過去「1」
エヴァの両親はアイザック伯爵家に雇われていた。
身分など気にしない伯爵は自分の子供達とエヴァが仲良くなっても何も言わなかった。
気にしてたのは彼女の両親の方で、特に子供達の家庭教師であった母親のマグリットはよい顔をせず成長するに従ってその度合いは強くなった。
女の子供がいなかったアイザック伯爵夫人は身分が違うとマグリットが何回も言ったが、逆に何時の時代の話だと笑ってマグリットの考えを払いのけた。
夫人にとって、マグリットは大切な幼馴染である。
身分が違うと引き気味の彼女に泣きながら友達になってと頼んだのは小学校の頃だ。
出会った時から夫人はマグリットの美しさと優しさ、そして聡明さに憧れを抱き、大好きだと公言していた。
マグリットの両親は、スワローテイル伯爵令嬢として幼い頃より、息子の婚約者であった夫人の涙には弱く、マグリットを常に側に置くと約束することで泣き止ませた。
お互いに惹かれあい、親友となっても世間の目は冷たく、マグリットは嫌味や陰険な悪戯をしてくる人達と影ながら戦っていた。
彼女を通じて、令嬢に近付こうとする男に騙されて痛い目にあったこともあった。
そんな過去もあり、娘には平穏な生活を送って欲しかった。
ましてや夫人の子供は男の子である。
夫人のことも結婚した先のアイザック家の当主も良い人だと分かっているし、信じているが、何か間違いがあって、責められるのはこちらだとも思っていた。
娘に辛い思いをさせたくなかった。
しかし、そんなマグリットの気持ちを察していながら、馬鹿馬鹿しいと考えていた夫人は、幼馴染みの親友であるマグリットの娘エヴァは将来的に長男のアスランと結婚すれば嬉しいとさえ思っていた。
アスランは彼女にとって同い年でありながら優しい、兄のような存在で、何故母の言うように仲良くしてはいけないのか分からなかった。
エヴァは頭の良い子だった。
アスランも良く出来る子供だったが、それ以上にエヴァは知能が高く、都会でよい教育を受けるべきだとマグリットと夫は、伯爵夫妻に説得され、エヴァは王都の伯爵家に居候することになった。
しかし、夫人の計らいで同じ学校に通うようになって彼が自分とは違う世界の住人だと分かってきた。
一緒にいることで随分とイヤミや悪口を言われた。
良家の令嬢や令息と言われる人達に突き飛ばされたこともあった。
怪我を負って帰ってきたことにアスランが気付くと、それ以来彼らは何も仕掛けてこなくなった。
アスランは自分を守ってくれていると考えるとエヴァは嬉しくて心が温かくなった。
けれど、彼が優しいのは自分だけだはないのだと学園生活を送る中で悟っていった。
自分が彼にとってどういう存在であるのか悩みはじめたエヴァだったが、教師を目指すという自分の夢は揺らぐことはなかった。
エヴァが初めての恋心に気付いた時、アスランには将来弁護士になると言う同じ目標を持つ仲間達がいた。
アイザック伯爵曰く、“子供の集まりではあるが油断すると年若い弁護士など痛い目に合うだろう。”と言うほどに頭のよい、集団だった。
アスランと違って若者らしい表情を見せる彼らはエヴァにも優しかったが、紅一点のリサだけはいつも目が笑っておらず時々居候中のエヴァの部屋に来てはアスランがどれだけ優しく自分に接してくれるのか、将来を楽しみにしていることを述べていった。
リサは由緒正しい貴族の娘で頭も良く、人の輪の中心にいる目立つ存在だ。
野心家である彼女は弁護士という職業に興味はなかったが、ジュニアハイスクール時代に家で開かれた晩餐会でアスランを見てから彼ほど自分にふさわしい相手はいないと考えていた。
彼女の父親もアイザック伯爵家の後継者なら申し分ないと判断した。
彼を手に入れるため、望んだ未来を手に入れるためにアスラン達の仲間に入ったのだ。
幸いにもその中には幼馴染みが居たため入りやすかったのだ。
しかし、その輪の中に入りはしないが、アスランの側には邪魔なエヴァがいた。
聞くところによると貴族でも、資産家の娘でもなかった。
ただ頭の良い、勉強しかしたことない、面白みにかける女。
しかも、アイザック家に居候しており、夫人に気に入られているという。
リサは、エヴァを排除するためなら何だってするつもりだった。
つづく