徘徊
次は坂井好美の自宅を訪問した。坂井はガーデニングをしている。
「すみません。警視庁の木原です」
坂井は驚く。
「警視庁の刑事さんでしたか。てっきりルポライターさんかなと思いました」
坂井は自宅のリビングに二人を招く。坂井はお茶を出した。
「それで警視庁の刑事さんがなぜあの事件を捜査しているのですか。平山小五郎さんが殺された時に私はあの近くを通りました。ただそれだけですよ。これは島根県警には話しましたが」
「なぜあの近くを通ったのでしょう」
「毛利弁当に行楽弁当の注文に行きました。あそこは一週間前から電話が壊れているので態々弁当屋まで行かないと注文できないのですよ。店主は携帯電話を持っていませんし」
「因みになぜ行楽弁当を注文したのでしょうか」
「十月十日は小学校の運動会だから近所の方たちと子供たちの応援に行くのです」
神津は坂井に質問する。
「それでは今年の七月十九日に何かありましたか」
「珍しく高見明日奈さんが昼間に出かけていました。高見やよいさんは昼夜逆転した生活でしたので気になっていました。徘徊対策のセンサーをドアや窓に取り付ける前に出かけています。取り付け工事はその翌日です」
センサーが人を感知したらどうなるのでしょう」
「音が鳴ります。あの家の構造はリビングを通らなければ玄関に行けません。だからセンサーが作動するのは夜遅くにしているそうです。あんなセンサーがなければ・・」
二人は首を傾げる。
「なければ何でしょう」
「いいえ。忘れてください」
「それともう一つだけよろしいですか」
木原は机の上に被害者の写真を並べた。
「最初あなたはこの三人に見覚えがないと答えました。しかし第二の被害者日野夏美さんとあなたは友達であることが分かりました。なぜこのことを黙っていたのでしょう」
「夏美は殺されるような人間ではなかった。あの優しい夏美が殺されるはずがないと思うと殺されたのは夏美ではないと思うようになった。ただそれだけ」
二人は坂井家を後にする。木原は車内で坂井の言ったことを考えた。
「坂井さんは夏美さんの死を否定しようとしているのでしょう。この二週間の間に二人も大切な人が亡くなったのでそう思いたくないのも無理はありません」
「人情か」
その時木原の携帯が鳴った。
「木原です」
月影は衝撃の事実を木原に伝える。事実を知った木原は運転中の神津に指示を出した。
「小泉記念病院に行ってください。誘拐された高見七海さんがその病院に搬送されたそうです」




