現在「6」
綺麗に整頓されたオフィスだと子供達は思った。
休みの日だから静かだが、普段は自分の仕事に誇りを持って働く大人達が忙しくこの廊下を歩いているのだろうと子供達はキョロキョロした。
「おじさんは、休みの日に何してたの?」
にっこりとルークが笑うとニコラスはハッとした。
その笑顔を自分はやはり知っていると思ったからだ。
「明後日の法廷で使う資料の整頓?本当は、家でのんびりしたかったんだがな、同僚が風邪で寝込んだから、ピンチヒッターって訳だ。」
ニコラスの部屋も整頓はされていたが、数多くの資料が積まれていた。
「これ、まとめるの?」
「分析するの?」
「アナログな資料だから、こっちに入れるんだよね。」
子供達の興味は主旨から外れているようだったが、ニコラスの警戒を解くには丁度良かった。
「弁護士さんって、何人いるの?」
「この会社って、大きい方?」
「おじさんは、何が専門なの?」
「裁判に負けたことはあるの?」
「勝率は?」
矢継ぎ早な質問にニコラスは苦笑しながら、自分の子供もそうだと頬を緩ませた。
「お前等、親友に似てるだけあって、追及が凄いな。」
ジャクソンは双子がニコラスの相手をしている間に色々と物色していた。
「ねえ、おじさん。」
彼の声で振り返ったニコラスはギョッとした。
「これ、なあに?」
彼が持っているものは、レースのハンカチーフ。
とても男仕様とは考えられないものだ。
「ちょっと古い感じだよね~。」
双子もジャクソンの側に行き、ソレを見つめた。
ハンカチは、綺麗にアイロン付けされて、大切そうにビニールに入っていた。
「あ~ワイフのだ。」
にっこりと笑うニコラスにジャクソンはニヤッと笑った。
振り向くと双子もニヤッとその愛らしい顔に似合わず、腹黒いものに見えた。
「え~?奥さんって、キャサリンさんじゃないの?」
アーサーが写真立てを持って、その写真に書かれた“キャサリン”の愛称“キャシー”の文字を指差して言う。
ニコラスはギクッとした。
「もしかして、初恋の人のだったりする?」
ニコラスは引きつった笑顔を見せる。
「何のことかな?坊や達。」
「ふ~ん、じゃあ、奥さんに聞いてみようか、ジャクソン。」
ジャクソンが左手に持っているものにニコラスはギョッとする。
それは、自分の受話器だった。
「この、ガキ共!!」
怒りだそうとするニコラスにルークが静かに言った。
「本当は、誰にも見つからず去るつもりだったんだ。けど、おじさんに見つかったから・・・協力してもらいたくて。」
「ボク達、変に頭が回るから、許してよ、おじさん。奥さんには黙っておくからさ。」
ニコラスが呆然とその言葉を聞いていた。
「・・・お前達、何の目的で、ここにきたんだ?」
アーサーはニコラスの家族写真を元の位置に戻して、違う写真を手に取った。
「この人のこと、聞かせて。」
指差したのは、彼にとっての古くからの親友。
出会った時から彼のことを思い出していた。
幼い頃の写真も見たことがあったじゃないかと自分の額を押さえる。
目を瞑りもう一度親友の顔を浮かべ、いつも彼が見つめていた1人の娘のことも思い出した。
ハッとなり顔を挙げ、写真に写る親友と双子達を見比べた。
高校からずっと一緒だった、同じ職場で働いてもいる、銀の髪に青い目。
「お前等・・・。」
その見つめる瞳の輝きに言葉を無くすニコラスだった。