反対
午前九時アリスは公安調査庁に出勤した。彼女は一目散に公安調査庁長官室に入り報告をする。
「浅野長官。例の女性の身元が特定されました。名前は日野夏美さんです。まあ今朝彼女は殺されましたが。それでそろそろ警察に情報を提供しようと思うのですが」
問いかけに浅野は興味を示さない。
「それもいいけれど、もしもこれがあの三人の行動だとしたらどうするの。つまりこの一連の事件が全て自殺だったとしたら。あの三人が国家に何かしらのメッセージを伝えるために集団自殺事件を起したということが真実だとしたらあの三人が自殺することで彼らの目的は達成される」
アリスは考え込む。浅野は話を続ける。
「もちろんこの推理は可能性の話。これが真実だとしたら生き残っている相生すみれさんは逮捕されるでしょうね。さてここからが問題。このまま彼らの行動を見守るのと彼らの行動を止める。どちらが正義でしょうか」
正義とは何なのだろうとアリスは考える。たしかにこれが集団自殺だとしたら生き残っている相生すみれは逮捕されるだろう。そうなれば先に死んだ男と日野夏美の死が無駄になる。もちろんこれ以上被害者を出さないことが一般的な警察組織の正義だろう。正義という言葉の板挟み。彼女は迷宮に迷い込んだような気分になっていた。アリスは決断を伝える。
「もう少し考えます」




