過去「5」
マンションのエントランスでリサと鉢合わせた。
派手ないでたちの彼女は、買い物帰りなのだろう、両手一杯の荷物を抱えていた。
「リサ・・・。」
こんなところで会ってしまうとは。
エヴァは顔を伏せて、横を通り過ぎようとした。
しかし、リサは彼女の腕をひっぱり、自分の手荷物を下に落とすと、エヴァの顔を引き上げた。
「あ・・・。」
リサは紅潮していた頬や腫れぼったい唇をしたエヴァを見て逆上した。
「あ、あんたっ!人の男に手を出さないでよ!この、泥棒猫!」
思い切り頬を叩かれた。
「ご、ごめんなさいっ!私、私っ!」
痛みは、胸にも刺さっていた。
リサはもう一度エヴァの頬を叩いた。
「許さないわ、あんたを・・・どれだけ私とアスランの仲を邪魔すれば気が済むの?高校の時か等ずっと、邪魔ばかり。いい加減にして!アスランにとって、あんたなんか、取るに足らない存在なの!お情けであの夜抱いてもらっておいて、まだ彼の優しさにつけこむなんて!最低よ!」
エヴァは自分の行為がリサをこれほどまでに傷つけていたことに今更ながら気付いた。
ひたすら謝ることしか出来ない。
そんな彼女の脳裏にはアスランが囁いてくれた愛の言葉も消えてしまっていた。
物凄い形相で睨まれながら彼女が吐く言葉は心に突き刺さっていく。
「いいこと、今後一切アスランに連絡なんか取らないで!彼は3日後にはアメリカに行くの!帰ってきた途端、卒業も決まってお父様の法律事務所に就職も決まっているの!もちろん、私だって、留学には付いていけないけど、就職先は同じよ!貴方に出る幕はないの!とっとと、田舎に帰りなさいっ!」
リサの怒りはもっともだとエヴァは思った。
(心はリサにあるくせに、グレッグのことを知っただけで、・・・愛情のかけらもなかったじゃない!エヴァ、目を覚ますのっ!貴方はアスランなんか好きじゃないのっ!愛してなんかないんだから!)
それからの3日間。
エヴァは友達の家を転々として寮には帰らなかった。
徹底的に彼をさけ、伯爵家を避けた。
そして、アスランが留学したことを知ると大学のスキップ制度を用いて、大学を卒業した。
教師の資格も得たため、ロンドンを離れ田舎に帰ることにした。
彼女の進路は伯爵夫人も知らない間に決められたことで、夫人は後からマグリットからの連絡でエヴァがもうロンドンにいないこと、息子が徹底的な失敗をしてしまったことを知り、マグリットに心から謝った。
「いいんです、元々、あの子の片思いで・・・リサさんみたいな魅力的な人に敵うわけないのに、教師以外の夢なんか持つから・・・。」
「ちょっと、待ってマグリット・・・。」
マグリットは夫人の言葉も待たず、言いたいことを言うと電話を切った。
どんな理由であれアスランは娘を傷つけた男だ。
そう思うと夫人すら許せなくなっていた。