過去「3」
「ねぇ、エヴァ?」
かけられた声に我に返る。
お茶会の真っ最中だった。
彼女の側には小さな天使が子守とままごとをして遊んでいる。
生まれた子はアイザック家の特徴と言っていい銀髪だった。家族にとって待望の女の子だ。
それなのに、彼女は未だにエヴァを誘ってくれていた。
「はい、奥さま。」
アイザック伯爵夫人は彼女達一家に奥さまと呼ばれることをよしとしなかった。
しかし、考え事をしていたエヴァはそれに気付いていなかった。
「…まぁいいわ。あなた、アスランとは連絡とってる?」
夫人の言葉に首を傾げる。
連絡など取る間柄ではない。
「やっぱり…あの子ったら!」
夫人のイライラした声の原因が彼女には分からない。
「あの~アスランとは学部が違いますし、アメリカに留学するって言うのも知ってます。」
あっさりとエヴァは答えた。
彼は勉学のため仲間と一緒にアメリカの大学に留学するらしい。
「直接聞いてないの?アスランに…。」
アスランとリサの婚約のことだろうか。
自分から言葉に出すことには躊躇ってしまうエヴァ。
「はい、あ、リサとの婚約のこと聞きました。おめでとうございます。」
「えっ!」
夫人の驚く顔にエヴァはハッとして謝った。
大学に入り、忙しさに発車がかかった頃、リサが嬉しそうな声を上げて抱きついてきた。
プロポーズされたのだと。
「あ、まだ公表されてないことでしたか。すみません。」
「・・・それは誰に聞いたの?」
夫人の厳しい目に本当軽々しく口に出しては駄目なことだったんだと悟った。
「…リサが…とても仲がいいみたいですね、よくノロケられます。あのアスランが甘い言葉を言っているのは想像できませんけど…。」
とぼけた表情で取り繕う。
「エヴァ、貴方・・・リサさんの言葉を…いえ、アスランは何も言ってこないの?」
夫人は私の気持ちを知っているはずだ。
けれど、アスランと私がそんな関係ではない事だって・・・。
「えぇ…昔からアスランは私には優しかったですけどあまり喋ってくれる方ではありませんでしたから。ホントよいお兄さんって感じで。」
“私なんか恋愛対象にはなりえない。私を抱いて失望したんだろう。リサの良さを確認したかっただけ。”
そう言いかけて彼女は口を閉ざした。
すると夫人が急に話題を変えた。
「エヴァはおつきあいしてる方はいるのかしら?」
怒っているような夫人に首を傾げる。
最近エヴァは同じ学部に通うグレッグと親しくしていた。
アスランといる時のような胸のトキメキや痛みはなく友達と言う雰囲気だが、たぶん周りから見るとお似合いの二人なんだろう。
リサにも彼とのことをけしかけられた。
「たぶん…そうなるにふさわしい相手なら、近いうちに…出来るかもです。」
きっとアスランほど好きにはならない。
グレッグには失礼かもしれないけど、彼を忘れるためなら、誰でもよかった。
その相手が彼なら、マシなほうだろう。
「ま、まぁそうなの?そう言えばアスランは貴方とどうやって連絡を取ってるのかしら、このお茶会のことだって、寮に電話があったの?」
バッグの中には、彼から来た連絡を書き取ったメモがあった。
一方的な連絡方法だが、それで十分だった。
電話など自分からかけたことはなく、彼からもない。
「連絡は大学の掲示板で取り合ってます。今日のお茶会のことも書いてありました。」
「なっ!掲示板ですって!ちょ、直接話はしてこないの?あの子は!エヴァのことが気がかりなはずよ、」
メモを開いてみても用件は大したことは書いてない。
「それで十分ですから。お互いに忙しい身ですし。でも、リサから本当はデートなんだって聞いてます。…奥さま?」
夫人は頭を押さえていた。
「いいえ、なんでもないの、ただ我が子ながら情けなくて…。」
エヴァは夫人の言ってる意味がわからなかった。
その話の後、夫人は少し席を外したが、直ぐ戻ってきた。
「また、ゆっくり話をしましょう。それから、マグリットにも会いたいわ。」
「はい、母に連絡しておきます。」
しばらくマグリットの話をした後、エヴァは伯爵家を後にした。