現在「11」
「母さんは、あのリサって女のことを一から十まで信じてる。」
「小さい頃に、唯一優しくしてくれたのがあのリサって女だったから、信頼してるっていうんだけど。ボク達には彼女が胡散臭くてたまらない。」
まだ7歳。
自分の娘達と同じ年頃である彼等が“胡散臭い”などと言う言葉を言うことにニコラスは苦笑した。
「あんな頭の悪そうな女が母さんの親友なんてボク達はイヤなんだ。だから、リサって女とアスランって男がどういう関係で、母さんがアスランって男に連絡を取ろうとしてたのは知ってるけど、どうしてあの男は母さんに会おうとしなかったんだろうって。」
「母さんほど可愛い人はいないのに。あの男は見る目がないんだって分かってるけど、」
幼いながら母親が何度も彼らのことをアスランに知らせようとしていたことを彼等は知っていたという。
双子達はエヴァが何回も連絡を取ろうとしていた俺達の事務所の連絡先というものをメモしていた。
彼等はそれを俺に見せる。
「ボク達ってさ、かなり小さい頃から大人の言ってる意味が分かってたんだ。だから、母さんやグランマ、グランパが真剣に話をしている横でルークとよく遊んでるフリして聞き耳立ててた。」
うちの子は天才って訳じゃないけれど、夫婦間の真剣な会話は出来たら彼女達のいないところでしようと思った。
「グランマに言ってたけど、それはリサが教えてくれたアスランへの直通電話の番号だって。一度法律事務所に連絡を入れた時は、アポイントメントがないってことで繋いでもらえなかったらしいんだ。で、相談者を装って電話をした時も結局は取り次いでもらえなかったから、リサって女に教えてもらったんだけど、あの男は出なかったんだって。留守電ばっかりでもう諦めたって。」
「グランマは、一度アスランって男の実家に足を運んで様子を伺ってみたけど、アスランって男もそのお母さんもボク達のことなんか話題にも出さなかったって。向こうが話さないのなら、わざわざ話をすることもないってグランマは思ったらしいよ。」
憤りを通り越して呆れた。
なんだ、エヴァちゃんは連絡を取ろうと頑張ってたのか。
それが、何回も駄目だったから、諦めた・・・と。
それに双子の祖母が訪ねたと言う実家。
アスランがいつか言ってなかったか、エヴァの母親が来たって。
彼女を辛い目に合わせて申し訳なさ過ぎて話題にも出せず、仕事を理由に早々に席を立ったって。
俺は頭を押さえた。
なんてヘタレなんだ、アスラン。
お前、あれほど法廷では切れるヤツなのに、なんだ?そのエヴァに対する対応の甘さは・・・。
情けなさ過ぎてたまらない。
そういやぁ、昔から色恋沙汰には呆れるほど疎いヤツだったけど。
本当の気持ちを伝えることもしてないなんて・・・。
大きなため息に双子もため息を吐く。
「兎に角、ボク達は母さんの味方だから、ニコラスがどっちに付くか知らないけど、邪魔したら只じゃおかないからね!」
これまた幼子とは思えない脅しを受けた俺。
アスラン直通と言う電話番号に目を通す。
頭はよくてもまだ子供、数字は拙い文字で書かれてあった。
けど、これってアスランの直通の番号でもないし・・・なんの直通だ?
後で掛けてみることにした。
エヴァとアスランの間は確かな愛情という空気が流れていたと思った。
それを本人達が自覚してないことに高校、大学時代は面白がって見ていたが、別れることになるほどに拗れているとは思っていなかった。
自分はアスランの親友で、彼の情けない悩みも聞いていたが、年頃の自分としては、親友のことよりもジュリアを手に入れることと勉学の両立に忙しく、自分のことくらいしっかりしろと言っただけで彼等とはあまり関らなかった。
「・・・」
ジュリアと俺の間にリサが波風を立ててきたこともあったな。
あれほどあからさまにアスランとエヴァの間に入ってきて、彼女面をしていたくせに、少しアスランに冷たくされると自分に粉を掛けてきた。
その経緯を知っているジュリアはリサが大嫌いで、就職してまで一緒の場所に彼女がいることが信じられなかった。
「いつか追い出してやる。最近になってやっとアスランがあの子の無能さに呆れてきたから。」
そう、アスランの秘書をしているリサだけど、基本アスランは秘書を必要としない。
自分で何でもしてしまうからリサにとっては本当仕事なんて電話番だけだったんだ。
近頃の彼女は注意力が以前より散漫で、アスランの大事な仕事の電話を取りつがなかった。
あの時のアスランの珍しいまでの怒り心頭状態にリサは震え上がって事務所を出て行ったんだ。
っていうかまだ仕事の時間だってーのに、出て行くもんだからアスランは余計に怒ってたな。
もう、辞めさせるって。
ん?
彼女の仕事は何だっけ?
名前だけのアスラン秘書。
けど、その実態は?
アスランに関する電話、手紙、メールの管理じゃなかったっけ?
大きく天を仰ぐ。
変なところで知恵の働く女だったはずだ。
ある意味純情で天然なアスランは、すっかり彼女の手の内だったってことか。
にしても情けなさ過ぎだ。




