現在「15」
思わず立ち上がった。
嘘だと叫んだ。
私を見つめる二人の目が、悲しいくらいに真剣で、言葉の続きが出てこなかった。
「リサは、そ、そんな人じゃない。」
ニコラスが書類を提出した。
「これは、リサが事務所のオペレーターに頼んでいた内容をまとめたもの。リサが見返りに彼女の口座に金を振り込んでいたという証拠。そして、君がアスランのものだと信じていた電話番号、住所がこれ。しかし、この番号はリサが契約した番号に他ならないし、住所はリサの家が持つロンドンの別宅のものだ。」
そのプリントに書かれている内容は何の根拠もないことだった。
・エヴァンローズ・アグリットは、アスラン・アイザックの付きまとい行為を繰り返している。
・接近禁止命令が出ているにも関らず、彼に連絡を取ろうとしている。
・偽名を使って電話をかけてくることがあるので注意が必要。〇〇地区方面からの電話には特に注意が必要。
・彼女からの手紙は必ず、処分するか、リサ・ホークに渡すこと。
・アスラン・アイザックを守るための行為であることを忘れないこと。
・上記のことを遂行して貰えるなら、特別手当てを与える。
震える手は書類を握り潰してしまった。
「オペレーターはリサが自分の恋人を守るために必死に行っていることなんだって思ってたと言っていたわ。アスランとの仲は職場が同じであるが故に、皆には内緒なんだって言って、彼女って弁護士並みに言葉が巧みなのよ。で、これと同じようなことを貴方が過ごしていた学生寮の寮母にも頼んでいたみたい。ま、これは逆でアスランが貴方のストーカーって事になっていたみたいだけど。」
ジュリアが調べ上げたことを言った。
「ついでに言うと、貴方を学生の時に苛めていた子達にインタビューしてわかったんだけど、」
大きなため息と少しの間。
エヴァは聞きたくないと本能的に思っていた。
「苛めを先導していたのは、リサよ。あの子は、貴方を逆恨みしてたの。貴族でもないくせに、アイザック家の庇護を受けて、学校にも通えて、アスランの心を手に入れて、あまつさえ両親の仲がいい。自分は満たされていないのに、エヴァが何もかも得て幸せになるのは許せないってね。」
「嘘よ・・・。」
「自分のため、自分の得になることなら、手段を選ばない子だって言ってたわ。アスランに対しては友人を装ってるけど、彼女こそがストーカー。エヴァだけじゃないの。彼に近寄る女の子は皆リサに排除されてたのよ。」
エヴァは自分の体を抱きしめてしゃがみこんだ。
「彼女は、彼が絡まないと・・・ま、いけすかない女だけど、まだ普通。少々仕事が出来なくても、笑って誤魔化される男もいるわ。彼女の妄執に貴方とアスランはガッツリ混乱させられてたのよ。」
ジュリアの言葉。
ニコラスの示した証拠。
エヴァは、子供たちの名前を呼んだ。
彼らを抱きしめたかった。
未だにリサのことは信じられないが、本当のことであるならば、自分は子供達から父親を奪ったことになる。
しかし、家の何処にも双子の男の子達はいなかった。
「何処に行った?」
父親に尋ねられて女の子達はニコニコ笑うばかりだ。
「おーい・・・。」
警察に届けるかどうか、そう思った時、ニコラスが言った。
「もしかして、アスランのところかな?」
「えっ?」
「あの子達は、アスランに真実を確かめるって言ってたんだ。リサは信用できないって言ってね。」
「そ、そんな・・・。」
ジュリアが優しくエヴァの肩に手を置く。
「母親が信頼している人を疑ってるなんて言えないわ。」
見上げた瞳には涙が溜まっていた。
「私は・・・私は、どうすればいいの?」
ジュリアが目線を合わせる。
「アスランに会いましょう。彼の本心を聞かなきゃ。」
電話のベルが鳴った。
エヴァの代わりに出たニコラスが声をかけた。
「双子は、アスランのところだ。」
ビクッと彼女の体が震えた。
思わずジュリアの手を握る。
「エヴァ、君に来て欲しいって。もし駄目ならアスランがこっちに来るって。んー来てもらおう。リサも呼び出して、決着をつけるんだ。」
フルフルと頭を横に振るエヴァ。
「怖がってちゃ駄目。子供達のためにも貴方達のためにも。」
深呼吸を数回。
「ニコラス、アスランに来て欲しいと伝えて。子供達を連れて・・・住所は・・・。」
「大丈夫だ。知ってるってさ。」
受話器が静かに置かれた。