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素直な心で  作者: 櫻塚森
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過去「2」

学園生活を送る上で、唯一優しくしてくれたのが、子爵令嬢のリサだった。そんなリサとアスランが恋人同士だと知ったのは大学に入る前だった。

彼女が伯爵家に来た際に嬉しそうに告げに来たのだ。

付き合ってくれ、結婚も考えてるって言ってくれたと。

真面目で誠実な彼が嘘は言わないだろうと、リサに“おめでとう”と言った。

「でも、まだ内緒よ。アスランってば照れ屋だから。大学も卒業してないのに、伴侶を決めるってニコラスとかが聞いたら、馬鹿にしそうじゃない?だから、黙ってて。でも、エヴァは、私の相談に乗ってね。」

ツキリと痛んだ胸はアスランへの恋心を自覚させ、失恋の痛みをエヴァに与えたが、あまり辛くなかった。

始めから諦めていたからかなと彼女は思った。


アスランは高校最後のプロムパーティーにエヴァを誘った。

青天の霹靂。

エヴァは信じられなかった。

「リサは知ってるの?」

そう聞いたエヴァにアスランは答えた。

「・・・?もちろん、知っているが・・・。」

しかも、リサも知っているとのことで驚いた。

進む大学は一緒だが、彼とは所詮は幼馴染。

これ以上の思い出作りはないだろう、リサが気を利かせてくれたんだと思った。

誰にも誘われないだろう彼女を救ったつもりだったのだろう。

後で夫人からも頼まれたのだと知った時は、やはりと言う気持ちと思った以上に期待していた分、自己嫌悪に陥ったエヴァであった。


パーティではリサもアスランといないのに、サッカー部のエースと一緒にいて楽しそうだった。

なんだか嫌味も言われたけど、彼女が楽しそうだったからとホッとして、アスランと一緒にいられたことを純粋に喜んでいた。

(本当、いい思い出になった。うん、皆、優しい。)


パーティの帰り道、車の中でアスランは何時まで経っても屋敷への道の途中で車を止めたまま動かなかった。

「アスラン?どうしたの・・・。やっぱり、後悔した?私なんかと一緒に行って。」

「ああ・・・後悔した。」

エヴァの心に針が刺さる。

すっと車窓へと目をやったエヴァはアスランに抱きしめられた。

「ア、アスラン?」

突然のことに驚きを隠せない。

彼の手がエヴァの頬にアスランの手が触れて向かう合う。

綺麗な青い瞳が暗がりの中でも光っているのを知った。

「君が欲しいんだ。エヴァ・・・。」

逆らうことなんかエヴァには出来なかった。


プロムから数日後、エヴァはリサに呼び出されていた。

「私、アスランを許そうと思って。」

最初の言葉がそれだった。

「プロムのことよ。アスラン怒ってたから、私が彼を無視してトビーを誘ったこと。次の日、彼ったら謝りに家まで来てくれたの。愛してるのは私だけだって言ってくれたわ。ごめんね、エヴァ・・・バージン捧げた相手が彼で。でも分かるでしょ?貴方と彼じゃつりあわないって。貴方は田舎で子供相手に教鞭とってる方がお似合いよ?」


初めてを捧げた日の朝、彼はベッドに居なかった。

彼にとって、自分の存在と言うものは、こんな程度の存在なのだと思った。

好きとも、愛しているとも言ってもらった記憶がないことに今更ながら気付いたエヴァは、自分の血で汚してしまった彼のベッドのシーツを剥ぎ取り、新しいシーツを敷きなおしたことを思い出し、また、胸を痛めた。

それでも、彼は誠実な人だ。

だから、きっと何か用事があって私を一人にしたんだと都合のいい事を思っていたことに気付いた。

痛む体を引き摺るように部屋を出て自分の部屋へと向かう。

嬉しいと思う気持ちと悲しくて辛いと思う気持ちがごちゃ混ぜでエヴァは深い眠りを必要としていた。

だから、耳栓をして、部屋の鍵を閉めた。

今日という日は誰にも会いたくなかった。

睡魔に襲われながらもベッドの中で考えた。

居候しているため、いつか彼と顔を合わせなくてはならない。

その時自分はどんな顔をすればいいのだろうか。

でも、結局彼とは顔を合わせていない。

(こんなもんだ、私の存在なんて。)

そう思って、エヴァは自嘲した。


リサが語る真実に胸は張り裂けた。

自分を抱いたその足で、実際はリサの元に行き、彼女を抱いたのだとリサは確信した。


心から血が流れていた。

(泣いてやるもんか。)

リサからアスランの優しさについて、自分の寛容さについて語られた時、エヴァは、どれほどの惨めさが自分を襲っているのかを自覚した。

奨学金とアスランへの思いだけで大学を選んだことを後悔しない日はなかった。

アイザック伯爵家での居候を止めて寮に入ると決めた時も、アスランは何も言わなかった。

それが答えなのだとエヴァは思った。

その頃には田舎に帰って生活をしていたマグリットも娘の寮生活を応援してくれていた。

彼女はエヴァのアスランに対する気持ちを知っていただけに、リサという相手のいる彼に思いを寄せる娘が不憫だった。

だから、彼女が伯爵家から出て寮生活をすると知った時は、ホッとしたものだった。

学部の違う彼達は会う機会もめっきり減ってしまっていた。

リサだけは相変わらず自分とアスランのノロケ話と婚約が間近に迫っていることをエヴァに教えていた。

「おめでとう。」

そう言えた自分を誉めるしかなかった。リサの自慢と会話の中に潜むエヴァへの蔑み。

(リサは、本当に友達?)

何度も頭の中で疑問が湧いた。


某日、伯爵夫人から久しぶりにお茶に誘われ、アスランが家を出て仲間達だけで生活を始めたことを知らされた。

時々あるこのお誘いで、もし自分とばったり会ってしまったらリサが気にするとアスランは思って、家を出たのではないだろうか、そして、仲間達と言っても結局はリサと暮らしていると言うだけなのだろう、エヴァは溜め息を漏らした。



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