過去「6」
田舎に帰って、エヴァは幸運にも小さな小学校の教諭として働くことが出来た。
子供たちとの触れ合いは彼女の心の傷を癒したのだが、体の変化が現実を思い知らせてきた。
「妊娠・・・。」
体に宿った小さな命。
自分を弄んだアスランとの子供。
エヴァは、泣くことも忘れて働いて来たが、妊娠を知った時、涙を流してしまった。
父親から、妊娠したことをちゃんとアスランに告げるべきだ、責任を取らせるべきだと言われたが、エヴァには彼に拒否されるのが怖かった。
(堕胎しろって言われたらどうしよう・・・。)
たとえ弄ばれたのだとしても愛した人の子供だ、産みたかった。
結局エヴァはアスランに連絡をとることが出来ないまま臨月を迎えようとしていた。
そんなエヴァのもとに、リサが訪ねてきた。
彼女はリサの大きくなったお腹を見てギョッとした。
そして、エヴァは彼女の左の薬指に嵌った結婚指輪を見て改めて現実を知った。
「アスランの子なのね。」
「・・・ごめんなさい。リサ貴方を苦しめるつもりはないの。一人で産んで育てるから、」
リサは入れられた紅茶を一口飲んだ。
「アスランには?」
「知ってるでしょ?連絡なんてとってないわ。父さんも母さんも彼は知るべきだって言うけど、アスランには迷惑なだけでしょうから。」
リサはため息を吐く。
「そうね・・・産む産まないのは貴方の自由よ、エヴァ。私ね、アスランに言われて貴方の様子を見に来たの。彼は優しいわね。」
ズキリと胸がまだ未練がましく痛む。
「妊娠のこと、産みたいってことは伝えておくわ。」
「・・・ごめんなさい。」
「いいのよ、誰にだって過ちはあるわ。」
数日後、リサから封書が届いた。
そこには、驚くほどの金額が書かれた小切手とこれを期に一切の関りは持ちたくないというアスランのメッセージを記した手紙が添えられていた。
あれから3年。
生まれた子供は元気な双子の男の子だった。
エヴァにとって複雑なのは、2人ともアスランに良く似た銀髪に青い瞳だと言うことだけ。
生まれた子を見て、アイザック家に乗り込もうとした父を母と2人で止めた。
全て納得した上での別れだったと父には、もう一度説明した。
双子を抱えて生活をしていくことで、苦労もあるだろう、何故援助を頼まないとも言われた。
向こうにも責任はあるだろうとも。
けれど、エヴァはアスランに頼ることだけはしたくなかった。
この子達は自分だけの子だと。
大きくなって父親がいないことに疑問を持つだろう、そして会いたいと言われたら、正直に話すつもりだと言った。
父親にとって、エヴァは必要のない人間だったと。
だから、貴方達の父親には貴方たちは必要のない子供だと言われるだろう。
そんな辛い目に私は合わせたくない。けれど、母であるエヴァにとってはかけがえのない愛すべき子供たちであると。
あの日、アスランから送られてきた小切手は未だ使われることなく閉まってある。
アイザック家に返還しようとも思ったが、こちらのことを知られるのもイヤだった。