現在「9」
父子対決は保留
いつもの朝。
子供と私のための朝食を作る。
彼等の好きなフルーツも忘れない食卓は今日も賑やかに始まった。
田舎から出てきて早、2週間は過ぎた。
子供と言うのは順応が早いと本当に思う。
祖父母がいて、穏やかだった田舎の生活は忘れてしまっているようだ。
このロンドンの空気を吸っていると、アスランとの過去を思い出してしまう。
リサが居なければきっと私の心は壊れていた青春時代。
彼のことが好きで、でも好きになってはいけないんだと思っていた。
だって、彼は私の唯一の親友リサの彼氏。
もし、リサがいなかったら、幼い頃のように素直な心で彼に向かい合っていただろうか。
「イヤだわ、私ったら。」
仮定の話をしても仕方ないわね。
年頃になると母さんは、私と彼が近付くのをよしとしなかった。
母さんの時代とは違う。
アスランは、身分なんか気にしない人だと何回も言ったけど、母さんが語る昔話を聞いていると悲しくなって友達以上の仲になることに反対する気持ちも分かった。
彼が私にした行為の本当の意味は分からない。
ただ、この子達を授かったことは私にとって幸せなことだと思う。
アスランに似ている顔、仕草。
見ていると辛い時もあるけど、後悔なんてしていない。
リサから手切れ金として渡されたお金もちゃんと返さなきゃ。
貰っておけばいいのよと彼女は言ったけど、これは私のプライドだった。
私が思っていたアスランと実際の彼との差。
優しい言葉を信じていたら、突き落とされる。
その繰り返しとギャップを慰めてくれたのもリサだ。
アスランはどうしてそんなことができるのかと思うほど冷たい印象を私に与える時がある。
あの優しかったアスランは、遠い過去なんだと今更ながら思ってしまう。
いつからだろう、2人の関係がおかしくなったのは。
何度も彼と向き合おうとして避けられていることに気付いた。
私の方を見ない彼、向き合っても口元を隠して感情を抑えているようだった。
彼に嫌われていると感じたのに、彼は卒業パーティに誘ってくれたんだ。
嘘みたいに嬉しい夜だった。
リサが怒っているのは分かったけど、最初で最後のわがままだから、ゆるして欲しいと言おうとしたら、リサがアスランに頼んでくれたことだった。
好きじゃなくても男は女を抱けるんだと思ったのもそのパーティの後だった。
彼は変わってしまった。
変貌は、アスランに愛する人が出来た頃と重なった。
そう思うのは、私の嫉妬心だろうか。
昔を思い、ジュニアハイスクール時代の彼とリサの姿が頭をよぎった。
苛めから助けてくれたリサはいい人だと思う。
だから、彼の心が変わってしまったのなら、それは彼のせいで、リサには関係ないことだ。
それなのに、彼女は私のために泣いてくれるんだ。
いつも優しく。
目を引く美人のリサは、私とアスランの仲が修復不能になっても私の親友として連絡をくれた。
私の代わりに泣いてくれたもした。
「エヴァに酷いことをしたアスランを許せないの。けれど、愛してるの・・・。許して、エヴァ。」
涙ながらの彼女の告白を私は受け止めたんだ。
アスランは酷い男だった。
それでいい。
そう、それで。