか。」
保護結界?よくわからんが、助かったのか?
「ペルよ。また近い内に会おう。」
また無理矢理呼び出す気か!
「一度繋いだからな。次からはそう難しくはない」
はぁ?!もぅ来たくねーんだけど!?
そのまま、俺の意識は何かに引っ張られるように薄れていった………
「………行ってしまわれましたね」
「うむ。致し方あるまい。あれ以上はアヤツの負担になるからな。」
「えぇ。女神としての意識がないとなれば、力を使えないでしょうし…」
「今のアヤツに故意に力を使わせるのは危険だな。ペルの判断は正しい。」
「……さようでございますね。」
「女神としての意識がなくとも、短時間の滞在で冥府の空気が見事に浄化されている。
衰弱していたエリュシオンも活性化されているだろう。」
「……姫様に負担が掛かっていないと良いのですが…」
「保護結界はそちらの負担も減らしている。
アヤツは普段のほほんとしているが、大事な所は抑える。」
「そうでございますね。またお会い出来る日を楽しみにしていましょう。」
「うむ。」
ただの嫁馬鹿じゃなかったらしいです。