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素直な心で  作者: 櫻塚森
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過去から現在へ

身重で都会の男に捨てられて帰ってきたことが発覚したエヴァに村の人達は最初こそ冷たい目で見ていた。

しかし、教師として懸命に働き、子供達からの信頼も得ていたエヴァに対して、子育てなどあらゆる面で周囲の人達は“協力は惜しまない”と言ってくれた。

田舎が似合うと何度も言われた自分が少しイヤだと思っていたのは、やはりアスランの隣に居たいという気持ちが強かったからなんだと彼女は思った。

この田舎で子供たちや両親、そして親切な村人達に囲まれて暮すのは幸せなことだと前向きに考え生きていた。


双子が小学生に上がろうかと言う頃、イギリス全土で子供たちの学力、知能テストが行われた。

その結果、エヴァの子供たち、ルークとアーサーの知能指数が120を超えていることが分かった。

さすが、自分の子供だとエヴァは思ったが、国の教育機関から子供たちへは最高の教育を与えるべきだと打診があった時は正直悩んだ。

子供達をのびのびと育てたいと思っていたエヴァは、村の人達皆が、国が援助してくれるなら都会で勉強をするのもいいのではと言ってきたことに心は揺れた。

子供達は愛する母親と一緒に暮せるならば何処でも良いと幼い割にしっかりしていた。


ルークとアーサーは本当に頭がいい。

それは彼らが物心ついた時からエヴァが思っていたことだ。

親や祖父母の言うことを理解し、言葉を喋るのも普通より早かった。

この聡明さは父親譲りかと思うと少し胸が痛むエヴァだった。


子供達が5歳の時、父親と言う存在が自分たちにはいないことへの疑問をエヴァに尋ねてきたことがあった。

理由を話すにはまだ早いとも思ったが、父親に必要とされていないとは言えなかった。

この天使のように可愛らしい子供たちをアスランは拒否したのだ。

子供達は父親のことを話そうとする母親がとても辛そうで悲しそうな顔をしていることに気付いた。

「母さんに、父さんのことを聞くのは止めよう。」

「うん、母さんにあんな顔させたくなかったよ。」

2人の中でアスラン、父親に対するイメージは最悪なものだった。


自分達のために母さんがロンドンに行くことを決めた時、正直申し訳ないと思ったルーク。

「どうしてさ、ルーク。」

「だってさ・・・。ロンドンには父さんがいる。」

ハッとなるアーサー。

父親のことを母親に聞くことはあれ以来なかったが、母の昔話を祖父母から聞く際に、どうしても言葉を詰まらせる時があり、それがアイザックと言う伯爵家に絡む話になった時だと察知した。

子供達は、母親が仕事で居ない時を見計らって、母親のクローゼットの中やアルバムなどを紐解いた。

その中で封印されたように紐で結ばれたアルバムがあるのに気付いた。

「これかな?」

「これだろ。」

アルバムの紐を丁寧に取り、開いた。

中に貼られている写真に写っていた大きい屋敷。

「母さん、可愛い。」

お転婆だったんだと思える写真がいくつもあった。

そして、同じ年頃の男の子と映っている写真。

それは、余りにも自分たちに似ていた。

「これだ・・・。」

「これだ・・・。」

写真を捲る。

何枚もその少年と少女であった母が一緒に映った写真があった。

少年はいたって無表情であったが、母を見る目は優しいものだった。

段々と成長していく2人。

子供だった少年は、青年に、少女は娘へと変化していき、その距離感も広がっていっていた。

進学する度に映る2人の写真。

嬉しそうな母の顔。

「母さん、可愛い。」

「うん、可愛い。どうして、父さんは母さんを捨てたんだろう。」

到底子供の科白ではないが、彼らの知能は高かった。

ただ、大人の事情と言われると訳が分からなかったのだ。

「この女誰?」

父親にしなだれるように腕を絡めている女が映っていた。

端の方に一緒に映っている母の顔は悲しそうだった。

「父さんの相手だ。」

「・・・父さんの趣味が分からない。どうして母さんより、コレがいいの?」

ルークは立ち上がる。

「兎に角、ロンドンに行くことになっちゃった。いいか、アーサー、」

「分かってるよ。母さんはボク達が守る。」

2人は腕を組む。

「「父さんからも、この女からも。」」

敵認定された父親と写真の女リサ。

息子達が新しい生活にそんな誓いを立てていることなどエヴァは知る由もなかった。


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