現在「13」
流れる街並みを横目に双子は思案顔だった。
ニコラスと話してみて自分達が今まで抱いていた父親に対する考えが揺らいだからだ。
今日ニコラスと一緒に来ていた双子の女の子達も
『アスランおじちゃんは、優しいよ。』
と言っていた。
他人の子には優しくても自分の子には冷たい男なんだと考えを変えようと思っても、心の何処かで求める父親という存在が、自分達を揺さぶっていた。
「ルーク、ボクね。田舎に居る時さ、どうしてボク達には父さんがいないんだろうって、思ってた。」
「うん、母さんには聞けなかったね。」
同じ年頃の子供達が父親に甘えて肩車やサッカーをしているのを見ると胸の奥がキュンと痛んだ。
痛んだけれど、エヴァや祖父母が懸命に父親の代わりとして頑張ってくれてたのも知っている。
彼女達の行為が決して無理矢理ではないことも理解してたし、一緒に遊んでくれることは本当に嬉しかった。
「じいちゃんは、ちょっと無理してたよね。」
田舎でのんびり暮していた祖父母。
特に祖父は余り体が丈夫ではなかった。
二人はため息を吐く。
「兎に角、会ってあいつの気持ちとか確かめよ?」
「うん、ボク達のことをイヤでも、母さんには謝らせよ?」
指定の停留所で降りた双子は、地図を片手に歩いた。
ロンドンの少し郊外。
一軒一軒の間が広い。
長い岩壁を伝って歩いていくと大きな門が見えた。
門の前には、人が立っている。
「見張りがいるね、」
「入れてもらえるかな。」
自分の父親とされる人の実家がこれほど大きいとは思っていなかった二人。
とりあえず勇気を出して門番の大男に声をかけた。
「あの・・・。」
見下ろす男は、銀髪の天使のような男の子二人に目を丸くした。
「伯爵はいますか?」
「今日はお仕事はお休みだと伺ったんです。」
子供らしからぬ丁寧な言葉で尋ねる。
「伯爵?アスラン様かい?」
そう尋ねた男は、双子が家の主であるアスランによく似ていることにドキドキした。
「うん、ボク達、その人の子供らしいんだ。」
時折、アスランに会わせろと屋敷に乗り込もうとする女は何人も居た。
事実無根だが、子供が出来たとか色々な理由を述べて。
そのほとんどは彼女達の勘違い、妄想の賜物で、仕事で彼の手腕にやり込められた者の関係者が八つ当たり的にやってくることもあった。
しかし、子供がそんなことを言ってくるとは。
キラキラ光る子供の目には一点の曇りもない。
かといって、ここをすんなり通すわけにも行かなかった。
ブッブー!
車のクラクションが鳴った。
門番はハッとなり、前方を見た。
そこには、黒と青色のミニクーパー。
「どうしたの?エリック。」
優しい声がかかった。
運転手側の車窓を開けて顔を覗かせたのは、プラチナブロンドの美人だった。
年齢は祖母と同じ頃だろうが、随分と若く双子の目には映っていた。
「いえ、あ、あの・・・。」
駆け寄って夫人に子供たちのことを伝えるエリック。
「何ですって?またなの?」
呆れた口調の夫人ではあったが、身を乗り出して目にした双子の姿に呆然としていた。
「・・・なるほど、あれじゃあ、エリックが焦るのも無理ないわね。アスランの子供時代にそっくりだもの。」
夫人は車から降りて双子の前にしゃがんだ。
「こんにちは。」
「「こんにちは。」」
ジッと見つめてくる夫人。
双子は自然と手を握り合っていた。
「貴方達、私の親友に何処か似てるわね・・・。」
すっかり会うこともなくなってしまった愛しい友が夫人の脳裏に浮かんだ。
彼女もこんな緑の瞳をしていた。
「ボクは、ルーク。」
「ボクは、アーサー・・・アーサー・アグウッド。」
苗字を口にした途端、夫人の目が真剣な色合いを見せていた。
「ボク達は、エヴァンローズ・アグウッドの子供です。」
「父親は、たぶん、貴方の息子さんです。」
言葉が終わった途端、夫人は彼らを抱きしめた。
「な、何てこと!何て事なの!!孫が、孫がいたなんてっ!!エリック!主人に連絡して頂戴!今日はアスランとポロに行っているはずなの!もちろん、アスランもよ。あぁ、でも!この子達のことはまだ伏せてて頂戴。」
早口で命令を下した夫人は、少々呆気に取られている双子を尻目に、車のドアを開けて中へと促した。
「ルーク、アーサーどうぞ。」
この人には歓迎されているらしい。
けれど、父親と祖父はどうだろう。
双子は僅かな期待と絶望への心構えを抱きながら車に乗り込んだ。




