不死鳥
まもなくジーク軍の大艦隊がやってきた。
これだけ早く来るって事は、紫苑軍はうまくやったであろう事がわかった。
正面から堂々と迫る艦隊は、我ら4人の5艦隊の十何倍もの規模だ。
こちらもプレイヤをうまく集めてやれば作れなくはない規模だが、いろんな人が集まるネットゲームの世界。
連絡を取りあって日にちを決めないとそれは無理だ。
達也「こういった攻撃陣営の利点を、完全に使いこなしてるよな。よくこれだけ集めるよ」
俺は少し感心した。
そして、間もなく戦闘は始まった。
真でれらに前線を押さえさせて、しばらくはにらみ合い。
サイファ「とにかく時間を稼ぐ。何も無ければこのままを維持」
とにかく時間だ。
最前線にする予定の、リングへの物資の移動と設定。
モモさんにまかせているから、そんなに時間はかからないだろうが、それでも今行かせるわけにはいかない。
今行かれると間に合わないだろう。
LOVEキラ「別動隊が左から来るみたいだぞ」
サイファ「嫌な方からくるな。俺が押さえる」
俺は艦隊をやや左に旋回し、左からの艦隊に備えた。
真でれら「大丈夫か?左向くと、撤退がつらくない?」
サイファ「ああ、まあね。でもアレがあるし」
真でれら「ああ、あれね。なるほど」
ここの領域で左に向くと、逃げる時に旋回するか、もしくは右に進路を取るしかない。
で、旋回は一時攻撃の的状態になり、その後も背後をとられるので愚行とされている。
そしてこの場合に、右に進路をとって突破をはかる場合、敵の大艦隊に向けて進む事になるから、どちらもリスクが高いのだ。
逃げる事を考えた場合、一番きつい場所に、俺は旗艦を置いた事になる。
やはりジーク軍もそれはわかっているようで、多少の損失覚悟で、旗艦狙いに陣形を変えてきた。
サイファ「おお、完全に俺狙いだな(笑)」
LOVEキラ「そらそうだろ。この状況で旗艦が一番危険な位置にいるからな」
真でれら「これでアレが機能しなかったら、俺ら終わりだな(笑)」
薔薇の貴公子「でもアレをココで見せるのはもったいないかもな」
サイファ「まあ、出し惜しみできる立場じゃないからね」
一見状況は、ますます俺だけに不利な状況になってきた。
しかし俺達に焦りはない。
この状況なら、俺達の勝ちで逃げられる。
スーパーモモ「終わったよ。寝るねw」
待っていた通信が入った。
サイファ「サンクス!完璧?」
スーパーモモ「拠点の守りは任せてよ」
サイファ「信頼してるよ。じゃあゆっくり寝てね」
スーパーモモ「うん。ではでは~」
スピードスター「俺も♪」
サイファ「星さんもお疲れ!」
LOVEキラ「おっつ」
真でれら「おやすみー」
薔薇の貴公子「おつかれん」
どうやら最低限の戦果はあげられたようだ。
さて、後は逃げるだけ。
俺はまず他の3人を、右まわりで逃がす。
敵艦隊は、それを追わずに、全艦こちらに向けてきた。
達也「さぁ~て・・・」
俺は右まわりで、敵艦隊へと突撃を開始した。
この今の状況を見たら、おそらくこちらの全滅はまず間違いない状態だろう。
しかし・・・
俺は先日完成したあの兵器を発動させた。
俺の全艦隊の周りを、沢山の弾幕が包む。
艦隊を上から見た映像は、まるで不死鳥のようだ。
敵艦隊に我が艦隊が食い込んでゆく。
触れる敵艦船を次々と破壊。
爽快だ。
気がついた敵艦隊が、こちらと距離を取り始めた。
ラッキーだ。
これは一種の無敵状態を作る、連続弾幕防御兵器。
本来守る為の弾幕だが、触れれば爆発するしダメージを負う。
だがそれは無限に続けられる訳がない。
弾幕が無くなれば、そこまでだ。
だから補給戦艦の艦隊である俺の艦隊向きの兵器。
それでも長くは無理だ。
俺は一度弾幕を弱めに調整する。
離れた敵が再び距離を詰めようとする。
こちらも再び発動。
近寄ってきた艦船が破壊される。
また離れる。
こちらもまた弾幕をゆるめる。
両横を波形になって進む艦隊。
なんだか我が艦隊は、川を上る魚のようだった。
気がつくと突破は完了していた。
お互いが背中合わせな配置。
完璧だ。
俺はそのまま全速前進で、戦場を離脱した。
切り札を見せてしまったが、それなりの戦果は得られた、勝ったとも負けたとも言えない、少し歯がゆい戦闘だった。