現在「17」
「では、リサさん。貴方はアスランさんと結婚の約束を?」
「はい、私達は中学校の時に出会い、恋をしてずっとお互いを認め合い愛し合ってきました。それをあの女が邪魔をして・・・私は優しくして、親友だったと思っていたのに、アスランを誘惑したんです。父が自殺したのだって、アスランがあの女に言われて資金援助を断ったせいだって聞いてます。私達が付き合ってきたこと、結婚の約束をしていたこと、友達に聞いてくれば分かります。」
つらつらと言葉を並べるリサ。
テレビに映っている彼女は常軌を逸した目でカメラを睨みつけている。
彼女の親友と言う女性が同じようにアスランを責めていた。
ああ、彼女は本当におかしいんだ。
その様子に身震いした。
あんな人を親友だと思ってたの?
私は、リサの言葉を信じていた。
信じていたのに・・・。
そっと肩に置かれた手。
不意に顔を上げるとジュリアが優しく微笑んでいた。
「大丈夫、リサのことはアスランが決着をつけるわ。リサは狂ってる。父親の死をあんな簡単に割り切れるなんて・・・。どうかしてるわ、貴方も子供達もきっとアスランは守ってくれる。」
子供達を守るのは私。
あのリサの様子を見ていると彼女は何をするか分からない。
「それと、アスランだけど・・・きっと、リサに何を言われても貴方と話がしたかったと思うの。」
部屋の中には子供達とジュリアだけだった。
「でも、あのリサの常軌を逸した顔付きを見たらまずは、彼女とカタを付けてと思ったんじゃない?ニコラスと飛び出していったわ。」
「・・・。」
ジュリアはニッコリと笑った。
「ところで、今日泊めてもらえないかしら?うちの姫達は完全に落ちてるの。」
そう言えばと周りをみると可愛らしい洋服を着た双子ちゃん達がソファでスヤスヤと寝ていた。
その可愛さに思わず笑顔になってしまう。
「可愛いでしょ?うちの姫達。貴方の王子達も可愛いけどね。」
気が付けば子供はもう寝る時間だ。
ルークもアーサーも大人びたことを言うけど中身は子供、一生懸命目を開けようとしていた。
「ルーク?アーサー?今日は遅いからもう寝なさい。」
けれど、二人は首を振る。
「やだ、母さんと一緒に居る。」
ほんと、可愛い子供達。
そんな子供達の成長を見ることなくアスランは過ごして・・・。
リサと幸せに暮しているのだと思っていた。
だから、私は彼にとって邪魔なだけだと思って・・・。
「エヴァ、貴方も寝なさい。今日は疲れてるはずよ。」
ジュリアの気遣いが嬉しかった。
次の日の朝、
アスランはテレビに出ていた。
連日流れる放送に対しての反論だった。
リサが自分に対して長年、ストーカーをしていたこと。
事務所のオペレーターの話や、大学寮母の話、そして、マクシミリアンが証言しているVTRが流れた。
一晩でここまで出来るんだと思うほどの証拠をアスランは用意していた。
一番、私を驚かせたのは、アスランが私宛に書いた何通もの手紙がリサの部屋で見つかったことだった。
「これは、自殺した子爵に会社の金の横領の容疑がかかっていたと言うことで、彼の自宅に検察の捜査が入った時に押収されたモノの中にありました。令嬢の名前とは違う女性宛の手紙が見つかったということで、これだけでも彼女が私に対してストーカー行為をしていたのが分かるでしょう。子爵が遺書に残していた文言も虚偽であり、ホーク家はアイザック家に取り入ろうとはしていましたが、資金援助などは一切申し込んでいませんでした。それは、以前ホーク家で執事をしていた者からの証言を得ていますし、実際、私も父も彼とはビジネスの話はしたことがありません。」
アスランは、子爵が何かと自分とリサを結婚させようとしていたことは知っていたが、相手にしなかったこと。
自分の愚かな行為で傷付き去っていった恋人を未だに愛していることを全国に向けて言ってのけた。
それって、私のことだと思っていいの?
更にアスランは続けた。
ストーカーとまではいかないが、しつこいリサに嫌気がさしていたアスランは、仕事でも私生活でも彼女を無視することにした。
それで事は解決すると思っていたが、相手にしていなかったことが原因で彼女が悪質な嫌がらせを自分ではなく、ある女性にしていたことが判明した。
その女性は自分が心から愛している女性で、守りたい女性だったが、自分の情けなさとリサの狡猾さに阻まれて傷付けてしまったこと。
全てを正直に話しているように思えた。
「そろそろアスランが来ると思うの。だから、お邪魔虫は帰るわね。」
ジュリアは双子ちゃん達を連れて帰っていった。
私はテレビの前で呆然としている。
そんな私の側にはルークとアーサー・・・。
「母さん、大丈夫?」
見上げる双子を抱きしめる。
「母さん、アスランと仲直りする?」
「そうね、色々誤解していたけど、仲直りはできる気がするわ。」
「じゃ、結婚は?」
言われて戸惑う。
今更な気はする。
けど、父と子を離して過ごさせることはできない。
「母さんの気持ちは?」
「アスランを愛してる?」
私は・・・。
考え込んでいた私達の静寂に蹴り破られるドアの音が響いた。