後悔
『島根県警の八雲と申します。高見明日奈さんが日御崎で自殺しました』
あれは悪戯ではなく遺書だったのだ。浅野は後悔した。もしもあの時電話に出て説得をしていれば彼女は自殺をしなかったかもしれない。
『明日奈さんの最後の発進履歴があなた。浅野さんでした。彼女は何か言っていませんでしたか』
浅野は涙を堪え説明する。
「その電話には出られなかったのよ。大切な会議に参加しなければならなかったので。その代わり留守番電話に『もう疲れた。さようなら』という遺書のようなメッセージが録音されていたわ」
『遺書と思われる留守番電話をボイスレコーダーに録音して島根県警に送ってください。自殺であることを裏付ける重要な証拠です』
浅野は機転を利かせる。
「それなら名前を控えた方がいいと思うの。名前は浅野房栄よ。では島根県警に送るわ」
八雲は驚いている。
『公安調査庁長官の浅野房栄ですか』
「やっぱり。浅野さんとしか言っていなかったからおかしいと思ったのよ。初対面なのになれなれしいよね。八雲さん」
八雲は上司にこのことを報告しなければならないだろう。被害者の携帯が最後に発進したのは浅野公安調査庁長官の電話番号。この事実が示しているのは大事件に発展する可能性が高いということ。電話を切ろうと八雲は思った。
『浅野公安調査庁長官。遺書の留守番電話を録音したボイスレコーダーを送ってくださいね』