現在「10」
手切れ金を持ってきたリサが田舎にやって来た時、生まれる子を彼女が私の代わりに育てると言い出した時は驚いた。
「子供には、両親が揃っている方がいいと私は思うの。」
そう言われた時の胸の痛み。
でも渡すわけにはいかなかった。
この子達は私の命だもの。
それはできないと言った時の彼女の顔を思い出す。
悲しみと憎しみの混じったような顔。
憎まれても仕方ないことを私はしてしまった。
その後暫くリサは連絡をくれなかったし、私もしなかった。
「母さん?」
声を掛けられて我に返った。
目を向けると不安そうな子供達。
だめ、だめ。
この子達に心配なんかさせちゃ駄目。
「何?アーサー。」
双子のこの子達を一度で見分けることが出来るのはきっと私だけ。
それが私の自慢だ。
「お客さんみたいだよ。」
休日の朝に尋ねてくる人なんかいたかしら?
扉を開けると懐かしい顔が立っていた。
「やあ、エヴァちゃん。」
懐かしい声。
「ニ、ニコラス・・・。ど、どうして。」
彼の近くに居るはずの人。
親友。
そして、彼と同じ人種に違いない人。
「アスランに聞いた。君がこっちに戻ってきてるって。」
私のことなんかあの人が話題に出すかしら。
「アスランに頼まれたの?様子を見て来いって・・・。」
まさかね、彼には彼の生活があるんだもの。
「ちがう、ちがう。気になったんだ。君は俺達がこっちに帰って来たときには消えてたから。」
ふと戸口に目をやると茶色のショートカットの目を引く女性と双子達と同じ年頃の女の子2人が立っていた。
「覚えてるかい?あの頃から付き合ってたジュリアだよ、横にいるのは、俺達の天使。」
よく似ている女の子2人。
「もしかして、双子?」
そう言うと彼の顔がにこっと人懐こい昔に戻っていた。
「まぁ、私の子供も双子なのよ!入って、入って!散らかってるけど!」
同じ双子の親だと分かった途端、親しげになってしまった私を呆れてないかしら。
手招きして奥さんと本当に可愛らしい女の子達と彼は家に入ってきた。
女の子の双子って、着るものとか拘ったら楽しそう!!
我ながら暢気だわ。
さて、我が家の双子達は自分以外の双子を見るのは初めてのはず、どういう反応かしら。
案の定と言うか、突然のニコラス親子の登場に我が家の双子達はやや興奮気味だった。
「「同じ顔がある。」」
お互いに同じことを言って私達を和ませてくれた。
「・・・この子達が君の子供?」
ハッとなり、彼と奥さんを見る。
2人は驚いた顔をしていた。
ニコラスは昔から優しかったけど、ジュリアとはあまり話したことはなかった。
でも話をしていくうちに、彼女はあっさり、きっぱりした好感の持てる人だと思った。
暫く双子を育てる苦労とかを笑い話を交えて話した後、ジュリアが一番触れて欲しくない所に触れてきた。
「ねえ、エヴァ。こんなことを聞いたら駄目だと分かってるんだけど・・・。父親はアスランね?」
ジュリアの目は嘘は許さないと言っているようだった。
さすが、夫婦で弁護士をしているだけあって、追求の手は緩めないつもりなのね。
「・・・やっぱり、分かる?」
「当り前よ、どれだけ私達がアスランと顔を合わせていると思っているの?」
少し大袈裟なリアクションの彼女は続けた。
「貴方と会った日から、アスランの様子が変なのは仕方ないとしても、彼、・・・あの子達を自分の子供だって知らないんじゃないの?」
本当はっきり言う人だわ。
「そうなのね・・・言うべきよ、ちゃんと一緒に暮すとか、結婚とかは別にしても、彼にも父親の責任は果たさせるべきだと思うわ。」
大きなため息が出た。
何度も彼には知らせた。
けれど、返事はなくて、尋ねてきたのはリサだった。
「彼は、子供達に関りたくないってことをハッキリ伝えてきたのよ。手切れ金と一緒に。」
そう述べた私にジュリアは目を見開き、悪態を吐いた。