犬猿
木原と神津は会議室を出て行く。その足で救急隊員の高野を訪ねた。
「警視庁の木原です。先ほど搬送された高見七海さんについて確認させてください。こんなことはありませんでしたか。・・」
「そうです。それに補足するならその女の子は搬送する直前お母さんと呟いていたな。でも周りには子連れのサラリーマンの男しかいません。あの女の子には霊感があるのかもしれませんね」
救急隊員の言葉を聞き木原は閃いた。
「まさか。ありがとうございました」
この推理が正しければ幾つかの謎は解ける。だがそれでも謎は残る。
木原と神津は鄭勘介に話を聞くために会議室に戻った。しかしそこには彼の姿はなかった。会議室の中には八雲警部と月影がいた。
「月影さん。鄭勘介はどこにいますか」
「診察室に戻りましたよ」
診察室に戻ったことを知った二人は彼を探した。その過程で木原は待合室に甲斐遼太郎がいる所をみつける。ここで会ったのも何かの縁ということで二人は先に甲斐遼太郎に話を聞くことにした。
「甲斐遼太郎さんですね。警視庁の木原と申します。少しだけよろしいですか」
「今診察が終わったところです。それでは庭園で話しませんか」
甲斐の提案に乗り二人は病院の庭にあるベンチに座り話すことにした。
「甲斐大輝さんが亡くなりました。大輝さんはあなたの弟ですね」
「犬猿の仲だと聞いて俺が殺したということですか」
甲斐の問いに神津は答えた。
「まだそこまでは言っていない。今年の七月十九日に甲斐大輝さんに会わなかったか」
甲斐遼太郎はあらかじめ買っておいた缶ジュースの缶を握りつぶす。
「会った。あいつは再開したとたん金を貸してくれと言った。また女に貢ぐのだろうと思い金は貸さないと思った。だが今回は涙ながらに頼んだので貸すことにした。あいつのあんな顔みたことなかったな」
「どのようにして大輝さんは説得したのでしょう」
甲斐遼太郎は思い出す。
「どうしても百万円がいる。人助けだと思って百万円を貸してくれ。見返りが欲しいなら俺の保険金受取人になれよ。十倍にして返してやるから。でも遺言は守ってくれよ。と言って遺言書を渡して帰って行ったな」
「その遺言書今持っていますか」
甲斐は鞄の中を探す。
「これですよ」
甲斐から渡された遺言書を二人は読む。遺言書の中には一枚の名刺も同封されていた。
「そういうことでしたか」
(これで東京の事件の真相は分かりました)
「因みに診察をしに来た理由は」
「糖尿病の治療です」
どうでもよいようなことを聞いた神津。それをフォローするように木原は指示を出す。
「では弟さんの書いた物を持ってきてください。弟さん直筆の物であれば手紙や日記何でも構いません」
「探してみます」
甲斐遼太郎は急いで帰って行った。その後ろ姿を神津は呼び止める。
「見つかったらこの電話番号に電話しろよ」




